会社は人材整理としてリストラをする反面、有望な人材には残ってほしいと考えています。人材不足が深刻になっている今、従業員のリテンション(確保、定着)は企業における大きな課題の一つです。今回は離職を防ぐためのリテンション施策について解説します。
リテンションとは、英語でretention。保留、保有、保持という意味があります。
「リテンション施策」という言葉は、マーケティングの文脈で使う場合と、人事の文脈で使う場合で意味が異なります。
マーケティングで使う時の意味は「既存顧客に対する活動」。すでに購入・サービスの利用履歴があるお客様に対して、自社ブランドとの安定的な付き合いを継続するために行う施策のことです。
同じ言葉でも人事で使うときの意味は、「人材の維持・確保」を意味します。このことから、 リテンション施策とは、社員の退職を防ぐために企業がおこなう施策 を表わします。
企業にとって優秀な社員であればあるほど、他の企業からより良い条件でのオファーを得て転職してしまうのは大きな痛手です。
社員が「この企業でずっと働きたい」と思えるような施策を実施することが、企業からの人材流出を防ぐことになります。
リテンション施策は、金銭的報酬/非金銭的報酬に分けられますが、それぞれ具体的にどのような施策を行うのかを、次の項から見ていきましょう。
私たちが退職を考えるようになる大きな原因の一つに、給与・賞与の金額があります。
それは、自分にあたえられる金額もそうです。絶対的に金額が少なければ「給与が少ない」と不満に思うのは当然のこと。
しかしながら、多ければ良いかというとそうもいきません。
人は相対的な評価を気にします。例えば、自分が1000万円もらっていたら満足かというとそうではないのです。仮に自分だけでなく自分よりも明らかに働いていない、成果を出していない人も同じ金額だったらどうでしょうか。
「なぜあの人があれだけもらえるの?」
「あの人より自分は高い給与じゃないとおかしい」
と思うのではないでしょうか。
という不公平感もあるのではないでしょうか。
つまり、リテンション施策とは一律に給与や手当を上げれば良いというものではなく、退職してほしくない人に対して、納得感のある人事・給与体系を作るということも含まれてくるのです。
人事考課の仕組みや、競合他社との比較もあわせて、金銭的報酬を考える必要があります。
リテンション施策のもう1つ内容は「目に見えない」報酬です。
最近では給与だけではなく「働きやすさ」に注目が集まっています。いくら給与が高くても働き方がブラックでは「働きたい企業」として社員が定着しません。
では、具体的に非金銭的報酬とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
そのために必要なのはワークライフバランスを実現させることです。
具体的には、社員が働きたい形式で働ける柔軟な制度を取り入れる必要があります。
例えば、在宅勤務やフレックスタイム制を導入している企業は多いですが、実際にそれを使いたい人が使いたいように活用できているというケースは少ないです。
しかし、これから育児や介護などの家庭の事情と仕事を両立させたいという方であれば、給与面よりもこうした働き方ができる企業の方に魅力を感じるのは当然のことです。
いくら給与が良くても、拘束時間が長く、オフィスにずっといる必要がある場合は、仕事のために自分の生活を犠牲にすることになります。様々な環境にある人材を活用できる企業になることは、これから企業の人事政策としてより強く求められていくでしょう。
オフィスは仕事に特化して作られた空間です。
例えば、高機能のPCやプリンタ、使いやすいデスク、長時間座っても疲れにくい椅子など、仕事の必要なものがそろっています。
オフィスで仕事がしやすい、充実した環境というのは、働く人にとって魅力の一つです。
例えば、駅からのアクセスが良く、おしゃれで、カフェスペースや美味しい社食があったりするなど、訪れたくなるオフィスにするというのは、企業にとっても付加価値を高める方法の一つだったのです。
しかし、最近では、コロナ禍もあり在宅勤務への移行から、オフィスを縮小する企業も増えてきました。
このときに、環境整備やかかる光熱費などについての手当がある会社は、社員の就業環境をちゃんと考えているとアピールできます。
社員が他の会社から見てもほしい人材になるためには、自己啓発をしてもらう必要があります。スキルアップの勉強やセミナー参加などに関する取り組みを補助として後押しするのも、立派なリテンション施策です。
こうした目に見えない「この企業で働く特典」が積み重なることにより、社員にとって「この会社は自分を大事にしてくれる」というリテンションとなります。
かつて、就職氷河期の世代を採用・教育しなかったツケがまわり、企業ではいずれも中間層の人材不足で悩んでいます。
解雇や雇い止めのニュースも流れていますが、社員数をただ減らしただけでは、優秀な人材が流出してしまい、本当に会社に残ってほしい人も辞めてしまう……というジレンマを抱えているのです。
離したくない人材を流出させないためにも、リテンション施策への取り組みはこれまでよりも一層求められるでしょう。