新型コロナウイルス感染症の影響等により売上が減少し、事業損益や資金繰りに不安のある事業者は多くいることでしょう。納税資金の準備が懸念される事態となることもあります。
今回は法人や個人事業主の所得が赤字となった場合に、法人税や所得税はどのような取り扱いとなるのかについて解説していきます。
新型コロナウイルス感染症の影響等を起因とし、法人の所得が赤字となった場合の取り扱いについてご紹介致します。
一般的に法人税とは、法人税、地方法人特別税、法人都道府県民税、法人市町村民税の総称です。
法人税は法人の課税所得に対して法人税率を乗じ算出されますが、赤字の年度は課税所得が0円として計算がされるため、法人税、地方法人特別税の発生はありません。
法人税のうち、法人都道府県民税、法人市町村民税は課税所得に基づいて計算される部分と、法人の規模等によって計算される部分があり、課税所得に基づいて計算される部分の金額の法人税額は発生しませんが、規模等によって計算される部分、いわゆる均等割が赤字であっても発生をします。
法人税の基礎知識や仕組みについては下記コラムもご参照ください。
法人が生ずる赤字は欠損金と呼ばれ、この欠損金が生じる年度は法人税、地方法人特別税の発生が無くなるだけではなく、その欠損金を翌年以降の黒字と相殺させることが出来ます。これを欠損金の繰越控除といいます。
欠損金の繰越控除をすることが出来る法人は、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している法人です。
欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出していれば、その後の事業年度について提出した確定申告書が白色申告書であっても、この繰越控除の規定が適用されます。
繰越控除される欠損金額は、各事業年度開始の日前9年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額です。ただし、この欠損金額からは、この繰越控除の規定の適用を受けようとする事業年度前の各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入された欠損金額及び欠損金の繰戻しによる還付の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となった欠損金額は除かれます。
また、損金の額に算入される欠損金額は、欠損金の繰越控除の規定を適用せず、かつ、法人税法第59条第2項(会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入)(同項第3号に掲げる場合に該当する場合を除きます。)、同条第3項及び第62条の5第5項(現物分配による資産の譲渡)の規定を適用しないものとして計算した場合におけるその事業年度の所得金額を限度とします。
繰越欠損金がその事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度のうち2以上の事業年度において生じている場合には、最も古い事業年度において生じたものから順次損金算入をします。
出典:国税庁 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
法人の赤字は上記の欠損金を翌年以降の黒字と相殺させる方法のみならず、前年以前の黒字と相殺をさせ、法人税の還付を受けることも出来ます。これを欠損金の繰戻しによる還付といいます。
繰戻還付をすることが出来る法人は、青色申告書を提出する法人又は災害損失欠損金を有する法人です。
青色申告書を提出する法人は、下記の要件を全て満たすことで繰戻還付を受けることが出来ます。
災害損失欠損金を有する法人は、下記の要件を全て満たすことで繰戻還付を受けることが出来ます。
繰戻還付される金額は、欠損事業年度の欠損金額を還付所得事業年度の所得金額で割り、その算出された値を還付所得年度の法人税額に乗じた金額です。
新型コロナウイルス感染症の影響等を起因とし、個人事業主の所得が赤字となった場合の取り扱いについてご紹介致します。
所得税は個人の課税所得に対して所得税率を乗じ算出されます。赤字の年度は課税所得が0円として計算がされるため、所得税は発生をしません。
所得税の基礎知識や仕組みについては下記コラムもご参照ください。
所得税の計算と確定申告の手続きについて解説します
個人事業主が生ずる赤字は損失と呼ばれ、この損失が生じる年度はその所得に係る税金の発生が無くなるだけではなく、他の種類の所得と相殺することが出来ます。 この各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除することを損益通算と言います。
出典:国税庁 損益通算
損益通算の対象となる所得の種類は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の4つです。
不動産所得の損失には一部損益通算が出来ないものがあり、別荘等の生活に通常必要でない資産の貸付けに係るもの、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額、一定の組合契約に基づいて営まれる事業から生じたもので、その組合の特定組合員に係るものが損益通算をすることが出来ません。
また譲渡所得の損失にも一部損益通算が出来ないものがあり、申告分離課税の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失がある場合は、株式等に係る譲渡所得等以外の所得の金額との損益通算は出来ません。同様に、株式等に係る譲渡所得等以外の所得の損失も、株式等に係る譲渡所得等の金額との損益通算は出来ません。
加えて申告分離課税の先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失がある場合は、先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額との損益通算は出来ません。同様に先物取引に係る雑所得等以外の所得の損失も、先物取引に係る雑所得等の金額との損益通算は出来ません。
更に譲渡所得の金額の計算上生じた損失のうち、一定の居住用財産以外の土地建物等の譲渡所得の金額の計算上生じた損失がある場合は、土地建物等の譲渡所得以外の所得の金額との損益通算は出来ません。同様に、土地建物等の譲渡所得以外の所得の損失も、土地建物等の譲渡所得の金額との損益通算は出来ません。
損益通算を行ってもなお事業所得等の赤字がある場合は、その損失を翌年以降の黒字と相殺させることが出来ます。これを損失の繰越控除といいます。
損失の繰越控除をすることが出来る個人事業主は、青色申告書を提出している個人事業主です。
青色申告書の提出を行うためには、一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする必要があり、青色申告承認申請書を提出し受理される必要があります。これを受理され一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする個人事業主は、所得金額の計算等について有利な取扱いを受けることが出来ます。
この有利な取り扱いとして、繰越控除や下記の繰戻還付があり、この他にも青色申告特別控除の適用、青色事業専従者給与の計上、貸倒引当金の計上等が、青色申告者のみに認められています。
青色申告の基礎知識や仕組みについては下記コラムもご参照ください。
繰越控除をされる損失額は、青色申告をしている年分の純損失金額であり、翌年以降3年間の所得の金額から繰越控除を受けることが出来ます。
純損失の生じた年に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが繰越控除を受けるために必要です。
個人事業主の赤字は上記の損失を翌年以降の黒字と相殺させる方法のみならず、前年以前の黒字と相殺をさせ、所得税の還付を受けることも出来ます。これを損失の繰戻しによる還付といいます。
損失の繰戻還付をすることが出来る個人事業主は、青色申告書を提出している個人事業主です。
法人や個人事業主が受け取る助成金、補助金には、それぞれ法人や個人の課税所得に該当をするものと、該当をしないものがあります。
課税所得に該当をするものは、法人税や所得税の計算の基礎となる所得に参入をする必要があるため、受取金額に応じた法人税、地方法人特別税や所得税の支払いが発生します。
しかし、課税所得に該当をする助成金や補助金を受け取ってもなお法人や個人事業主の所得が赤字である場合には、受け取った助成金や補助金に対する法人税、地方法人特別税や所得税の支払いはありません。
助成金、補助金の取り扱いについては下記コラムもご参照ください。
上記のように法人、個人事業主共に赤字の年度においては法人税、地方法人特別税、所得税の納付はありません。更に黒字の年度と相殺を行うことで税額の減額や還付を受けることが出来ます。
新型コロナウイルス感染症の影響等により資金繰りに不安のある方は、これらの取り扱いによって減税をすることが出来ますので、ご参考になさってください。