近年、公認会計士に対しては監査業務だけでなく会計に関した助言など、多様な会計サービスの提供が社会から求められています。そこで会計監査法人では、監査部門に加えて、アドバイザリー部門も立ち上げられてきました。本記事では、アドバイザリー業務について解説します。アドバイザリー業務に興味がある方は必見です。
監査法人は、公認会計士によって組織された法人です。監査法人の主な業務は、企業の会計処理や決算内容が適切かどうかを、第三者の立場から客観的にチェックする監査証明業務です。その他には非監査証明業務といって監査以外の業務もあります。その非監査証明業務の一つにアドバイザリー業務が位置づけられています。
公認会計士法では、監査法人の役割は以下のように定義されています。
「この法律において「監査法人」とは、次条第一項の業務を組織的に行うことを目的として、この法律に基づき設立された法人をいう(公認会計士法第一条3項)」。ここで言われている「次条第一項の業務」とは、「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること」(第二条1項)です。他の業務としては、「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずること(第二条2項)」もあります。
監査法人で働く公認会計士の業務については、公認会計士法第2条が定めており、この規定との関係から、監査証明業務を「1項業務」といい、非監査証明業務を「2項業務」と呼ぶのが一般的です。監査証明業務は、公認会計士のみに与えられた独占・専属業務とされていますが、アドバイザリー業務などの非監査証明業務は公認会計士以外の人もすることが可能です。
したがって、監査法人によるアドバイザリー業務とは、この2項業務を指すのが一般的です。
次にアドバイザリー業務と会計コンサルティング業務の違いについて解説していきます。
監査法人によるアドバイザリー業務としては企業のリスク管理であったり内部統制がメインになってきます。
具体的には企業の経営課題を解決するために会計的視点からアドバイスをします。
ちなみに監査証明業務を担当している企業に対してアドバイザリー業務を提供することは禁止されています。
事業活動が、多様化、複雑化、国際化を遂げるにしたがって、会計を巡る制度も精緻化、高度化し、これらに対応した専門的な知識や実践的な技能が必要となっています。会社その他の経済活動の主体が、積極的な事業活動を展開し、効率的に目的を遂行し、競争力を発揮していくためには、財務情報の迅速かつ適切な認識、適正な財務書類の作成、作成された財務書類の分析、経営計画への反映等に関する専門的な知識や技能が不可欠です。
このようなサービスを提供する業務については、必ずしも特定の資格や要件がなければいけないものではありませんが、公認会計士の持つ高度な会計知識はアドバイザリー業務で大いに活かされるでしょう。
監査法人で働く公認会計士は高度な専門知識を持った専門家です。そうした専門家であれば、企業経営に関して経営者にアドバイスをしたりすることができます。高度な専門知識を有した公認会計士が多く所属する監査法人は、経営に関する様々なアドバイスを行なうことができます。しかも、1人の公認会計士がアドバイスをするのではなく、複数の公認会計士がチームとしてアドバイザリーサービスを提供することもできます。上記で説明したようなニーズがあることから、監査法人は監査部門とは別にアドバイザリー部門も立ち上げているのです。
以下では、監査法人による具体的なアドバイザリーサービスについて説明していきます。
「調製」(compilation)とは、監査又は証明とは異なり、財務諸表に関して意見や保証を表明するものではなく、会計基準等に準拠して修正等を行いつつ、財務諸表という形式で情報を提供するものであるとされます。いわゆる財務書類の作成をいいます。アドバイザリー業務として、この業務は、財務会計アドバイザリー業務や会計アドバイザリー業務と呼ばれることもあります。
「財務に関する調査」とは、営業の譲渡、合併、融資等にあたって会社の収益力、現物出資の財産価値等を評価し決定するための調査、融資にあたっての信用力の分析等、さまざまな場合が含まれます。「財務に関する立案」とは、帳簿や経理の組織の立案、原価計算や内部監査組織の立案、会計組織の立案等をいいます。こうした業務も、監査法人のアドバイザリー業務の一部です。
例えば、会社等の顧問弁護士が法律問題についての相談に応じることと同様に、公認会計士は、財務に関する課題や疑問についての助言と指導を与え、会計の実務を助ける職能を有しています。この場合の助言や指導は、単に財務計算の分野にとどまらないとされ、例えば、資金の調達や管理等の広範な範囲にわたるものとして幅広く解されます。
公認会計士法の規定によるものではありませんが、税理士法の規定によって、公認会計士には税理士となる資格が与えられています。したがって、公認会計士も税理士会に入会することで、税務代理、税務書類の作成、税務相談等の税理士業務を行なうことができます。監査法人では、税理士会に入会している会計士が、税務代理・税務署類の作成、税務相談等をアドバイザリー業務として行っています。
監査法人は、監査業務を生業とする公認会計士が監査サービスを提供する組織です。そのため、監査法人にとって、アドバイザリー業務は、組織に目的に照らして付随的業務であると考えることができます。
アドバイザリー業務を行う監査法人で働く公認会計士にとって、アドバイザリー業務は、クライアントの課題を専門家として解決していく業務なので、自分自身で業務の成果を実感しやすいですし、直接的にクライアントから感謝されるので、とても魅力的な仕事であると言えます。
簡単に言えば、クライアントの困っていることを一緒に解決するための業務がアドバイザリー業務ですから、公認会計士にとっても、そのやりがいも大変大きいと言えます。
また、アドバイザリー業務では、様々な分野の専門家とチームを組んで業務を提供することが多く、自分とは異なる視点や専門分野を持つメンバーと働くことになります。その点も、公認会計士にとってはアドバイザリー業務を行なう魅力となっています。
ただし、監査法人は、監査業務が主な業務であり、同じクライアントに対して、アドバイザリー業務と監査業務を同時に提供することはできません。アドバイザリー業務と監査業務の同時提供は、国際的にも問題となっており、まだ完全に解決しているわけではありません。アドバイザリー業務である2項業務と監査業務である1項業務が禁止されているのは、次のように明示されています。
「この業務制限(アドバイザリー業務と監査業務の同時提供の禁止)は、監査証明業務の信頼性を確保するため、自己監査及び監査人の経営判断への関与を防止する観点から、公認会計士又は監査法人等(公認会計士又は監査法人等が実質的に支配する子会社及び関連会社等を含む。)が、15年改正法第24条の2に規定される大会社等に対して監査証明業務と特定の非監査証明業務を同時に提供することを禁止しようとするものである。」出典:大会社等監査における非監査証明業務について
さらに、アドバイザリー業務(非監査証明業務)については、公認会計士法施行規則(以下「施行規則」という。)第6条に次のとおり規定されています。
①会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務 ②財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務 ③現物出資その他これに準ずるものに係る財産の証明又は鑑定評価に関する業務 ④保険数理に関する業務 ⑤内部監査の外部委託に関する業務 ⑥上記のほか、監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務又は被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務 出典:公認会計士法施行規則 第6条
①〜⑥の禁止業務は、米国企業改革法による規制業務を踏まえたものです。このうち、①から④までの業務は、財務諸表の作成者としての立場の業務であるから主として自己監査の防止の観点から禁止されているものです。また、上記⑤の業務は、主として経営者から独立した立場であるべき外部監査人が経営判断に関わることを防止する観点から禁止されています。さらに、業務の多様化等に個別的に対応して禁止業務を限定的に列挙することは困難と考えられるので、包括的な禁止規定が施行規則第6条第6号として設けられています。
監査法人によるアドバイザリー業務は、監査法人で働く公認会計士の専門性の高さを生かした業務です。そのため、社会のニーズに応じて様々なアドバイザリー業務が提供されています。この記事で示してきたアドバイザリー業務はほんの一例に過ぎません。それぞれの会社で困っていることに対して、専門性の高さを生かしてサービスを提供することが監査法人、ひいては公認会計士には求められています。アドバイザリー業務をするのに必ずしも公認会計士の資格は必要ありませんが、公認会計士に期待されているその役割は年々増えていると考えることができます。