法人によって違う役員の任期と任期満了時の手続きについて解説します
「役員」に任期があることをご存じですか?雇用されている従業員とは異なり、委任契約をしている役員は、実は任期が決まっているのです。本記事では、総務部や法務部が行うことが多い役員の任期管理や満了時の手続きについて、法人ごとの役員の任期も交えて解説します。
任期とは「その職務に就いていられる期間」のことです。株式会社の取締役の任期が2年で、会社形態によっては10年まで延長可能というのは広く知られていますが、役員の任期は、法人の形態によって異なり、それぞれの法律で定められています。
代表的ななものを見ていきましょう。
株式会社の役員は取締役が2年、監査役が4年と定められています。
ただし非公開会社なら、ともに10年まで伸ばすことが可能です。非公開株式会社とは、株式の譲渡制限を定めている会社のことで、そのことを登記している必要があります。
なお、取締役の任期は2年以下で短く定めることができますが、監査役については4年未満にすることができません。
役員の任期を10年まで伸ばせるという言葉だけが一人歩きしていますが、これは株式会社かつ非公開会社だけなので注意しましょう。
有限会社は株式会社と同様に取締役と監査役という役員の名称ですが、実は有限会社の場合は任期がありません。
2006年の法律改正により有限会社が廃止されたため、現在は有限会社の設立はできません。現在残っている有限会社は、特例有限会社として企業を存続させています。
次に、比較的新しい会社形態として知られる、合名会社・合資会社・合同会社です。
例えば、AmazonやGoogleは「合同会社」になります。この3つは「持分会社」と呼ばれ、「社員」「業務執行社員」「代表社員」と3種類の役員にあたる役職があります。
実はこの3つにおける「社員」というのは、一般的に言われる会社の従業員ではなく、会社設立の出資者のことを指します。
有限会社と同様、任期がありません。
社団法人・財団法人における役員としての位置づけにあるのは「理事」「監事」「評議員」です。
理事は2年、監事と評議員は4年の任期があります。このうち評議員だけは6年まで任期を伸ばせますが、逆に短くすることはできません。
理事と監事については、任期を伸ばせない代わりに短くできますが、幹事は最低2年までとなっています。
特定非営利活動法人であるNPO法人ですが、理事と監事が役員としての位置づけになります。
この2つは2年の任期となっており、延長はできません。任期を短くすることは好きな期間でおこなうことができます。
「株式会社の役員の任期は2年と聞いたけど、A役員はずっと役員だけど?」と言うことがあるかもしれません。
任期が到来した役員は原則として退任になるのですが、ずっと役員の地位にいる方は上場企業でもよく見かけます。これは、継続しているのではなくて、一度退任した上で再任しているのです。重任とも言います。
そのためには手続きが必要です。例えば、株式会社であれば改めて株主総会で役員を選任し、これを反映した登記を行っています。
株式会社を例に、就任・再任・退任の手続きを見ていきましょう。
役員に新しく就任した場合は就任の手続きとして、
・株主総会での選任決議と
・役員就任(新任)の登記申請
が必要です。
なお、任期満了に伴う退任については、株主総会決議は不要ですが、役員を退任したということで登記の変更(退任登記)が必要となります。
役員が任期満了した後に再任されて引き続き役員を務めている時は、傍目から見ると何も変わりませんが、ちゃんと手続きをする必要があります。
任期満了と同時に、再度役員として選任する決議を株主総会で行い、再度就任した日から2週間以内に登記申請を行わなくてはなりません。
前項で、役員の任期を延ばしたり短縮したりできるパターンがありましたが、勝手に延長したり短縮したりするとはできません。
役員の任期には、株主総会(社団法人であれば社員総会・NPO法人であれば総会)での決議と、定款変更が必要です。(任期は登記事項ではありませんので、株主総会で決議した内容を登記に反映させる必要はありません。)
さて、法人形態によって役員の任期が異なることと、就任・退任・再任それぞれに手続きが必要であることを見てきました。
役員の手続きには株主総会での決議が必要なことから、役員の任期にまつわる管理事項についても、株主総会の担当である総務部で行うことが多いです。
また、登記申請を法務部で行っている場合は、法務部門で管理してリマインドすることもあります。
例えば、株式会社の取締役の任期は2年と聞くと、「じゃあ再来年の定時株主総会までですね」と思いそうですが、そうはならない場合もあります。
ポイントは決算月と定時株主総会の日程です。
株主総会の取締役の任期について、会社法では
「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(会社法332条1項)」と定められています。
役員の選任は株主総会での決議が必要なことから、つい決算後の定時株主総会のことを想定しがちですが、臨時株主総会でも「会社の役員に関する事項」を決めることは可能です。
役員の任期は、その「選任」が何年何月何日の株主総会で行われたかを確認の上、管理する必要があります。
役員の任期については、計算を間違ったり、手続きについて誤解していたりして、何もしないまま任期が切れてしまうケースが少なくありません。
役員の任期を勘違いしていて、株主総会での決議をしないまま任期が切れてしまうことを選任懈怠(せんにんけたい)といいます。
間違ってしまった場合はそのままでいいはずがなく、対応が必要です。
すみやかに株主総会を招集して、取締役の選任・退任について決議しましょう。
選任懈怠に気が付いた時期によっては、定時株主総会での選任になる場合もあります。できる限り早めに対応するためには、臨時株主総会の開催が必要なことも。
速やかに選任・退任・重任の決議を行い、2週間以内に登記しましょう。
役員の任期満了に伴う退任は、何もしなくても自動的に役員ではなくなっています。
もう役員ではないのに、届出をしていない状況です。同じ人が役員を継続して務める場合も重任なので手続きが必要です。
運転免許証の有効期限を考えてもらえればわかりやすいですが、期限が切れた免許証を持っていても運転できないのと一緒で、役員も期限が切れていた場合、会社の役員として行動をしてしまっていることで、大きな損害をあたえかねません。
選任懈怠は会社法976条22号違反になります。
そのペナルティは「100万円以下の過料(かりょう)に処する。」
これは、刑事罰ではありませんので、前科がつくものではありませんが、代表取締役個人に課せられるもので会社で払うことができません。登記については実務は社員がやっているかもしれませんが、登記そのものは代表取締役に義務があるからです。
法務局には登記がされているので、裁判所から通知が来る前であっても登記したら選任懈怠は判明します。
また、選任だけしていても、登記申請期限である2週間を超えて登記していないと、選任懈怠と同様に過料が科される場合があります。
いずれにしても、懈怠を発見したらすみやかに対処するようにしましょう。