取引が行われたことの証拠となる証憑(しょうひょう)を取り扱う会計事務所の仕事はテレワークでは難しいと思われがちです。しかし、会計事務所の仕事でもきちんとポイントを押さえておけばスムーズにテレワークに移行できます。この記事では、会計事務所の仕事をスムーズにテレワークに移行するためのポイントを紹介していきます。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを言います。
一般企業において、働き方の一つとして、テレワークを導入する動きは、今般の新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から急速に普及・定着しつつあり、会計事務所においても例外でなく、テレワークという働き方は、会計事務所の使用人の就労形態や雇用の確保、あるいは会計事務所で働く人が自らの業務を行う上で重要な関心事となっています。
「After コロナ」や「with コロナ」の時代においては、テレワークという働き方はもはや特別な働き方ではなく、多用な働き方の一つとして、今後あらゆる業界に属する企業や組織に普及していくものと考えられます。
したがって、会計事務所の業務もテレワークでできるように対応していかなければなりません。会計事務所の業務は主にクライアント(取引先)の記帳代行業務です。記帳代行業務そのものはテレワークでも行うことが可能です。
取引の証拠となる証憑(領収書や納品書など)さえあれば、記帳代行業務はPCで作動する会計ソフトを利用して行われるので、会計事務所におらずとも自宅で会計ソフトを利用することさえできれば業務として行うことができます。
ただし、クライアントの証憑は取引の証拠となるもので、一般にどのような取引があったかは秘密にしておかなければなりません。テレワークで記帳代行業務を行う場合であっても、守秘義務が課されることになります。したがって、会計事務所の主な業務である記帳代行業務は、テレワークでも行うことができますが、証憑の取り扱いは慎重に行う必要があります。
会計事務所は、通常、クライアントの「記帳代行業務」を行うことが主な業務となりますが、税理士事務所として登録を行っている会計事務所の場合には、「記帳代行業務」に加えて「税理士業務」を行うことが可能となります。
ここで、税理士事務所として登録を行っている会計事務所においてテレワークを行うには十分に注意しなければならないポイントがいくつかあります。
まず、税理士の職務や使命について規定している税理士法の第2条では、第3者の求めに応じて、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」といった業務は、税理士だけができる業務(税理士業務)であり、これらの業務を税理士の資格をもたない人が行うことは非税理士行為とよばれ税理士法に違反した行為となると定められています。
税理士法第52条は、「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。」と規定しており、税理士又は税理士法人でない者が、原則として「税理士業務」を行うことは禁止されています。これに違反すると、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第59条第1項第4号)
さらに、税理士法第40条第1項では、税理士業務を行うための事務所を設けることが義務付けられています。したがって、事務所を設けずに税理士業務を行うことは税理士法に抵触することになります。ただし、税理士業務を行うための事務所さえ設置されていれば、税理士業務について税理士事務所以外の場所で行うことは制限されていません。したがって、テレワークでたとえば自宅にいながら税理士業務を行うことは何の問題もないと考えられます。
なお、税理士法第40条第3項によれば、2か所目の税理士事務所を設置することは禁止されています。したがって、職場を第1の事務所、自宅を第2の事務所というようにすることはできません。
ただし、臨時的に仕事を自宅に持ち帰り税理士業務を執行したり、自宅への来客に対し一時的に税務相談に応じる等の行為を行ったとしても、自宅が外部に対する表示の有無等の客観的事実により税理士事務所と判断される状態でなければ問題はありません。したがって、自宅でテレワークを行う場合であっても、そこが税理士事務所ではなく、自宅であることがわかるのであれば問題ないということになります。
税理士業務の補助業務を行うにあたり、使用人等(税理士業務の補助を行う会計事務所の従業員)が、クライアントの資料等を自宅に持ち帰ることがある場合、守秘義務を遵守できる保管場所等の確保が求められます。
具体的には、税理士・税理士法人の使用人等に対する監督義務(法第41条の2)の適正な履行が必要であり、この義務は使用人等の業務執行の場所を問うものではないことから、使用人等が税理士事務所以外の場所で業務を行う場合でも税理士事務所における税理士又は税理士法人の監督下にあることが求められます。
使用人等が税理士の監督下にあるか否かの判断については、この監督義務が課された趣旨が、税理士事務所の使用人等の非違行為の防止の観点からのものであることを考慮すれば自ずとわかるものです。自宅での業務に非税理士行為を防止するための一定の制限を加えれば、使用人等に対する税理士の監督が存する状態と捉えることは可能となります。
したがって、より具体的には、テレワークの現場において、次のようなシステムが組み込まれていれば、使用人等に対する監督義務が果たされていると捉えることは可能であると考えられます。
・ システムログイン、ログアウトの際の確認を税理士又は税理士法人が行うような機能を加えることなど。
・ 使用人等の自宅での業務記録(ログ)を保存し、税理士又は税理士法人が確認できるような機能を加えることなど。
・ 特に税務書類作成業務の補助業務について、税理士又は税理士法人の確認を経てからでないと申告事務に入れないような機能を加えることなど。
・ 自宅における使用人等の非税理士行為を防ぐため、税務書類等の印刷、電子送信を 自宅においてできない機能を加えることなど。
・ 新規顧客の登録事務を制限すると、当該事務は税理士事務所でしか行えなくなり、非税理士行為等の防止に相当程度期待できる。
以上のように、会計事務所においては、記帳代行業務を行ううえではテレワークはそれほど問題とはなりません。しかし、記帳代行業務に加えて、税理士業務を行う場合には、いくつかの工夫が必要です。特に、税理士業務を行うことができるのは税理士だけである点を厳重に守ることが重要となります。また、クライアントのプライバシーに配慮し、守秘義務を遵守する仕組みづくりも重要となります。