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中小企業が連結決算を導入するメリットとデメリット

福永 勇治
中小企業が連結決算を導入するメリットとデメリット

上場している大企業は連結決算を義務付けられていますが、中小企業が複数の子会社を持っている場合には、連結決算をする義務があるのでしょうか?また、中小企業が連結決算を行うメリット、デメリットについて解説します。

連結決算とは

連結決算とは国内や海外に子会社、関連会社を持つ企業により行われる決算方法です。親会社と連結決算の対象となる子会社、関連会社をまとめて、ひとつの企業グループとして連結財務諸表を作成します。

連結決算を行うことで、企業グループ全体としての経営状況がわかるようになり、投資家の意思決定に役立つ情報を提供することができます。連結決算の対象となる子会社、関連会社は支配力基準や影響力基準などをもとに、グループ全体へ与える影響の大きさにより決定されます。影響力の小さい子会社や関連会社は連結決算の対象外となるため、すべての子会社、関連会社を含めるわけではありません。

昔は連結決算が義務化されるまでは親会社単体の決算情報が一般的でした。しかし、単体決算のみでは、親会社の経営成績をよく見せるために、親会社から子会社への売り上げを増やすといった手段で不正に利益を操作することが可能でした。こういった不正をなくすためにも、現在では連結決算での開示が求められています。

中小企業も連結決算を行う義務があるのか

連結決算を義務付けられているのは有価証券報告書を提出している大会社です。(会社法444条第3項)有価証券報告書の提出が必要な企業は、上場企業または公募増資1億円以上の会社等と金融商品取引法により定められています。また、大企業とは資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社のことです。そのため、中小企業には連結決算を行う義務はありません。

連結決算を行う義務はありませんが、任意で連結決算を行うことは可能です。また、最近では経営の多角化により、中小企業であっても子会社、関連会社にて本業とは別の業務を行う企業も増えてきています。中小企業が任意で連結決算を行った際にどのようなメリット、デメリットがあるのかについて、以下でわかりやすく解説します。

中小企業も連結決算を行う義務があるのか

中小企業が連結決算を行うメリット

中小企業が連結決算を行うメリットとして、企業グループ全体の経営状況を把握することができること、グループ企業間での不正を予防できるというメリットが挙げられます。例えば、親会社が経営状況を良く見せようと、グループ内企業を相手に含み損のある有価証券を売却できたとしても、グループ全体でみると実際には含み損のある有価証券がまだグループ内にあるということになります。連結決算を行えば、こういった不正を防止し、企業グループ全体の経営状況を把握できるというメリットがあります。

また、中小企業の主な資金の借入先は銀行からの融資ですが、連結決算を行うことで銀行からの融資が受けやすくなるというメリットもあります。銀行では融資審査の際に子会社や関連会社間の取引の実態を確認します。連結決算を行っていれば銀行のグループ全体に対する実態把握がスムーズになり、融資審査を有利に進めることが可能です。

中小企業が連結決算を行うデメリット

中小企業が連結決算を行うデメリットとして、連結財務諸表作成手続きの煩雑さが挙げられます。

連結財務諸表作成の手続きは、連結作業を行う親会社が子会社、関連会社の単体決算書類を回収し、親会社のものと合算し、内部取引等を相殺消去するというものです。言葉にしてみると作業としては簡単なもののように思えますが、連結の範囲設定や子会社、関連会社経理担当者との連携など、実際にはかなり手間のかかる仕事です。

最近では連結決算書類を簡単に作成することができるシステムも多数開発されてきましたが、中小企業では本業のビジネスに対する投資が先行し、管理システムにまで投資する余裕のある会社は多くありません。大企業においても連結の範囲が数社程度であれば、システムを導入せず、担当者がExcelを駆使して連結決算書類を作成していることもあります。

また任意で連結決算を行う場合でも、連結決算書類は会計監査役及び会計監査人の監査を受けなければいけません。(会社法444条4項)中小企業では経理部員が総務や人事の仕事を兼務しているような会社も少なくないですから、連結決算を行いたくても人手が足りなくて実施できないということも考えられます。

まとめ

中小企業にとって連結決算は義務ではありません。しかし、連結決算を行うことにより自社の企業グループ全体に対する経営管理や銀行など外部からの信頼の獲得に役立つというメリットがあります。しかし、連結決算手続きの煩雑さや人員不足といった理由から、なかなか連結決算を行っている中小企業は多くないというのが実際のところです。

将来的に上場を視野に入れているような場合は、義務化される前から連結決算を取り入れることで余裕をもって体制を整えることができますから、一度検討してみてはいかがでしょうか?

この記事を書いたライター

金融ライター兼会社員。ニートから独学で勉強しUSCPA(米国公認会計士)試験に合格。合格を機に東証一部上場企業の経理へと転職を成功させ、海外を含む連結決算業務を経験。ライターとしてはUSCPA試験の合格方法など会計に関する幅広い内容を執筆。
カテゴリ:コラム・学び

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