「会計事務所の給料は安い」という意見がありますが、専門性が高い仕事をする事業所に対して、何故そのような意見があるのでしょうか。
本記事では、会計事務所の給料が安いと言われる理由とその真相、そして給料をアップさせる方法について解説していきます。
会計事務所の給料が安いのかどうかについて、まずは会計事務所の平均年収と、給与所得者全体の平均年収を比較して考えてみましょう。
会計事務所の平均年収について、直近で正確な統計データは発表されていませんが、平成16年に総務省が行ったサービス産業動向調査によると、約361万円でした。現在の最低賃金の上昇率などを踏まえると、現在の会計事務所の平均年収は450万円程度とみるのが妥当でしょう。
国税庁が発表している令和4年分民間給与実態統計調査によると、全給与所得者の平均年収は458万円でした。上記の通り会計事務所の平均年収は450万円程度と推測されますので、会計事務所の給料はほぼ平均と同程度であるといえます。
この事実だけを鑑みると、決して会計事務所の給料は安いとは言えません。
ではなぜ、会計事務所の給料は安いという意見が出てくるのでしょうか?
ここでは、会計事務所が業界全体として給料が低いと言われるのはなぜなのか、見ていきます。
会計事務所のメイン業務である税務顧問や巡回監査などは専門性が高く、ある程度の研鑽をしないと担当できないものも多いです。特に税理士の独占業務を行うためには、かなり難易度の高い税理士試験に合格しなければなりません。
このような限られた人にしかできない業務でありながら、平均と同程度の給料であるというのに対して、「安い」と感じてしまうのでしょう。
会計事務所の約9割が従業員が5人以下の零細会計事務所であるといわれています。このような零細会計事務所では人事評価基準や昇給基準が明確に定められていないことが多いです。
よって、新たな資格を取得してもそれが評価として給料に上乗せされない、勤続年数を重ねても給料が上がらない等の事態が発生し、給料が低くなってしまう傾向にあります。
零細会計事務所では評価基準と同様に福利厚生が整っていない場合が多くあります。大企業では支給されることの多い扶養手当や休日出勤手当が支給されないという直接的な給料が無いことのみならず、福利厚生施設の保有が無い、有給休暇の取得が難しい等、大企業と比較し間接的な人件費が抑えられていることもあります。
このように福利厚生が整っていないことから、直接、間接的に給料が低くなってしまう傾向にあります。
会計事務所では資格を取得し転職をしてしまうのではないか、という職員への疑念や、会計事務所の所長の考え方として職員を作業要員としてしか捉えていないこと等により、職員が定年まで長く勤めてくれるという期待はあまりしていません。
終身雇用の考え方に基づいた経営を行う会社では、定年まで長く勤めてくれるという期待と共に、その職員が定年まで会社の給料によって充分な生活が出来るような給料を支払うことを義務のように捉えています。
しかし終身雇用の考え方に基づかない会計事務所では、会計事務所の給料によって充分な生活が出来るようにするという配慮はありません。
このことから給料が低くなってしまう傾向にあります。
会計事務所の人員構成の特徴として、様々な働き方の従業員が存在することが挙げられます。その中には、税理士試験を勉強中の大学生アルバイトや、子育てをしながら正社員より短い時間で働くパートの主婦なども多くいらっしゃいます。
そのような方は昇給を目指すというよりは一定の給料のもとで継続的に働くため、正社員だけの平均年収よりも下回ってしまいます。ご紹介したようにこの業界には零細会計事務所が多いですが、そのような事務所では正社員とそれ以外の働き方の従業員の割合が半分ずつになることも少なくありません。
そのため、「安い」と感じられるような平均年収に見えてしまうこともあるのです。
会計事務所の収入の多くは顧客からの報酬です。その報酬の中から会計事務所の職員の給料は支払われています。
顧問料報酬は資金が潤沢な会社であれば多く支払うことが出来ますが、零細会計事務所が顧客とする中小企業者は出来るだけ顧問料報酬の支払いを少なくしたいというのが本音です。顧客の経営の状況によっては顧問料報酬の減額や滞納を依頼されることもあります。
収入は顧客の資金力に依存して、かつ安易に増額をすることが出来ないものであることから、職員の給料の増額は会計事務所の資金繰りに影響を与えるものとなります。
このことから給料が低くなってしまう傾向にあります。
会計事務所の初任給は、新卒や未経験者であれば年収300万円程度が相場です。これも他の職種の平均とそこまで大きな差はありません。経験者や税理士有資格者であれば、より多くの年収がもらえることになります。
次の章からは、会計事務所での給料を左右することになる、資格と実務経験の状況別に、想定される年収を紹介していきます。
ここまで会計事務所の平均年収について解説していきましたが、会計事務所に勤めている人の給料は、資格によって同じ会計事務所に勤めていても大きく異なります。
職員は無資格者、税理士科目合格者、税理士、会計士等に大別されます。
無資格とは税理士科目合格者以外を指すことが多く、簿記やFPの合格資格を取得していても無資格者に該当することが多いです。
無資格者の給料は未経験で年収にして250万から300万円といわれています。新卒で就職をするには、あまり高い年収であるとはいえません。
しかし無資格かつ未経験であっても会計事務所に勤めることが出来、実務経験を積むことが出来る、税理士や会計士の資格を取得するための勉強時間の確保に一定の理解がある職場に勤めることが出来る、という見方をすれば必ずしも低すぎる給料とはいえないでしょう。
また無資格者であっても、300万円以上に年収を上げることは可能です。当然無資格で経験の浅いままでは、転職を行っても年収を上げることは期待できません。年収を上げるための資格やスキルの取得、経験や実績を積むことが大切 です。
資格やスキルの取得とは、税理士試験の科目合格をする、会計士試験や社労士試験に合格する等の、国家資格の保有のみならず、勤める会計事務所において必要不可欠であると感じられるようなスキルを取得することも方法のひとつです。
例えば会計事務所にとって非常に大切な顧客にとても気に入られ重宝されているような顧客折衝スキル、早急な顧客の依頼に応えられる顧客応対スキル、会計ソフトや周辺機器において問い合わせに応えられるITスキル等、その会計事務所で評価を得られるようなスキルがあります。
このような資格やスキルの取得は、既存の勤めている会計事務所での評価が上がり給料アップに繋がる、又は転職するにおいて自身の市場価値が上がることにより給料がアップすることが期待出来ます。
無資格者の給料については下記コラムもご参照ください。
税理士科目合格者とは、税理士になるための試験科目のうち一部に合格した人です。税理士科目合格により1科目あたり5,000円から1万円が月収に上乗せされる 場合が多く、年収にして350万円から500万円 といわれています。
新卒で科目合格の資格を保有して就職をするには、他の業種よりも高い年収であることが多いですが、年齢や経験によっては必ずしも高い年収であるとはいえません。
科目合格者も無資格者と同様に、合格科目数を増やす等の国家資格の保有のみならず、勤める会計事務所において必要不可欠であると感じられるようなスキルを取得することが会計事務所での評価が上がり給料アップに繋がる方法といえます。
更には3科目以上の科目合格者であれば、無資格者や3科目未満の科目合格者と比較をすると、様々な会計事務所から一定の評価を得ることが出来、給料の高い職場への転職が容易くなります。
試験科目であり税理士合格必須科目である簿記論と財務諸表論を取得し、更に消費税法や法人税法を取得していれば、顧客に大企業を取り扱い、高い顧問料報酬を得ている大手税理士法人に、相続税法を取得していれば不動産や株式などの資産管理や成年後見を行い、高い顧問料報酬を得ている会計事務所に就職をするにあたり有利になります。
このように科目合格者は様々な方法にて、給料がアップすることが期待出来ます。
科目合格者の給料については下記コラムもご参照ください。
会計事務所に勤務する税理士、会計士の給料は年収にして400万円から700万円といわれています。非常に幅があり、他の業種との比較が一概に出来ません。
しかし税理士、会計士には、その資格を取得するための時間や労力と比較をすると給料が少ないのではないかと感じる人も多いようです。
税理士や会計士は会計事務所における最高の資格といっても過言では無く、既にこのような国家資格を持っている人が資格によって評価を得ることは難しいといえます。
よって勤める会計事務所において必要不可欠であると感じられるようなスキルを取得することでの会計事務所での評価が上げ給料アップに繋げる方法や、転職、開業によって給料がアップすることが期待出来ます。
税理士の給料については下記コラムもご参照ください。
実務経験に関しては「ある」か「ない」かで大きな年収差があります。その上で実務経験者の場合はその経験年数によっても、おおよそ下表のような傾向で年収が変わっていきます。
未経験 | 年収250万円〜300万円前後 |
実務経験 3年から5年 |
年収350万円〜450万円前後 |
実務経験 6年から10年以上 |
年収500万円〜700万円前後 |
ただし、資格を含めた総合的な観点や、実務経験の中で具体的にどのようなスキルがあるのかによっては、この年収幅に捉われないこともあります。
会計事務所では資格と実務経験の状況が年収を左右する、とご紹介しました。給料アップを狙うにあたって、持ってない資格を取ったり、実務経験を積むことは確かに有効な手段ですが、いずれもある程度の時間がかかってしまうことは否めません。
そんな中で、すぐに年収アップを実現する手段が、給料のベースが高い事務所に転職するという方法です。具体的にどんな事務所の給料が高いのか、紹介します。
会計事務所が業界全体として給料が低いという意見がある中でも、給料の高い会計事務所はあります。
給料の高い会計事務所の多くは、大手税理士法人です。日本の税理士法人の中でも特に大手の4法人を総称して、Big4税理士法人と呼びます。この4法人では職員数が多いことから福利厚生が整っており、大手企業のクライアントの割合が多く専門的な業務を行う機会も多いことから、顧問料報酬も多額であることが多いです。その結果、給与水準も他の法人に比べて高くなっています。Big4税理士法人の年収について、詳しくは以下の記事にてご紹介していますので、併せてご参照ください。
残業をすることが出来る人
給料の高い大手税理士法人、会計事務所の顧客から依頼される仕事は、規模が大きいことから作業量の多いものであることが殆どであり、残業が必須となることがあります。残業代が支給されるから給料が多いともいえます。
よって家庭の事情によって残業が出来ない人、資格取得の勉強時間の確保のために残業が難しい人は向いておらず、会計事務所の仕事に多くの時間を充てられる人が向いているでしょう。
税理士資格を持っている人
残業が必須となることから、資格取得のための時間をもつことが非常に難しくなります。よって資格取得のための勉強をしながら勤務したいのであれば、残業が発生しないような会計事務所を選ぶべきです。
税理士資格を保有しこれ以上国家資格を必要としない人、又は資格の取得を目指さずその会計事務所の仕事に注力したい人が向いているといえるでしょう。
チームで仕事をすることに抵抗が無い人
給料の高い大手税理士法人、会計事務所では規模の大きい仕事に対して複数人のチームで応対することが多くあります。一方で零細会計事務所では中小企業に対して職員担当者一人が応対を一任される傾向にあります。
チームで仕事をするということは、一人で仕事をすることよりも同僚と同じ仕事を乗り越える達成感や負担感を分担するメリットがありますが、これを分担することが煩わしいとデメリットに感じる人もいます。
このように チームで仕事をすることに抵抗が無い人が向いているといえるでしょう。
たとえ大手の会計事務所ではないとしても、特定の専門的な業務に特化している事務所では年収が高くなる傾向にあります。具体的には、国際税務・相続業務・M&A業務などに特化、もしくはこれらの業務を取り扱っている事務所であれば、相場より数十万円の年収アップも実現できるでしょう。
いずれの業務も、対応可能な税理士や税理士補助が限られているため希少価値が高く、その分報酬が高いために高年収が実現するのです。
このように会計事務所の給料は資格によって異なり、一概に他の業種と比較をして高い低いと判断することは出来ません。しかしそれぞれの立場ごとに給料アップを狙う手段はあります。
また会計事務所が業界全体として給料が低いという意見もありますが、当然全ての会計事務所が給料が低いというものであはりません。
給料アップを狙う手段として転職を考える際には、どのような会計事務所を選べばいいのか、士業・管理部門特化の転職エージェントであるHUPROに、お気軽にご相談くださいませ。