人事考課制度は、従業員の勤務態度、パフォーマンス、業績等を評価し、報酬査定、昇給昇格、従業員教育/育成等に紐づける施策のひとつです。昨今、働き方改革施行や感染症の影響による仕事の仕方変容(リモートワークの一般化等)で、改めて注目されることとなりました。現状、IT化、DXと並んで人事担当者を悩ませているのがこの人事考課と言われています。ここでは人事の課題としての人事考課、中でもその中枢である項目について解説していきます。
ハラスメントに関しての法整備がされて間もない時期、人事考課をネタにしたハラスメントも耳にします。パワハラ、モラハラ等に抵触する可能性があり、機微な個人情報でもある考課内容。あくまでその人の仕事に対して行われるものであり、人間性や人格を計るものではありません。それだけに考課を効果的に進める「項目」の設定には細心の注意が必要になります。
いきなり項目を作ることはあり得ません。考課のしくみを決めていく(構築する)ことが重要で、そのしくみの一部として項目があります。以下記載の大まかな手順を参考にしてください。
ここでの対象とは「対象とする者(人)」ではなく「対象とするカテゴリー」。言い替えると「何を考課の対象とするか」ということです。年齢なのか、能力なのか、職務なのか、役職なのか等々、考課対象が何であるかによってその後のフローは違ってきます。
人材をどう活用していきたいか、考課制度によって組織として実現したいこと、向かうべき方向性を決めていきます。一般的にはVMV(ビジョン/ミッション/バリュー)や行動指針を基にします。
考課をするために基準がないと適切な人事考課はできず、項目もしっくりきません。本題の「項目」の前に決めておきたいのがこの「基準」です。基準は以下の4つに大別します。
業績や実績についての基準です。一定期間内での成果や結果が項目になります。売上の前年対比、利益率等の数値で測ることが多く、定量的に考課します。
対象業務に必要な知識や遂行能力と習熟度を測る基準です。「チーム調整力」、「リーダーシップ力」、「業務推進力」等が項目として設定されます。上記業績考課とは反対に数値に表しづらく、「対象項目に向けて成長した点は何か」、「与えられた課題の解決のために身につけた知識/技能/資格は何か」等々、その過程(プロセス)を考課します。比較的教育/育成の観点が強い基準/項目になります。
勤務状況や仕事への姿勢等、職業人としての個人の資質を問う基準です。多くの場合、「規律性」「積極性」「責任性」「協調性」の4項目で効果が行われます。周囲のと協働具合や勤怠の自己管理の出来不出来等、相対的に変わる項目が多く存在するため、あいまいになりがちな部分ですが、これをブレずに実施するために用いられるのがVMV(ビジョン/ミッション/バリュー)や行動指針です。
目に見えて最もわかりやすい基準が役割です。サブマネージャー、事業部長、人事課長等々、職位や役職を基準とします。その職位や役職に求めたいこと(部下マネジメント、離職率/定着率管理等)が項目として設定されます。
上記のどの基準であっても項目は絞り込みが重要です。以下は実際考課制度構築を支援した際の項目です。業種が同じでも階層(職位)数や理念等によっても違ってきます。あくまでサンプルとして捉えてください。
とあるOA機器、システム等販売卸企業の実例です。数値考課(MBO)、プロセス考課(コンピテンシー)の2極で設定しています。数値考課(MBO)に関しては企業からの期待数値をそのまま反映して、単位は件数もしくは%で点数付けをしています。プロセス考課(コンピテンシー)についてはそれぞれの項目を企業側で設定し、従業員がそれに従ってどういう行動を起こすかを5W2Hで具体的に文章化し、到達目標として設定します。考課者はそれに従って出来たか出来ないか、中間進捗等を測ることとしています。コンピテンシー項目を従業員が具体的にかみ砕いて文章化するという行動は日本企業では今まであまり馴染みのない行為でした。「何をどのようにしていつまでにどういう形に持っていくか、自分以外に誰の協力が必要か」をいざやってみると、文章作成がうまいか下手かという問題ではなく、どれだけその業務を理解しているかという個人のパフォーマンスレベルに行き着き、タレントマネジメントの面でも効果を発揮します。
営業部/部長職・課長職 | ・部門粗利達成率 ・部門見積提案アポイント件数 ・部門提案成約数 ・部門業務改善実績件数 |
営業部/リーダー職・一般職 | ・個人粗利達成率 ・見積提案アポイント件数 ・提案成約数 ・業務改善実績件数 |
システム開発部/一般職 | ・計画書内時間達成率 ・個人予算利益達成率 |
ハードウェアサポート部/部長職 | ・部門予算達成率 ・部門再故障発生件数 ・部門初動対応 ・復旧時間オーバー件数 ・部門成約情報収集件数 |
ハードウェアサポート部/一般職 | ・個人予算達成率 ・再故障発生件数 ・初動対応 ・復旧時間オーバー件数 ・成約情報収集件数 |
ソフトウェアサポート部/部長職・課長職 | ・部門粗利達成率 ・部門フォロー件数 ・部門新規保守提案件数 ・部門紹介件数 |
ソフトウェアサポート部/一般職 | ・フォロー件数 ・新規保守提案件数 ・個人粗利達成率 ・紹介件数 |
総務部/リーダー職 | ・部門平均残業時間 ・業務改善実行件数 ・部門月次決算所要削減時間 |
総務部/一般職 | ・業務改善提案件数 ・月次決算所要削減時間 ・平均残業時間 |
企業共通項目 | ・お客様等の相手のスタンス、状況を鑑みて対応する ・生産性を上げるための施策を自ら考えて工夫する ・リスクを想定しつつ、可能性のあることへチャレンジする ・自分に足りない知識やスキルを積極的に取り入れる |
職種共通項目/営業部 | ・傾聴する ・顧客の定着化 |
職種共通項目/システム開発部 | ・自分の中でPDCAをまわしていく ・処理速度の向上 |
職種共通項目/ハードウェアサポート部 | ・ビジネスマナー習熟度 ・臨機応変な対応 |
職種共通項目/ソフトウェアサポート部 | ・段取り力 ・リスクヘッジ対応 |
職種共通項目/総務部 | ・改善提案による品質向上 ・業務の適正運用化 |
職位別項目/部長職 | ・VMV、行動理念、新しい制度等を配下にわかりやすく説明でき、実行へもっていく ・担当部署全体の目標管理と評価 |
職位別項目/課長職・リーダー職 | ・生産性向上のため、配下の部下との信頼関係を築く ・計画的に部下の成長を促す |
リモートワークが推奨され、リモート実施が増加する現在、せっかく設定した考課項目がそぐわなくなる場合が見られます。勤務状況が把握しづらくなるのはもとより、コミュニケーションの量が絶対的に少なくなり、必然的に目に見える結果や実績(成果数値)での判断に偏りがちになります。当然従業員の士気は下がる可能性は大です。
今後は、そもそもの業務をどう管理するかも念頭に置いて人事考課構築/改定を実施することをお勧めします。従業員の業務を可視化できる環境を整える、ミーティングの頻度を密にする、クラウドシステム等で効率化を進める等々、結果として業務が見えやすくなるのは人事担当にとっては喜ばしいことでもあります。