会計事務所は離職率が高い(定着率が低い)というイメージが強いかも知れませんが、その退職理由は様々です。今回は会計事務所を退職する方の退職理由や、退職後にどのような解決策を講じればいいのか、そして会計事務所での経験が活かせる職場や転職に成功させるポイントまで、徹底解説します!
まずは、会計事務所を退職する代表的な理由を見ていきましょう。
会計事務所の退職理由で最も多い理由は給与が低いことです。近年、会計事務所の主な収入の源泉であった記帳代行業務は、AIに取って代わられてしまっており、会計事務所で行わずとも、誰でも簡単にできるようになっています。特に個人事業主は、有料の会計ソフトを使うだけで簡単に記帳業務をすることができるので、わざわざ会計事務所に記帳代行業務を依頼することは、ほぼ無くなっています。
それでは、誰が会計事務所を使うのかと言えば、売上高が月商で500万円を超えるような中小企業です。月商で500万円を超えるようになれば、経理部で行う仕事も膨大になり、従業員も多くなることから、自社の人員だけで経理業務を行うのに限界があるため、会計事務所に仕事を依頼するようになります。したがって、会計事務所には、中小企業からの記帳代行業務が多く依頼されることになります。
記帳代行業務が自動化されていること、そして、中小企業からの記帳代行業務が多くなっているため、会計事務所では、難易度が高い会計処理が必要な業務が依頼されるようになります。その結果、会計事務所で働く人には、難易度の高い数多くの業務を1人でこなさなければならないことになります。しかも、記帳代行業務自体は、自動化の波があって安く請け負わざるを得なくなっています。
その結果、安く大変な仕事を請け負わなければならなくなってしまうので、会計事務所で働く人々の給料も自然に低くなってしまいます。そうなると、仕事の量に対して給料が見合わないと感じる人が多くなり、多くの人が会計事務所を退職するようになります。だから、会計事務所を辞めるのは、激務だからというわけではなく、労働と労働の対価である給与が見合わないと感じるようになって辞めてしまうことがほとんどです。
会計事務所を辞める理由としては、税理士試験との兼ね合いも理由の一つとして挙げられます。会計事務所には、将来的に税理士になろうと思って入社してくる人が多くいます。税理士試験に合格するためには、5年10年という期間が必要となるため、その間に少しでも経験を積むことを目的として会計事務所に入社するわけです。
しかし、上でも説明したように、会計事務所の仕事は大変で、多くの人が、理想と現実のギャップに入社後戸惑いを感じるようになります。そんな状況のなかで、税理士試験の合格に向けて勉強しなければならないことになりますから、税理士試験を受験する予定の人にとっては大変です。
仕事が忙しくなると、多くの人が税理士試験との両立が難しくなってしまい、会計事務所を辞めてしまう傾向にあります。つまり、税理士試験との両立が難しくなることも、会計事務所を退社する理由の一つと考えられます。
税理士事務所は規模が小さいと所長の色が強く出るようになります。小規模な会計事務所ですと所長の経営方針や考え方がその事務所の雰囲気に大きな影響を及ぼしてしまいます。もし勤めている所長との相性が合わなかった場合、事務所での居心地は非常に悪いものになってしまうでしょう。そんな環境で長く働き続けるのはとても苦痛です。所長との相性が悪かった場合その事務所はやめるしかないでしょう。
会計事務所の特徴として、業務量の多い繁忙期と業務量の少ない閑散期の差が大きいことが挙げられます。繁忙期の働き方は一般的にハードであり、100時間を超える残業や休日の出勤が求められるケースもあります。このような働き方に対して、嫌悪感を抱かない人はむしろ少ないと思いますが、特に親の介護や子どもの保育園の送り迎えなどで、時間的制約がある場合については、より退職を考えやすい要因となります。
会計事務所は未経験からでも就業可能であるため、簿記の知識は少しあるが全く実務はやったことが無いという人も働くことができます。そのような方にとって、入社後の教育環境や研修の充実度は重要な要素となります。
会計事務所には、従業員が10名未満の零細事務所が多いという特徴があります。そのような規模の事務所では教育や研修を制度として構築していないケースも多く、「見て学べ」といったスタイルも存在するのが実情です。未経験でそのような会計事務所に入社した場合、ミスマッチを起こす可能性が高く、退職に繋がることがあります。
これは正直どの業界でも起こり得ることではありますが、内定通知書や労働条件通知書などでもらっていた、もしくは面接で伝えられていた内容と、実際に入社してからの仕事や条件に齟齬があるケースがあります。本来は微々たる相違でもあってはなりませんが、「可能とされていたリモートワークができない」・「担当できると思っていた仕事を任せてもらえない」・「通知書に記載されている給与の金額が実際と異なる」など、生活やキャリアに大きな影響を与える部分での相違があると、退職に繋がりやすいでしょう。
この理由については、入社から1ヶ月後ごろまでに認識されることがほとんどですので、早期退職を引き起こしてしまいます。
ここまで6つの会計事務所を退職する理由について解説しましたが、これらを解消するためにどんな方法があるのか、紹介していきます。
まずは退職する前に、懸念に感じているポイントが解消できないのかを検討しましょう。所長との相性など、どうしても変えられないものもありますが、解決可能であればまずはアクションしてみることをオススメします。
もし解決できずに退職することになったとしても、課題解決に主体性を持って取り組んだというのは、転職活動におけるアピールポイントにもなりますので、決して損をすることはないでしょう。
他の会計事務所に転職することで懸念点を解消するのも、有効な手段といえます。例えば税理士試験の支援環境や教育環境などは、同じ会計事務所でも千差万別です。より環境整備がされている職場に転職すれば、長く働き続けることも期待できるでしょう。
逆に、繁忙期の忙しさや年収面など、会計事務所の業界全体としてなかなか解消しづらい問題に懸念を感じているのであれば、他の職種に転職するのがオススメです。もちろん、繁忙期でもほとんど残業が発生しない会計事務所や、給与体系が高い会計事務所が無いわけではありません。
しかし、そのような事務所の転職先としての人気は高いため、会計事務所の仕事に拘りが無ければ、経験を活かして他の職種への転職を目指した方がむしろ転職を成功させやすい可能性があります。会計事務所の経験者は具体的にどのようなキャリアの選択肢があるのか、次の章で紹介します。
会計事務所辞めた後、他の会計事務所で働く以外の人々はどのようなキャリアを歩んでいるのでしょうか?具体的に紹介します。
会計事務所の経験者は、税務や会計など特定の分野においては一般的な企業経理よりも業務経験を積んでいるケースがあるため、事業会社の経理職としてのニーズも高いです。
事業会社は、人事制度や福利厚生が整備されている企業が多く、給与体系も比較的高い傾向にあります。また、働きやすい環境が整備されているので、ご紹介した懸念点を解消しやすい職場といえるでしょう。
会計事務所で働いた知識を活かして、コンサルティングファームへ転職してキャリアアップする人も多くいます。会計・税務という仕事に関わるということは、企業経営の根幹に関わることになります。会計数値は経営成績や財政状態を示す鏡です。そのため、会計・税務に関わった経験は企業経営にも活かすことができます。
会計事務所で関わることが多いのは中小企業です。そのため、会計事務所で働いていれば、自然に中小企業経営にも詳しくなっていきます。結果として、会計事務所で働いた経験と知識を活かせば、特に中小企業経営に詳しいコンサルタントとして活躍することができます。
会計事務所からのキャリアアップや転職を考える場合、多くの人がその選択肢に入れるのが金融機関への転職です。金融機関では与信業務があります。与信業務とは、簡単に言えば、その会社にお金を貸すかどうかを判断する業務です。ここで、判断材料となるのは、与信先の財務諸表となります。貸借対照表や損益計算書、資金繰計算書などから、会社の財政状態や経営成績を読み取ります。
そのため、会計事務所で働いた経験があれば、当然財務諸表を読むことも苦にならず、財務諸表から会社の財政状態や経営成績をより詳しく読み取ることができるため、金融機関における与信業務も問題なくこなすことができます。
先に説明したように、会計事務所を退社する人の多くは、労働とその対価である給与が見合っていないことに不満を抱えて退職していきます。金融機関であれば、給与は一定の水準以上です。そのため、会計事務所を経て金融機関でキャリアアップをするという人も多くいます。
会計事務所に就職する人のなかには、将来税理士を目指しているという人が数多くいます。そのため、税理士の試験に集中して取り組むために、会計事務所を退社するという人が多くいます。この場合、積極的な理由(キャリアアップを目的として)で会計事務所を退社することになります。
税理士試験は科目合格制を採用していますから、残り1科目や2科目程度を残しているという人は、1年間十分に時間をかければ、その年に税理士試験に合格できる可能性が高いです。したがって、この場合には、会計事務所を退社して税理士試験の勉強に集中してキャリアアップを目指すことになります。
退職理由は転職活動における面接においてほぼ必ず聞かれます。これは、採用側にとって退職理由が合否を分ける重要な要素になるからです。
まずネガティブな理由ばかりを話してしまうのは論外です。採用側としては「採用したら、この会社でも文句ばかり言うのではないか」と感じてしまうからです。
他にも「所長との相性が合わなかった」といった理由についても、ストレートに伝えない方がよいでしょう。人間関係による退職は、採用側としても「うちの会社でも人間関係に悩むのではないか」と感じてしまう可能性がありますので、うまく伝えなくてはなりません。
スキルや経験については履歴書や職務経歴書を見れば分かることが多いですが、このような人の性格・人柄・志向性を測るのに、退職理由は大きなウェイトを占めるのです。
会計事務所からの転職を成功させるために、退職理由の伝え方が重要であることはお分かりいただけたかと思います。
加えて重要なのが、志望動機の考え方です。
同じ業界で何社も応募書類を出していると、似通った志望動機になりがちです。どのようなキャリアを積んできたうえで、今後どのようなキャリアを描きたいのか、そのためになぜその業界およびその企業に応募したのかについて、正確に伝わるような志望動機を考える必要があります。
そしてもう一つのポイントが、転職エージェントを利用することです。
転職活動にあたって、働きながら自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。そこで活用すべきなのが人材エージェントです。希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。内定を複数社もらった際に断りをいれてくれるなど、心理的負担のある対応もする必要がありません。
士業・管理部門特化の転職エージェント「ヒュープロ」は業界特化のために、会計事務所の選考を通過しやすい書類添削や面接対策を実施することができます。そういったサービスを無料で提供させて頂いておりますので、まずはご相談からお待ちしております。
今回は、会計事務所で多い退職理由についてご紹介しました。
様々な退職理由があるものの、解決策は今の事務所を改善する、もしくは転職することに限られます。
正直、退職したい理由を自力で解消するのはかなり難易度が高いので、なるべく転職によって環境を変えることをおすすめします。