子育てや介護であまり時間が取れなかったり、扶養枠内で働きたいという人でパートという働き方を選択する方も多いでしょう。そんな中で、会計事務所と聞くと難しい仕事をすると感じるかもしれませんが、実際どうなのでしょうか。今回は、会計事務所がパート先におすすめの理由や働く難しさについて解説します。
会計事務所の実情として、パートタイムなど非正規雇用で働く職員は多くいらっしゃいます。そのため、パートタイムで働くのは物理的に不可能というわけではありません。
また、求人もある程度、継続的に掲載される傾向にあります。
その理由の一つとして、税理士業界が慢性的な人手不足、つまり売り手市場であることが挙げられます。正社員に比べて長期的な就業が期待されづらいパートタイムの職員でも、特に業務が集中する繁忙期では、人手不足を解消するために積極的に採用する傾向にあるのです。
さらに会計事務所では、税理士が実施する業務を補助する「税理士補助」業務というものがあります。この業務は税理士のみが行える専門的な仕事である独占業務と違い、誰でも対応できる業務ですが、業務量は多いため税理士だけでまかなえないことが多いです。
そのため、パートタイム向けの税理士補助の求人が多く存在しています。
ただし、求人が豊富だからといって、簡単に働けるというわけではありません。なぜなら税理士補助業務は一定数の専門知識が必要とされるからです。入社時点でそのような知識が無くても働くことはできますが、習得できる人であると認められなければ難しいでしょう。
そんな会計事務所でパートとして働く方はどんな仕事をするのか、次の章で具体的に見ていきましょう。
先述した通り、パートの方のメイン業務は税理士補助業務です。税理士補助業務は大きく分けると次の2つとなります。
それぞれ見ていきましょう。
税理士補助の中で主な業務となってくるのが、この経理代行です。文字通り、クライアントの経理業務を代行することを指します。具体的には、請求書・領収書・現金出納の仕訳作業を行ったり、会計ソフトへの伝票入力、勘定元帳の作成を行ったりします。
ある程度経験を積んでいる方の場合は、パートであっても決算書の作成まで対応しているケースもあります。
事務所内の総務についても、パートが請け負うことが多いです。税理士をはじめとした正社員は、どうしても税務相談などのメイン業務に充てる時間がほとんどになってしまうため、事務作業や電話・来客対応などといった部分もパートが担当することが多いです。
税理士補助の仕事内容について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
ただ、ひとくちに「会計事務所」といっても何の仕事をするかは事務所によって違うため、募集要項などをよく確認しましょう。ただ、会計事務所の中でもいくつかの種類に分かれ、その種類ごとに税理士補助の役割も変わる傾向にあります。次の章で詳しく見ていきましょう。
会計事務所は全国に3万件ほどあるとされています。それらは大きく、「大手税理士法人」・「中小税理士法人」・「税理士事務所」の3つに分類されます。それぞれにおける税理士補助業務の特徴を解説します。
一般的に、大手税理士法人といえばBig4税理士法人と呼ばれる4つの法人を指します。Big4税理士法人は多くの国に拠点を構える世界的な四大監査法人とそれぞれ業務提携を結んでいて、日本の税理士業界の9割ほどのシェアをこの4法人が占めています。外資系企業や上場企業のほとんどがBig4のクライアントで、連結決算や海外子会社の国際税務を用いた会計処理を行うこともあります。そのため、パートタイムの従業員が担当する税理士補助にも高いスキルが求められます。
中小税理士法人は、中小企業や個人事業主のクライアントが多く、経営者が依頼主となるケースも少なくありません。大手に比べると高度な業務は少ないものの、パートタイムであっても基本的な経理代行などの業務は求められます。
税理士法人と税理士事務所の違いとして、税理士法人が複数の税理士が代表を務めているのに対し、税理士事務所は一人の税理士が代表を務めていることがあります。そのため、税理士事務所は規模が小さく、従業員数も少ない傾向にあります。
その影響で、パートタイムの税理士補助であっても一人あたりの業務量は多く、裁量権も大きくなりやすいです。税理士事務所の中には国際税務や相続、M&Aなどといった特定の業務に特化した事務所もあり、そこでは専門分野の知識の習得も必要とされます。
ここまで会計事務所で働くパートの仕事について解説しましたが、初めて会計事務所で働くという方にとってそのような仕事は難しいのでしょうか?
結論から申し上げると、パートの求人の中だと会計事務所の仕事は難しいといえるでしょう。事務作業が多いとはいえ、誰もが知っているというわけでは無い専門知識が必要であり、かつクライアントのお金を扱う仕事のため、ミスが許されないのです。
そのため、どんな業務でもいいからパートの仕事をしたいという方は、あまり会計事務所では働いていません。ではどのような人が働いているのでしょうか?
会計事務所ではだいたい以下のような方たちが働いています。
経理の仕事をしていた主婦の人が、結婚や出産で退職して会計事務所でパートというのはよくあるパターンです。また、経理出身かどうかに関わらず、主婦がパートとして働くケースはよくあります。
そうした人が働いているということは、育児などとの両立がしやすいということの裏返しでもあります。事務所ごとに状況は異なりますが、産休や育休の制度が確立されていたり、リモートワークやフレックスなどの働き方が可能なことなどが人気の理由です。
また、税理士補助の仕事は基本的にルーティンワークのため、長期の休職期間があっても滞りなく業務に復帰しやすいのも、主婦が働きやすい要因でしょう。
税理士試験は年に1回のみの試験で、最終的に5科目合格する必要があります。難易度が高いため、合格までに10年かかることもあるような試験です。また、将来的に税理士の資格を取って独立するためには、2年間の実務経験が必要になります。
そのため、会計事務所には実務経験を積みつつ受験勉強に励むという受験者が多く働いています。なぜパートかというと、試験勉強の時間を確保しやすいからです。日常的な勉強時間も層ですが、会計事務所では税理士試験がある夏が閑散期であることが多く、一般企業で働くよりもよりも試験前後の長期休暇が取りやすいというメリットもあります。
会計事務所のパート職員の時給は、最低賃金〜1,500円程度といわれています。事務職のパートと大体同じ位か、やや高い傾向にあるようです。
ただし、地域や任される仕事だけでなく、パートとして働くのに有利な資格やスキルを持っていることで、時給アップにも繋がりやすくなります。次の章では、そんな会計事務所で働くにあたって求められる資格やスキルについて、解説します。
会計事務所で税理士補助として働くために、絶対に持っておかなければならない資格やスキルはありません。
ただ、持っていると優遇されたり、多くの求人で必須とされている資格やスキルは存在します。
簿記は会計事務所での就業を検討している方なら、一度は聞いたことがある資格でしょう。中でも日商簿記2級は、是非取得することをオススメします。その理由は多くの会計事務所の求人が、パートであっても日商簿記2級を必須資格としているからです。もし必須資格として記載が無かったとしても、同程度の知識は業務に必要になるため、持ってなければ取得しておくと良いでしょう。
会計事務所で求められる資格として、税理士や公認会計士を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、税理士補助のパートとして働くにはオーバースペックになってしまいます。難易度が高く取得までの時間もかかるため、日商簿記2級が最適といえるのです。
会計事務所はデスクワークで一人でやるものというイメージもあるかもしれませんが、クライアントとのコミュニケーションが欠かせない仕事です。巡回訪問までしないとしても、仕訳の際に不明なものがあればクライアントに確認することもありますので、円滑な関係構築ができるかどうかは重要視されます。
今どきお金の重要な計算を全て紙で行うような会計事務所はありません。会計ソフトを利用しExcelなどに入力することが一般的です。
未経験の場合は初めから会計ソフトを使えなくても問題ないものの、キーボードを正確に叩けて、ツールも最低限は使える必要があります。
上記のように、会計事務所のパートとして働くのは決して簡単ではありませんが、その分働く魅力もあります。
ご紹介したように、会計事務所ではパートであっても専門知識の習得が求められます。「大変」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、身につけることができれば一生モノのスキルとなり、継続的に働きやすくなります。様々な職種を転々とするよりも、安定的な働き方がしやすくなるでしょう。
業務の専門性が高い分、スキルを身につけたパートの方の需要は高く、事務所にとっては長く在籍してほしい存在となります。そのため、そのような方の時給は上がりやすいです。一般的なパートでは同じ職場で時給が大きく上がることは少ないため、会計事務所ならではの魅力の一つと言えそうです。
ご紹介したように、税理士業界は慢性的な人材不足に陥っているため、未経験の方も受け入れている事務所が増えています。業務の専門性が高いので、研修や教育に力を入れていることが多いです。
会計事務所は繁忙期と閑散期の波があり、確定申告のある1~3月と、担当企業の決算対応が重なる4~6月頃は忙しい時期です。
この時期は業務量が増えるため、正社員の残業は増えるものの、時給制のパートタイムの従業員に残業を課すケースはあまりありません。
他方、業務の専門性が高いため、未経験から働く場合は覚えることが多く、税法改正が頻繁に行われることから継続的な勉強が求められます。「税理士補助がきつい」と感じる理由について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
どうしても会計事務所のパートとして働いている中で、「きつい」感じることはあるかも知れません。そのような時の主な対処法について紹介していきます。
ご紹介したように、税理士試験の勉強をしながら税理士補助として働く方も一定数いらっしゃいます。
そのような方は、試験合格して税理士登録すれば、税理士にしかできない独占業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)を担当できるようになります。そうすれば、業務に対する苦痛の解消や、資格手当などによる評価・給与の安定、キャリアへの不安などが解消しやすくなるでしょう。
また、税理士を取得することで、税理士事務所などを独立開業することも可能になりますので、事業主として自分に合った仕事にカスタマイズできます。
とはいえ、パートとして働く方の中には、税理士を目指すつもりはないという方も多いと思いますので、他の解決策を考える必要があるでしょう。
勤めている事務所でどうしても解消できない悩みを持っているようであれば、無理して働き続けるのではなく、他の事務所に転職するのがベストでしょう。例えば、「繁忙期は土日も働くことがある」ことに懸念を感じているのであれば、土日は必ず休める事務所に転職することで解消することが出来ます。
転職は近年ネガティブな印象が薄くなっており、転職市場は活発化しています。また、税理士業界は、実務経験者の中途採用を積極的に行っているため、ニーズが高いでしょう。
会計事務所に向いている人の特徴として、主に以下が挙げられます。
これらの特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。向いていない人の特徴も含めてご紹介していますので、併せてご参照ください。
会計事務所の代表を務める税理士に定年は無く、会計事務所でも高齢まで働けることが多いです。未経験から働く場合、正社員では年齢が関係する場合がありますが、比較的採用コストがかかりづらいパートタイムでは40代や50代でも採用される可能性が高いです。
より確実に転職に成功したいという方は、士業・管理部門特化の転職エージェントであるヒュープロをご活用いただくのもオススメです。書類添削や面接対策など、業界特化の特徴を活かして実施しておりますので、まずはご相談からお待ちしております!
最後に、当社ヒュープロで転職をご支援させていただいた方の中で、もともと会計事務所でパートとして勤務しており、正社員として別の会計事務所に転職された方に、当時のパートでの仕事について伺いましたのでご紹介します。
会計事務所で働くまでは一般事務をしていましたが、学生時代に取った簿記2級を活かした仕事がしたいと考えるようになり、会計事務所に転職しました。それまでは正社員として働いていましたが、子育てとの両立を図りたいこと、未経験からでも働きやすいことから、パートで働くことを選びました。
会計事務所での仕事ができるか不安ではありましたが、ルーティンワークの部分も多いため、やっているうちに覚えられた、という部分も多かったです。また、一般事務に比べてクライアントの役に立っているという実感がわきやすく、やりがいを感じやすかったです。もちろん、パートタイムで残業は基本的に無かったため、子育てや家事の時間も確保することができました。
直近は、子育てがある程度落ち着いてきたために正社員としての転職をしましたが、パートとして働きやすい職場だったと感じています。
今回は、会計事務所でパートとして働くことが難しいのかについて解説しました。
会計事務所のパートはそこまで特殊なわけではなく、募集要項にもよりますが、パートである場合、簿記資格や税理士試験の科目合格については必ずしも必要とされません。未経験でもOKというところも多くありますが、やはり知識がある方が仕事はスムーズです。
簿記の考え方は、家計簿をつけることにも役立ちますし、節税方法は自分たちにも応用できることもあるかもしれません。パート先を考えている場合、ぜひ会計事務所も候補に入れてみてくださいね。