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2020年に自宅の売却損が出た場合の特例

税理士 川口拓哉
2020年に自宅の売却損が出た場合の特例

Covid-19の影響が長期化する中、やむを得ず自宅の売却を検討し始める方もいらっしゃるのではないでしょうか。市況の低迷によって安い金額で売却せざるを得なくなった場合、売却による損失が生じることも想定されます。今回は、自宅の売却損が生じた場合における所得税の特例について解説していきます。

自宅の売却損の取扱い

(1) 原則
所得税法では、自宅の売却損益について「分離課税」を採用しています。「分離課税」とは、他の所得(たとえば給与所得)と分離して税金の計算を行う方法です。他の所得と分離して計算を行うので、たとえ自宅の売却により赤字が出たとしても、その赤字は他の所得の黒字とは通算(相殺)できないのが原則です。

たとえば、給与所得が500万円の甲さんが自宅の売却損500万円を出したとしても、甲さんのその年の所得税額の計算において自宅の売却損500万円は何ら考慮されません。

(2) 特例
以上が所得税法の原則ですが、国税に関する特例を定めた租税特別措置法に、この原則に対する例外規定が二種類用意されています。両方とも大まかな効果は同じで、「自宅の売却損を他の所得と通算でき、通算しきれなかった分は翌年以降3年間繰り越すことができる」というものです。

特例の適用を受けられる場合、上述のAさんは給与所得500万円から譲渡損失500万円を引くことができるので、その年の課税所得の金額が0となり、よって所得税額も0円になります。所得税額が0円になれば、その年に会社から源泉徴収されていた税金が確定申告により戻ってきます。

特例の適用を受けられる場合

次のAもしくはBの要件を全て満たせば、特例の適用を受けることができます。

特例の適用を受けられる場合

特例の適用について、具体例を用いて説明します。
【特例の適用を受けようとしている乙川さん】

・2010年5月に自宅(土地付建物)を5,000万円で購入し、同年6月に居住を開始
・2020年8月、勤務先の倒産によって収入の見通しが立たなくなったため同月に自宅を3,000万円で売却する契約をS不動産との間で締結、同年9月に譲渡(譲渡所得は▲1,400万円とする)
・自宅を譲渡した後は賃貸アパートに居住している
・譲渡の前日に、住宅ローン残高が4,000万円残っている

【乙川さんが適用要件を満たすかの判定】

・2020年1月1日時点で取得(2010年5月)から5年超が経過している
・譲渡相手はS不動産であって、親族ではない
・2018年、2019年に自宅の譲渡益特例を受けていない
・譲渡の前日に、住宅ローン残高が残っている
⇒以上から、乙川さんは特例Bの適用要件を満たす(確定申告書の提出を行えば)

乙川さんが特例の適用を受けた場合の効果

特例Bの場合、他の所得と通算できる金額は、次のいずれか少ない方の金額です。

① 譲渡損失の金額
② 住宅ローン残高から譲渡対価(売却により受け取る現金)を引いた金額

乙川さんの場合、①は1,400万円で②は4,000万円-3,000万円=1,000万円なので、他の所得と通算できる金額は1,000万円です。たとえば、乙川さんが会社員で他に収入がない場合、乙川さんの給与所得から1,000万円を引いた金額(マイナスの場合は繰越)が、乙川さんの2020年の所得金額となります。

乙川さんが特例の適用を受けるための手続き

上述したとおり、特例の適用を受けるためには確定申告書の提出が必要です。乙川さんが2020年に提出すべき確定申告書、明細書、計算書は次のとおりです。

・確定申告書B(第一表、第二表)
・確定申告書第三表(分離課税用)
・譲渡損失の金額の明細書
・譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書

各種申告書などの様式は、国税庁のホームページに用意されています。

出典:特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用を受ける場合の確定申告書等の書き方(措法41の5の2)|国税庁

もちろん、上記の書式を印刷して自分で記入することもできますが、国税庁の「確定申告書作成コーナー」を使うとより便利に作成ができます。なお、2020年11月現在で、乙川さんが次のいずれかに該当する場合、乙川さんの2020年の確定申告書は「確定申告書作成コーナー」で作成できませんのでご注意ください(この場合は手書き、もしくは市販のソフトで行います)。

・2020年に退職所得がある場合
・2020年が白色申告で、かつ変動所得の金額または被災事業者資産の損失がある場合
・自宅の譲渡損失の金額が10億円以上である場合

出典:確定申告書等作成コーナー|国税庁

2021年以降にも確定申告書の提出が必要な場合

2020年に控除できなかった損失の金額を繰り越して2021年以降の黒字の所得と通算するときは、2021年以降も確定申告書の提出が必要です。

たとえば、乙川さんの2020年の給与所得が500万円で他に所得がなく、通算できる損失が1,000万円だった場合、500万円の繰越額がありますので、2021年の所得税の申告でこの500万円を他の黒字の所得との通算に使うことができますが、この場合は確定申告書B(第一表、第二表)の提出が必要です。

2021年以降にも確定申告書の提出が必要な場合

まとめ

今回は、自宅の売却損が出た場合の所得税の特例を紹介しました。自宅の売却は大きな金額が動くので、特例の適用可否や税額の計算で疑問点があれば、最寄りの税務署または税理士にぜひご相談ください。
なお、記載の情報は2020年11月時点の法令等に基づきます。

この記事を書いたライター

税理士事務所代表。社会人5年目で経理職に転じ、以降は経理畑。事業会社に勤務しながら税理士試験の勉強を始め、官報合格。移転価格税制対応業務や、外資系企業日本法人の各種申告業務の経験などを有する。
カテゴリ:コラム・学び

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