大学を中退し俳優として活動、その後、起業や転職などを経て、現在では税務業務の他、事業継承やスモールM&A支援といった付加価値の高いサービスを提供する税理士として活躍する都鍾洵(みやこ しょうじゅん)さんに、HUPRO編集部がお話を聞いてきました。
ーどのようなきっかけから税理士を目指されたのでしょうか。
学生時代、俳優を目指していました。事務所にも所属し、ミュージックビデオに出演するなどして収入を得ていたのですが、結局は夢破れるような形で一般の事業会社に就職しました。
そこでは、営業などを担当したのですが、どれだけ頑張っても、年齢と勤続年数だけで収入が決まってしまうという風土に若干失望を感じました。
そこで何か資格を取らないといけないと考えて、本当に様々な資格を調べてみました。しかし、どれもしっくりこない。そんなときに出会ったのが簿記でした。もともと理系で数字が好きだったこともあって、簿記の資格だけは勉強して楽しかったし、長続きしました。
実際の試験でも、簿記3級、2級ととんとん拍子に合格して、その次のステップということで税理士資格に挑戦しました。
ー税理士の試験もスムーズに合格されたのでしょうか。
いや、それがまったく(笑)。3年連続で1科目も通らず、ようやく4年目で財務諸表論だけ合格しました。そこから翌年に簿記論、その次の年に選択科目の消費税法とひとつずつ合格して、残りの2科目は大学院で取得し、36歳のときに税理士になりました。
ちなみに、消費税法については、実務で一番必要になると当時の税理士事務所で働いていて実感したためです。消費税法自体、平成から導入されたものなので、事務所でも年配の先生方はあまり分からないということも多く、絶対に勉強する必要があると思い選択しました。
ー勉強方法で工夫した点はどのようなことでしょうか?
もともと記憶力に自信がないので、ひたすら自習室にこもって勉強していました。そのときは税理士事務所に勤務していたのですが、仕事が終われば自習室に行き、土日も朝から晩まで自習室で勉強していました。
出勤の時間も、理サブや自作のノートを読みながら通勤していました。
ー勉強の中で一番大変だったことは?
やはり勉強を始めた当時に3年連続で1科目も合格しなかったときですね。こんなに頑張ってもダメなのかと思って心が折れそうになりました。
そこでようやく1科目合格して、また勉強を続けたのですが、その後も不合格になって。そのうち、年齢も重ねていくし、この業界自体をあきらめようと思ったこともありました。
また、3科目合格して大学院に行くというときにも葛藤がありました。
せっかく一生懸命勉強したのだからやはり5科目合格したいという気持ちもあったし、“インメン”という表現を聞く機会もありました。“インメン”というのは、5科目合格ではなく、大学院に通って税理士資格を取ったという意味で、どちらかといえば、あまりよい意味の表現ではありません。
私の場合、大学院に行こうと思ったのは結婚したいという相手がいたからです。将来をある程度確定したうえで相手のご家族に挨拶に行きたいという気持ちがあり、大学院に通うことにしました。
ーこれまで転職とあわせて起業も経験されているとうかがいました。
はい。転職に関しては、最初に勤めた会社と、その後税理士を目指そうと決めたときに就職した税理士事務所を経て、今代表を務めている税理士法人に転職しました。
起業については、当時、税理士を目指して税理士事務所に勤めながら、飲食店を立ち上げました。学生の頃、チェーンの居酒屋でアルバイト店長していた経験があり、自分でもできるだろうと軽く考えて、好物だった「おでんとワイン」に特化したお店を始めたのですが、これは大失敗でした。チェーン店の場合は、しっかりしたシステムがあったからバイトの店長でも回すことができていたのですが、一人で始めようとすると、許可を取ったり、仕入れ先を開拓したり、看板を一つ設置するだけでも様々な手続きが必要。また、あまりにもよくない立地を選んでしまったため、1か月で閉店しました。
ただ、お店を始めるにあたって、本当に色々なことを学びました。このときの店舗の後処理が後々税理士としてM&Aの業務を行うときに生きているのかもしれません。
次に人材派遣業をやりました。飲食店を閉店して、もう二度と起業はしないと思っていたのですが、知り合いから声をかけてもらい、始めることになりました。切り替えが早いですね(笑)
ー今後、新しい事業を始める予定は?
色々なアイデアは思いつくことが多く、実際にM&Aの会社を立ち上げたりしていますが、それは副業というより、社会貢献が目的です。
これまで、何度も失敗して人に迷惑を掛けたり、何度も助けられてきたので、今度は自分が少しでも社会に役立ちたいと思っています。
ー現在、税理士として専門的に関わっている仕事を教えてください。
専門的にやっているのはM&Aです。また、ものづくり補助金という補助金があるのですが、それを中心に補助金の申請支援も行っています。
税理士事務所はすでにたくさんあって、税理士であれば誰でも節税対策や決算ができるわけです。それぞれの事務所や税理士の先生によって個性や濃淡はあるものの、基本的には同じです。
そうなると、付加価値が高い、他の税理士が手を付けていない領域を探す必要があります。そこで、色々チャレンジをしてみて、残ったのが補助金の分野とM&Aです。
またM&Aについては個人的な思い入れもあります。
数年前、所属する税理士事務所が顧問契約を結んでいた小売店がありました。50人以上の社員を抱えて、売上の規模も大きく、数店舗で展開していたのですが、毎年赤字が続いていました。コンサルタントも入って業務改善を行っていたようでしたが、それもどうもうまくいかないようでした。
我々、税理士事務所の立場では、年に一度決算をするというだけの関係だったのですが、あるとき、ついに弁護士から解散の通知が届きました。もちろん、顧問先の会社が倒産したり解散したりといったことは仕方がないのですが、あとで聞いた話では、社長が行方不明になったとのことです。
それからしばらくしてM&Aという手法のことを知り、もしかしたら、あのときもっと役に立てることもあったのではないかと考えるようになりました。そういう提案ができていたら、社員が路頭に迷うことも、社長がつらい思いをすることもなかったかもしれないと今でも悔いが残っています。
ー税理士が行うM&Aの将来性とは?
日本では、後継者不足の企業が増加しています。しかし、多くの中小企業は譲渡価格で一千万円以下です。こういったM&Aは、仲介会社では行うことができません。
というのも、仲介会社の場合、仲介料だけでも二千万円以上と言うのが一般的。M&Aは手間もリスクもかかる事業なので、手数料もそれなりに必要です。
また、M&Aは秘密保持に始まり、秘密保持に終わると言われるぐらい、情報の管理と信頼関係が重要です。M&Aの仲介会社の場合、そこは非常に神経を使わなければならない点です。細かいことでも逐一報告しなければいけないし、買い手が見つかったという場合でも、その情報を開示するときには非常に神経質にならざるを得ません。
しかし、税理士がM&Aの仲介を行う場合、税理士とクライアントの間にはあらかじめしっかりとした信頼関係が出来ています。
そのため、売り手の方もある程度こちらの判断に任せると言ってもらえるので、買い手のストレスも減ります。さらに、信頼関係が出来ているということは、リスクが少なくなるため、仲介手数料を減らすことにもつながります。そうすると、譲渡価格が一千万以下のM&Aが可能になります。
ー最近はSNSでの発信にも力を入れていますね。
本格的にSNSでの発信を始めたのは、今年に入ってからです。現在は、YouTubeをメインにして、TwitterとFacebook、ホームページでも情報を発信しています。SNSから直接の問い合わせという形ではありませんが、SNSを見て、ホームページにたどり着いて、そこから問い合わせというケースが増えています。
税理士の先生方はどちらかといえば保守的な方が多くて、SNSで発信している人は少数派です。
もちろん、ブランディングも意識していますが、発信していたら何かあるかもしれない、とりあえずやってみようという感覚ですね。
ー10年先、20年先のビジョンはどのようなものでしょうか。
私の強みはやはりM&Aです。非常に小さなM&Aというのは仲介会社では扱えません。しかし実際には、後継者不足で悩んでいる中小企業というのは、超マイクロ、超スモールと呼ばれるような規模がほとんどです。
それを助けられるというのは、税理士にしかできないことなので、事業承継のサポートを行うだけでなく、それをサポートできるような先生方を増やし、みんなが当たり前にそれをやっているような風土を作りたいですね。
そのために、事務所向けのサービスを展開している会社と組み、ノウハウを伝えるためのセミナーなども企画しているところです。
ー今後、活躍できる税理士像を教えてください。
ありふれた言い方になるかもしれませんが、やはり提案できる税理士が残っていくだろうと思います。
税理士事務所が増えて低価格化が進み、クラウド会計ソフトなども普及すると、どうしても税理士でなければできない作業的な業務は減っていきます。
しかし、補助金申請の支援やM&A、節税の提案といった業務には確実にニーズがある。この分野はリスクがあるのでやりたくないという先生もいらっしゃいますが、顧問先としっかり信頼関係を結び、リスクを取って提案できる税理士は生き残っていくだろうと思います。
ー最後に、税理士受験生に向けて一言お願いします。
重複になるかもしれませんが、5科目合格にこだわる必要はないと思います。5科目合格でも、大学院でも、税理士としてのスタート地点は同じです。
さらに言うなら、お客さんが5科目合格か大学院免除かなどを気にすることはほとんどありません。税理士として、その人の人柄やクライアントとの相性、提案力などのほうがよほど重要だと思いますね。
ー本日はお話を聞かせて頂きありがとうございました。
今回お話をお伺いした都鍾洵さんが代表を務める
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