士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

IFRSの「のれん」取扱いについて詳しく解説!日本基準との違いもまとめます!

HUPRO 編集部
IFRSの「のれん」取扱いについて詳しく解説!日本基準との違いもまとめます!

IFRS(国際財務報告基準)と日本基準では「のれん」の取扱いが異なります。のれんとは、企業を買収したり合併したりするときに、取得企業が支払う取得対価に対して、被取得企業の純資産額が少ないときに生じる超過収益力です。今回は、のれんの取扱いについてIFRSと日本基準を比較しながら詳しく解説します。

「のれん」ってなに?

のれんとは、他企業の買収や合併で支払った対価額が、引き継いだ純資産の額を超える金額のことを言います。たとえば、純資産の額が100の企業を買収するときのことを考えてみましょう。単純に純資産が100だから、100の対価を支払って買収するというケースはありません。

買収や合併される企業には、現金や固定資産など、様々な資産が存在していますが、その資産の価値の源泉は、そういった具体的な資産だけではありません。ブランドイメージが高い、優秀な人材を多く抱えている、大きな将来性を有しているなど、具体的な資産としては表現しきれない様々な要素によってその企業の価値は決まっています

そのため、そういった目に見えない価値として、たとえば400の価値があると判断すれば、その企業を400で買収したり、合併したりするケースも少なくありません。この場合、具体的な資産として表現されている100よりも多く支払った300のプレミアム(超過部分)を、会計の世界においては、「のれん」と読んで、無形固定資産とすることになっています。

すでに説明したように、のれんとは「純資産」を超えた価値のことを意味しますから、一般に、のれんは「超過収益力」とも言われています。

日本の会計基準でも、IFRSでも、のれんは無形固定資産として計上されるものです。しかしながら、のれんは計上したあとの会計処理の仕方が異なっているので注意が必要です。

資産計上されたのれんのその後の会計処理については、次の2通りの見解があります。
(a)超過収益力は競争力を通じて徐々に失われるので、必ず償却しなければならないという考え方
(b)超過収益力は持続する事例も存在しているから、一律に償却を強制するのではなく、減損が生じたのれんについてのみ、評価減をすることで足りるとする考え方**
の2つです。

以下でも詳しく説明するように、連結会計基準(24項)で準拠が規定されている「企業結合に関する会計基準」では、(a)の見解に立脚して資産計上されたのれんを20年以内以内の効果が及ぶ期間にわたって、定額法その他合理的な方法によって償却することを求めています(32項)。

このように規定されている背景としては、超過収益率の持続は連結後の経営努力によって達成されているから、連結で生じたのれんを償却しなければ、自己創設のれんが資産計上されてしまうという判断があります。なお、IFRSにおいては、後述するように、(b)の見解に立脚して会計処理を行います。

日本の会計基準における「のれん」の取扱い

ある会社(取得企業)が、ある会社(被取得企業)を合併したり、買収したりするとき、被取得企業の純資産額が100であったとしても、取得企業はそれ以上の対価を払って被支配企業を合併したり、買収したりするものです。これは、取得企業が被取得企業を取得するにあたって、被取得企業の超過収益力を考慮に入れて、被取得企業の純資産の時価評価額を上回る価額で株式を取得したために生じたものであると考えることができます。

したがって、この差額は、超過収益力をもつ会社の支配を獲得するのに要した金額として、のれんという名称で貸借対照表に資産計上することになります。ただし、金額的な重要性が乏しい場合には、資産計上するのではなく、発生年度の費用として処理することも認められています。従来、この項目はのれんではなく、連結調整勘定と呼ばれてきました。2020年現在では、無形固定資産の区分にのれんとして表示されることになります。

無形固定資産として計上されたのれんは、その後、償却しなければなりません。日本の会計基準においては、20年以内の効果が及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法に寄って規則的に償却しなければなりません。これは、のれんの効果は時間の経過とともに減少していくと考えられるからです

IFRSにおける「のれん」の取扱い

IFRS第3号付録Aでは、のれん(goodwill)は、個別に識別されず、また別個に認識されず、企業結合で取得した他の資産から生じる招来の経済的便益を表す資産をいうとされています。

のれんは、企業結合の結果としてしか測定できないこと、すなわち、のれんの公正価値を直接測定することは不可能であるので、IFRS第3号32項においては、のれんは、以下の①が②を超過する額としてのみ測定され、資産に計上されることとされています。

①以下の対価の総計
ア. 譲渡対価(consideration transferred)
これには、段階的に達成される企業結合の場合における、取得企業が以前に保有していた被取得企業の持分請求権(equity interest)の取得日における公正価値を含む。
イ. 被取得企業のすべての非支配持分の金額

②識別可能取得した資産および引き受けた負債の取得日における正味の金額

IFRSにおける「のれん」の取扱い

購入のれんと全部のれん

のれんの測定時に不可欠な被取得企業の非支配持分の測定について、IFRS3号は次の2通りの方法を認めています。いずれかの方法を採用するかによって、のれんの測定額は異なることになるので、この違いを理解しておくことは非常に重要です。その方法については以下では説明していきます。

今、公正価値で測定した被取得企業の識別可能な資産が100、負債が30とすれば、純資産の公正価値は70であるということになります。取得企業は、この60%を54の現金を支払って取得したとしましょう。なお、取得日における被取得企業の株式の市場価格を参照して算定した被支配持分40%の公正価値は36でした。

(a)購入のれんアプローチ

購入のれんアプローチは、被取得企業について識別可能な資産・負債を公正価値で測定した純額(100-30=70)に、非支配持分割合40%を乗じて、非支配持分28を測定する方法です。この場合は、次のような仕訳が行われることになります。

 
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
諸資産 100 諸負債 30
のれん 12 現金預金 54
非支配持分 28

この方法は、取得企業が純資産の持分42(72×60%)に対して、のれんの購入額12を含めて54の対価を支払ったことを表すことから、購入のれんアプローチと呼ばれます。

(b)全部のれんアプローチ

これは、非支配持分の公正価値を、被取得企業純資産の公正価値とは別に、直接的に測定する方法で、次の仕訳が行われます。

 
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
諸資産 100 諸負債 30
のれん 20 現金預金 54
非支配持分 36

なお、時に取得企業を割安で購入できる場合も考えられます。その場合、取得企業は取得日に利得を認識しなければなりません。当該利得は、「負ののれん」と呼ばれるもので取得企業に帰属することになります。

IFRSと日本基準における「のれん」の取扱いの違い

すでにIFRSと日本基準における「のれん」の取扱いについては説明しましたが、ここでは、IFRSと日本基準の「のれん」の取扱いの違いをまとめておきます。IFRSと日本基準におけるのれんの取扱いには以下のような違いがあります。

(1)資産計上したのれんについて、日本基準では20年以内のその効果が及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法による規則的償却が求められます。IFRS3号では、のれんの償却を行わず、減損会計の適用によって対処することとされています。

つまり、日本基準では、のれんは規則的に償却することが求められますが、IFRSでは、規則的に償却することは求められません。IFRSにおいて、のれんの価値が低下している場合には、減損会計を適用することで価値を低下させることになります。多額ののれんを計上する場合、償却しない分の利益を押し上げる効果がある反面、被取得企業の業績が悪化すれば減損リスクが高まる恐れがあります。

(2)のれんの測定方法として、日本基準では購入のれんアプローチだけが認められています。IFRS3号は全部のれんアプローチも是認されており、2つのアプローチの間で経営者は選択を行うことができます。

(3)非支配株主持分(IFRS3号では非支配持分)について、日本基準はこれを株主資本以外の純資産の項目として位置づけ、会社と非支配株主の間の取引を損益取引として取扱います。一方で、IFRS3号は、非支配持分も株主資本に含めるとともに、会社との間の取引を資本取引として処理する方法を規定しています。

この記事を書いたライター

HUPRO MAGAZINEを運営している株式会社ヒュープロ編集部です!士業や管理部門に携わる方向けの仕事やキャリアに関するコラムや、日常業務で使える知識から、士業事務所・管理部門で働く方へのインタビューまで、ここでしか読めない記事を配信。
カテゴリ:コラム・学び

おすすめの記事