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知っておいて損はない労務リスク リスクマネジメントについて解説します!

社会保険労務士 小西千里
労務リスクとリスク回避のマネジメント

未払い残業代を請求された、従業員同士のトラブルに会社の責任を問われた、など会社はさまざまな労務リスクを抱えています。皆さんの会社が抱える潜在的なリスクや労務リスクを回避する方法は具体的にはどのようなものでしょう。今回は労務リスクとリスク回避のマネジメントについて解説していきます。

未払い残業代請求という労務管理のリスク

労働基準法が改正され、時間外に上限規制が適用されたことはご存じでしょうか。働き方改革の号令による法令の改正により、働く人の長時間労働や残業代への関心は高まっています。従業員がわが社の残業代の計算方法について疑問を感じる可能性は高まっています。
参考:時間外労働の上限規制|改革と36協定

未払い残業代発生の状況

2019年度に労基署(労働基準監督署)が行った「賃金不払残業監督指導」の是正結果が公表されています。2019年度の1年間で100万円以上の未払い残業代を支払った企業は1,611社ありました。7万人を超える労働者に未払い残業代が支払われています。また、そのうち1千万円以上支払った企業は161社にも上ります。
出典:監督指導による賃金不払残業の是正結果|厚生労働省

未払い残業代が発生するのには次のような状況があります。

1.タイムカードなどで出退勤の時間を記録していない
2.残業時間をあらかじめ月何時間と決めてそれ以上の残業代は支払っていない
3.30分以内の残業代は支払わないなど時間を切り捨てている
4.固定残業代の範囲を超えた残業代を支払っていない
5.法定時間外労働や深夜労働の割り増し賃金を支払っていない

思い当たることがあれば、少しでも早く現状を見直し改善策を考えましょう。

未払い残業代 リスク回避の労務管理

まずは、従業員の労働時間を正しく把握することが重要です。出勤時間と退勤時間は必ずタイムカードなどで記録をさせましょう。従業員が使用するパソコンやスマホを使って出退勤の時間を記録するクラウド勤怠システムなど初期費用がかからないものもあります。クラウド勤怠システムと給与計算システムを連携させることで、より正しくより簡単に給与計算をすることもできます。

次に、従業員が会社にいる時間が労働時間なのかそうではないのかをはっきりさせておきましょう。例えば、始業時間よりも早く会社に到着していても、その時間を従業員が自由に使っていれば労働時間とはいえません。ところが始業時間よりも前に上司の指示により作業を始めたとすれば労働時間に該当します。

また、業務を命じて残業させている、命じた業務をこなすために必要な残業をしていた、という時間は労働時間です。しかし、命令も業務もないのに机の前に座っている時間は労働時間とは言えないでしょう。

特別な事情がなければ始業前には業務を命じない。業務が終了すれば退勤するように指導をしておく。時間外に業務を命ずるときや命じた業務が所定時間内に収まらない場合は業務の内容や状況を記録として残しておく。これらの労働時間の管理は管理職や現場の責任者の役割であると意識しておきましょう

また、労務管理の担当者は部署ごとの現状や時間外勤務の状況を把握し、会社のルール通りの運用がされているかを随時チェックすることも重要です

未払い残業代 法令遵守の給与計算

給与の計算方法にも注意が必要です。雇用の際に交わした労働契約による所定労働時間分の給与を支払うことは当然、所定労働時間を超えて働いた時間についても給与を支給しなければなりません。

時間外勤務について、30分単位で切り捨ててもよい、というような決まりはありません。「月で集計した時間に1時間未満の端数があった場合、30分未満なら切り捨て、それ以上なら1時間に切り上げる」ということが厚生労働省の通達で示されています。切り捨てと切り上げはセットになっています。

一人一人の給与を手計算で算出している場合を除くと、この端数処理のメリットは少なく、1分単位で計算することが最も単純で無駄がない方法ではないかと考えます。

また、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えた残業や、午後10時から翌午前5時までの間の深夜労働については割増賃金を支払わないといけません
割増賃金についてわからないことがあれば会社の所在地を管轄する労働基準監督署に問い合わせることができます。また、身近な労務の専門家である社会保険労務士に相談してもよいでしょう。

未払い残業代 法令遵守の給与計算

パワハラの放置という労務リスク

2020年6月にパワハラ防止措置を企業に求める「改正労働施策総合推進法」が施行されました。これまでも社内で起こったパワハラについて、企業の安全配慮義務違反や使用者責任を問われるケースは多くありました。法改正により、社内のパワハラを放置することで企業の責任が問われる場面がより多くなると予想されます。
参考:進んでいますか?社内のパワーハラスメント対策

増加するパワハラの現状

2019年度に全国の労働局や労働基準監督署などに設けられた総合労働コーナーに寄せられた1年間の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は8万7千件を超え、解雇や自己都合退職に関する相談などの件数を上回り8年連続でトップとなっています

また、2019年度に発生した精神障害による労災補償509件のうち、ひどい嫌がらせやいじめを受けた、上司や同僚、部下とのトラブルがあったと認定されたものの合計は106件と発表されています。ひどい嫌がらせやいじめ、人間関係のトラブルでうつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受けるケースが後を絶たないのです。
出典:「あかるい職場応援団」データで見るハラスメント|厚生労働省

パワハラの放置 リスク回避の労務管理

裁判事例を見るとパワハラの事実について、会社に相談したけれど取り合ってくれなかったことにより、会社に対して損害賠償を求められることがあります

会社は、社内でパワハラが起こらないようにルールを示し研修を行うなどの防止措置を取らないといけません。パワハラの被害を訴える従業員の相談に対応することも求められます。特にパワハラの行為者が責任のある立場だ、とか、営業成績が良い、などの理由で行為者を擁護する言動を取ってしまいがちです。まずは、公平な姿勢で相談に耳を傾けなければなりません。

パワハラの相談は予告もなく予想もしない状況で寄せられるものです。相談担当者がいつでも相談に応じられるように研修を受けさせるなどの準備が必要です。また、相談担当者一人に任せるのではなく組織として対応できる仕組みを問題が起こる前に作っておきましょう

長時間労働が続き、心身ともに疲れた状態になると些細なことで従業員同士の衝突が起こることも考えられます。従業員同士のコミュニケーションが取れているかという観点で現場の労働環境をチェックすることも必要でしょう。ストレスチェックを活用して職場の環境を改善することも有効な対策です

出典:ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等|厚生労働省

労働保険や社会保険の届け出不備などのリスク

多様な働き方が増え、従業員一人ひとりの雇用条件が違うという会社も増えています。従業員それぞれに適用される保険や制度を理解しているでしょうか。労災保険と雇用保険、健康保険などの適用の基準はそれぞれ異なります。実態に応じた労働時間や雇用期間で雇用契約をし、それぞれに適用される保険の手続きをもれなく行うように注意しましょう。

また、労働基準法や労災保険は企業単位ではなく、事業場単位で適用されます。支社や支店、出張等についても必要な手続きに漏れがないか確認しておきましょう。

まとめ コンプライアンスと労務リスク回避

労務リスク回避の一番のポイントは法令を遵守すること、すなわちコンプライアンスです。法令を遵守した日ごろからの備えや早め早めの措置により労務のリスクは回避できます

ところが、労務管理に関する法令は多岐にわたり、働き方改革のもとで最近は法改正が頻繁にあります。労務担当者が法令を熟知していても経営者の意図や社内の業務量などにより法令を遵守した運用に修正することが難しい事象が出てくることも予想されます。

会社の身近な労務の専門家である社会保険労務士なら、会社それぞれの現状に応じた労務リスク回避の提案が可能です。労務の担当者だけでは改善できないときは、一度専門家への相談を検討なさってください。

この記事を書いたライター

自治体職員として25年間勤務後、京都にて社会保険労務士事務所を開業。就業規則などのルール作りと併せて社員研修の実施を提案している。特にハラスメント対策や働き方改革では、会社の現状により異なる「課題感に寄り添った提案」が好評である。
カテゴリ:コラム・学び

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