会計や経理に特化した資格として広く知られている公認会計士と簿記ですが、実はそれぞれの違いについて明確に理解できている方はあまり多くないのではないでしょうか?
今回は、公認会計士と簿記の関係性や、それぞれの試験の特徴と違い、転職に活かすならどちらがおすすめかについて詳しくご説明します!
公認会計士を目指している方で、簿記を取得した方が良いのではと悩まれている方も多いのではないでしょうか?
結論からお伝えすると、簿記を持っていなくても公認会計士なることは可能です。
公認会計士試験には受験資格がないため、簿記を持っていない方でも公認会計士試験を受験することができ、試験に合格をした後に実務補修など複数のステップをクリアすれば公認会計士になることができます。そのため、公認会計士のみを目指している方にとっては簿記を取得する必要はありませんが、希望の職種などによっては簿記が有利な場合や、必須な場合があります。
ここからは、公認会計士と簿記の特徴や違い、実際に必要な勉強時間やどこで活かせるのかについて見ていきましょう。
そもそも、公認会計士と簿記はどこで活かせるのでしょうか?それぞれの資格を持っていることで活躍できる職種や、主な業務内容を見ていきましょう。
公認会計士(会計士)の主な仕事は監査証明です。
監査証明とは、企業が日頃の業務や会計、経営を行う上で、法律や規定をきちんと守っているかを、第三者の立場からチェックし、必要に応じて企業に対し忠告や指導をする業務です。
この監査証明は公認会計士の独占業務であるため、公認会計士資格を持っていなければ行うことができません。
公認会計士の資格取得後の主なキャリアとしては、監査法人への就職を選択する方が約9割以上であるといわれています。
監査法人で一定のキャリアを積み上げた後の選択肢としては、税務や経営のコンサルティングファームや、一般企業の経理・会計部門など幅広いキャリアパスを選択できます。
さらに、独立・開業して、会計事務所を個人で立ち上げるという方もいらっしゃいます。
一方で、簿記とは企業経営において日々のお金の動きを記録する作業を指します。お金の流れを日次で記録することで、その企業の財政状態や経営状況を明らかにすることを目的としています。簿記は難易度や知識レベルに応じて3級から1級まであり、その中でも1級は最高位の資格です。
簿記については、試験に合格することで取得者を名乗ることはできますが、簿記に関する独占業務はありません。
簿記1級の取得には、複数の事業や子会社を持つ大企業や、海外に支店がある企業の複雑な会計処理に対応できるだけでなく、企業の会計に関する法規の理解も求められるため、経営管理や経営分析など、より経営者に近いスキルが必要です。
そのため、簿記1級を取得していれば、一般企業の経理・会計業務はもちろん、企業の経営分析や財務管理など、難易度の高い業務にも対応可能なため、高度な会計処理や技能が求められる大手企業や税理士法人へ転職を希望する場合は、簿記1級の取得はかなりのアピールポイントとなります。
簿記2級は、企業の会計に関しての実務的な基礎知識が中心となります。
具体的には商業簿記と工業簿記の2種類の科目に分かれており、売掛金と買掛金や決算処理など企業の売買活動における会計処理と、材料費や労務費などの製造活動における会計処理の、大きく2種類の会計処理知識を必要とされます。
主に、一般企業の経理職への転職を検討している方には必須と言っても過言ではないほど、簿記2級の有無は重要視されるポイントになります。
また、1級と比べても比較的取得しやすく、会計知識全般を網羅的に習得することができるため、公認会計士のファーストステップとして取得を目指す方もいらっしゃいます。
簿記3級は会計の入門編のような立ち位置で、商業簿記の内容のみを扱います。
そのため取得の難易度も比較的易しく、経理の基礎的な知識が求められます。簿記2級ほどの効力は望めませんが、就職や転職において経理の基礎知識があることをアピールできる資格でもあるため、基本スキルとして取得を目指す方も多くいらっしゃいます。
公認会計士と簿記の特徴や活かせる業務内容についてわかったところで、次に具体的な試験制度の違いや学習範囲の違いについて詳しくご紹介します。
試験の特徴 | 公認会計士 | 簿記1級 | 簿記2級 | 簿記3級 |
---|---|---|---|---|
試験方式 |
1次試験:短答式試験
2次試験:論文式試験 |
1回の試験のみ
|
1回の試験のみ
|
1回の試験のみ
|
科目 |
短答式試験:管理会計論、財務会計論、監査論、企業法
論文式試験:会計学、監査論、租税法、企業法、選択科目 |
商業簿記、工業簿記、会計学、原価計算
|
商業簿記、工業簿記
|
商業簿記
|
合格率 |
8~10%
|
8~10%
|
15~30%
|
40~50%
|
勉強時間 |
3000~4000時間
|
800~1000時間
|
150~300時間 |
50~100時間
|
公認会計士試験は、1次試験の短答式試験と2次試験の論文式試験の2つの試験から構成されています。
この2つの試験に合格することで資格の取得が可能となります。
またこうした試験の合格後には、実務補習及び実務経験を経ることで公認会計士として登録することができます。
短答式試験については、1度合格すれば2年間は免除期間となり、論文式試験についても、1度合格した科目は2年間免除となる制度が導入されています。
公認会計士試験が2つの試験で構成されているのに対して、簿記は階級に関わらず1つの試験で合否が決まるシステムとなっています。
公認会計士試験では、財務諸表を監査・証明し、正確に報告できる能力があるかを試す試験となっています。
財務諸表とは、株主や投資家など企業の利害関係者に対して、企業の財務状況を報告する決算書類を指します。
公認会計士はこの財務諸表を読み解き、適法性があるかを判断できることが求められます。
そのため、高度な会計の知識だけではなく法律の知識も必要となるため、試験では簿記以外の租税法や企業法、経営学など幅広い分野からも出題される点が特徴といえます。
短答式試験と論文式試験の具体的な試験科目としては以下の通りです。
短答式試験の財務会計論には、計算問題の簿記が含まれており、また管理会計論も商業簿記と工業簿記に区分されています。
また論文式試験についても、監査論、企業法、租税法の科目において、簿記の知識がなければ解けない問題が多く含まれています。
このように公認会計士試験においては、企業法や租税法などの法令や、経営学や民法などの選択科目など、簿記の知識が中心となっている上で幅広い分野の勉強が必要であるといえます。
簿記検定は、正確に財務諸表を作成する能力があるかを試す試験となっています。
簿記1級の試験の主な出題範囲として、商業簿記と工業簿記が挙げられ、これは公認会計士試験における財務会計論と管理会計論に該当します。
商業簿記は、仕入れから販売までの取引先とのお金の流れを記録するもので、工業簿記は、材料の仕入れから製品を作り上げるまでのお金の流れを記録するものです。
商業簿記は3級から、工業簿記は2級の試験から含まれる内容で、それぞれ階級が上がるごとにより複雑で専門的な内容になっていきます。
このように公認会計士の学習範囲が広く深くという特徴であったのに対して、簿記1級では狭く深くという点が特徴であるといえます。
公認会計士と簿記、それぞれの取得に必要な勉強時間の目安を比較した場合、先ほどの表にも記載の通り、公認会計士の方が圧倒的な勉強時間が必要となります。
合格までの勉強時間に個人差はあるものの、公認会計士の学習時間は一般的に3,500時間程度と言われています。
資格学校に通うなどして、最短で資格取得を目指す場合でも、最低2,500時間程度は必要となります。
簿記に比べ、公認会計士試験は圧倒的に学習範囲が広く、2つの試験の対策をしなければならないことで、より多くの勉強時間が多くなってしまうのです。
簿記1級の取得までに必要となる勉強時間の目安は、簿記2級や3級を持っているかによって異なります。
簿記を持っていない初学者の場合、簿記1級の取得までには900時間前後の勉強が必要だと言われています。
簿記2級や3級を持っている場合だと、勉強時間の短縮が可能です。
簿記2級の合格レベルの知識があり、また講座などで効率よく学習した場合、簿記1級取得に必要な学習時間は400~600時間といわれています。
そこに簿記2級取得までの時間をプラスすると、800~1000時間程度と考えられます。
公認会計士試験は合格率10%前後で、合格率で見ると簿記1級と同等ですが、視点を変えると難易度にも違いが見られます。
上述の通り、公認会計士試験においては簿記試験で問われる各論点の基本に加えて、難しい実務指針や現行の会計基準の背景にある考え方まで問われるなど、広く深い分野の知識が必要となる点で、より難しい問題が出題されると考えてよいでしょう。
さらに、短答式や論文式など出題のアプローチに変化があり、論点も幅広くなる点で難易度がより高いといえます。
またこうした筆記試験合格後は、実務経験を積むことが求められ、その後も面接試験など複数の段階にわたって公認会計士としての知識や能力が評価される点でも、国家資格としての難易度の高さが伺えます。
ただ、こうして難易度が高い公認会計士試験ですが、簿記1級を取得したうえで公認会計士試験を受験する人も多いため、受験者層の水準が高く、その結果簿記1級と同じ10%前後という合格率になっているといえます。
前述の通り、公認会計士試験と重複する学習範囲はあるものの、簿記の場合は商品売買や帳簿に関する問題など基本的なものも含まれるため、比較的難易度は抑えられているといえます。
また、簿記1級は公認会計士の登竜門といわれており、公認会計士試験の基礎固めや応用に役立つとされている点からも、簿記1級の延長線上に公認会計士試験があるといえます。
上述の通り、公認会計士と簿記1級の試験では、学習範囲が類似しているため、簿記1級の試験を受けることが公認会計士試験の対策になる部分もあるでしょう。
一方で、公認会計士試験の合格まで遠回りになってしまう可能性もあります。
ここでは、公認会計士志望者が試験の前に簿記検定を受けるメリットとデメリットをご紹介します。
●公認会計士試験の学習の負担を減らすことができる
公認会計士試験では、短答式試験・論文式試験ともに、簿記の知識が身についていると理解しやすくなる科目が多いです。
例えば、短答式の試験科目である管理会計論は、簿記1級の原価計算と工業簿記の範囲と重複しており、また財務会計論も簿記1級の会計学と商業簿記の範囲と重複しています。
この2科目は、短答式試験の科目の中でも、とりわけ多くの学習時間が必要となる科目であるため、簿記1級を取得することで、公認会計士試験の学習の負担を減らすことにつながるメリットが挙げられます。
●公認会計士試験合格への自信がつく
簿記1級を取得することで、公認会計士試験の内容の多くを把握することができ、また自分に合った勉強の進め方を身につけることにつながります。
さらに、簿記に合格することで、公認会計士試験の合格への自信もつけることができるといえます。
こうした成功体験によるモチベーションの向上により、公認会計士試験の合格に向けて見通しを立てて勉強を進めることができるでしょう。
●公認会計士としての適性を判断
公認会計士を目指すにあたり簿記1級を取得するメリットとして、簿記や会計が自分に向いているのかを判断でき、公認会計士としての適性を把握することができる点が挙げられます。
前述の通り、簿記1級の延長線上に公認会計士試験の合格があるため、簿記1級を勉強する過程で、自分が会計専門職に向いているかどうかの適性を判断することができます。
簿記1級に合格することも非常に難しいですが、上述の通り、公認会計士試験はそれ以上に難易度が高い試験となります。
また、公認会計士は膨大な勉強の先に合格がある試験のため、この意味でも、登竜門的な位置づけにある簿記1級の受験を通じて、公認会計士としての適性を判断することも選択肢の一つです。
簿記1級を取得するメリットについては以下の記事で詳細に解説しているので、ぜひご参考にしていただければ幸いです。
〈関連記事〉
●簿記1級の合格に学習時間がかかる
簿記1級を取得すること自体にデメリットはありませんが、その取得のために時間を費やすことがデメリットであるといえます。
上述の通り、簿記1級の合格のためには約900時間の勉強が必要であり、独学では取得が難しい難易度の高い資格であるといわれています。
そのため、公認会計士の資格取得を目指す中で、簿記1級の学習に膨大な時間を費やしてしまうと、公認会計士の合格にかえって時間がかかってしまい遠回りになる可能性があります。
簿記1級に合格できなくても、公認会計士に必要な知識を身に着けることは十分に可能です。
限られた時間を簿記1級の勉強に費やすよりは、より学習範囲が広い公認会計士試験に費やすという選択をすることも効率の良い資格取得のための一手です。
●公認会計士試験と出題範囲が異なる
上述の通り、簿記1級と公認会計士試験において、重複する学習範囲は広いものの、出題範囲や傾向が異なるため、試験への対策方法も異なります。
公認会計士試験ではそれほど押さえておく必要のない問題も簿記1級の試験では出題されることも少なくないため、公認会計士を明確に目指している方は公認会計士試験に特化した対策をすることがより効率がよいといえるでしょう。
とは言え、「0から公認会計士の勉強を始めるのはハードルが高い」といった方は、勉強時間を考慮して簿記2級までをファーストステップとして取得し、その後公認会計士の試験対策を始める方も多くいらっしゃるようです。
ここまで公認会計士と簿記の特徴や違いについてお伝えしましたが、どの資格を取るべきかは目的によって異なります。もちろん、全ての資格を持っているに越したことはありませんが、勉強時間やその労力を考えると、目的に合わせて適切な資格を目指した方が、効率よくその目的を達成することができます。
例えば、公認会計士になることが目的なのであれば、前述の通り公認会計士資格は必須ですが、簿記は必須ではありません。逆に、税理士を目指される方は受験資格の1つとして簿記1級を取得していることが挙げられるため、取得しておくべき資格と言えます。
また転職という観点では、経理職への転職を希望する際は簿記2級の有無が転職のしやすさに大きく関係してきます。そのため、将来的に経理職への転職をお考えの方は早めに取得しておくことをおすすめします。簿記1級や公認会計士資格を持っていると、転職ではさらに有利になるため、年収アップやよりハイポジションでの転職を狙いたい方は挑戦してみても良いかもしれません。
経理職への転職に関して気になる方は下記の関連記事をぜひご覧ください!
今回は、公認会計士試験に簿記の資格が必要なのかについて解説しました。
結論、公認会計士を目指すときに、簿記資格はわざわざ取得する必要はありませんが、簿記の取得によって公認会計士試験の勉強につなげることができたり、就職や転職の際に活かせるなど、とても有効な資格であることは間違いありません。
大前提、公認会計士も簿記も、どちらも難易度が高く、取得して損することはありません。
もしどちらを取るか迷う、もしくは取得したが活かしきれていないと感じる方は是非、士業・管理部門特化の転職エージェントである当社ヒュープロをご利用ください。
就職・転職活動にあたって、自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。そこで活用すべきなのが人材エージェントです。希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。また書類添削や面接対策といった選考準備に対しても、専任アドバイザーによるサポートが充実しています。
さらに、業界特化型エージェントにおいては、公認会計士をはじめとした士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。
業界特化型のエージェントでは、これから公認会計士を目指す方や、簿記資格を活かして転職したい方向けにも求人をご用意しておりますので、ぜひ検討してはいかがでしょうか。