士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

製造業(メーカー)経理の仕事内容・やりがい・他業種との違いを解説

HUPRO 編集部
メーカー経理の仕事内容について元経理担当者がわかりやすく解説

経理というと、多くの人は経費を立て替えた時に領収書を持っていくと精算してくれる人というのをイメージするのではないでしょうか?これはあくまでも経理の仕事の一部で、実際には会社の経営を管理する重要な役割を果たしています。経理担当者以外はなかなか知る機会のない経理の仕事について、元メーカー経理担当者の筆者がわかりやすく解説します。

製造業とは

製造業とは、購入した原材料に、工場で加工を施し、製造した製品を販売することで収益を得る産業です。製造業の特徴としては、自社で仕入れた原材料を元に製品を製造するということが挙げられます。そして、鉱業・建設業とともに日本における第二次産業を構成する一大分野の産業です。

日本標準産業分類(1993年10月改定)においては、化学,鉄鋼,輸送用機械器具,電気機械器具など中分類で23業種を製造業とし、一般には電力・ガス業,運輸・通信業,卸・小売業,建設業,不動産業などを非製造業として区分しています。

具体的には、家電や自動車のような工業製品から、スーパーやコンビニエンスストアで販売されるような飲食物を調理・製造する産業までが製造業に含まれます。

製造業(メーカー)における経理の特徴

製造業における経理の観点としては、製品を作るためにいくらかかったかというコストを計算する原価計算(工業簿記)が必要とされます。

工業簿記の知識を使う

製造業(メーカー)の経理が一般的な小売業・卸売業の経理と違う点は、「商業簿記」ではなく「工業簿記」の知識が必要になる点です。

メーカーは材料の仕入れ→加工→製品の販売という流れを取るため、一般簿記にはない「材料」「仕掛品」「製品」という項目が必要になります。
よって、一般の小売業・卸売業の経理よりも、より専門的な知識が必要と言えます。

原価計算の考え方が重要になる

製造業(メーカー)の経理では、製造にかかるコストを管理する「原価計算」という業務が発生します。

小売業では、損益計算書上にある「売上原価」については、外部から仕入れた商品の原価を元に計算が可能ですが、製造業では自社で製造を行うので、製品1個当たりの製造原価を算出する原価計算を行わなくてはなりません。

「原価計算」とは、製品1単位あたりの製造原価を計算することを指します。例えば製造のためにかかった原価を「材料費」「労務費」「経費」に分け計算し、これがどの工程でかかったのかを把握するために部門別の計算を行います。最後に製品1単位あたりいくらの原価がかかったかを算出していきます。
つまり、メーカー経理は1つの製品ができあがるためにかかった費用を細かく分類し、原価を計算する点が特徴です。

製造原価報告書を作成する

決算書類として「貸借対照表」、「損益計算書」に加え「製造原価報告書」もあわせて作成することも、製造業における経理業務の特徴です。
製造にかかるコストを、製造以外の営業活動にかかるコストと適正に区分することで、正確な損益計算を行うことは、経営管理において重要な課題です。
設備投資が多く、原価計算も絡む製造業の経理は、処理が複雑で難易度も高いといわれています。

製造業(メーカー)における原価計算

原価計算を行うことによって、製品一つあたりの製造コストを確認できるだけでなく、その製造を行う作業効率や価格戦略などに重要な情報を得ることができます。
また、生産途中の仕掛品や副産物なども別途計上を行い、経営管理に役立てることもできるので、製造業における経営管理の上では原価計算は必要不可欠な計算技術なのです。

原価計算は以下の3つの手順でなされます。

1つ目は「費目別原価計算」です。外部から購入してきた原材料等を材料費、労務費、経費と3つに分類し、さらにそれぞれを直接人間接費に分けます。

・材料費
直接材料費:主要材料費・買入部品費など
間接材料費:補助材料費・工場消耗品費など

・労務費
直接労務費:直接作業をする人の給与など
間接労務費:作業をする人の賞与や退職金、福利厚生費など

・経費
直接経費:外注加工費など
間接経費:福利厚生費など

2つ目は「部門別原価計算」です。
費目別原価計算で把握された原価要素のうち間接費(人件費、電力費、水道光熱費、減価償却費、諸経費など)について、どの製品の原価なのかを計算するために部門別にコストの計算を行い、一定の基準を使って個々の製品の原価として配賦します。

そして3つ目は「製品別原価計算」です。
費目別原価計算、部門別計算を経て、製品ごとの原価を振り分けます。振り分け方法については、直接材料費、直接労務費、直接経費は製品別に賦課します。製造部門費は、製品ごとに配賦します。

こうして、どの製品にどれだけの原価が総額としてかかったかを計算できるのです。かなり簡略化して記載したので、実際にはもっと多くの工程があります。複雑ではありますが、このような手続きの全体を知ることは製造業における経理では非常に重要です。

<関連記事>

製造業(メーカー)経理の仕事内容

経理の仕事はサイクル別に日次の業務、月次の業務、年次の業務に分けられます。

日次の業務では、会計ソフトを使った伝票の作成、立替経費の精算等の現金出納業務などがあります。これらの業務は会計の基礎知識があれば遂行可能で、毎日その日のうちに完結します。大企業になると経理部員の中にも総合職採用の方と一般職採用の方がいて、一般職採用の方がこれらの日次の業務を担当していることがよくあります。

月次の業務では、取引先との売掛金や買掛金の管理、原価計算、給与計算、月次決算、月次役員会議の資料作成などがあります。毎月だいたい同じ日を締め切りに行う業務が多く、売掛金や買掛金は月末、月次決算は毎月10日までに完了させ、毎月20日の月次役員会議に向けて資料を作成するなど社内で決められたサイクルがあります。業務内容としてはルーティン業務で特別深い知識が求められるものではありませんが、給与計算業務などでは社会保険や所得税、住民税など幅広い知識が必要となることもあります。

年次の業務では、年次決算、税金の申告と納税などがあります。税金の申告と納税の締め切りは事業年度終了の日の翌日から2カ月以内と税法で定められています。税金の申告の前に定時株主総会で決算書の承認を受ける必要があるため、年次決算もそれまでに完了させる必要があります。税理士や会計士との専門的なやり取りも発生してくるため、税理士試験や会計士試験で問われるような、高いレベルの税金や会計の知識が必要となります。

<関連記事>

製造業(メーカー)経理のやりがい

経理のやりがいのひとつとして、会計の専門的な知識を使って会社の経営陣に近い立場で働けることが挙げられます。経理部に配属となると会社内の各事業部門の業績から会社全体の経営状況まで、様々な情報に触れることができます。それらの重要な情報を数字を元に管理している立場となるので、会社の経営陣からも会計的なアドバイスを求められる立場になります。年齢が若いうちから会計の専門知識を駆使して、経営陣に近い立場で仕事ができるというのは経理の魅力でしょう。

また、他業種と違いメーカーの経理部門では原価管理を細かく行うという特徴があります。原価計算を通して製品にかかった原価を正確に把握することは利益に直結しますから、会社の業績を左右する非常に重要な業務です。正確な原価計算により適切な商品価格を決定することができますし、可視化された無駄なコストを削減することにもつながります。知識としては簿記2級の工業簿記で基礎的なことを学び、実務を通して理解を深めていくとよいでしょう。

原価計算の担当となると本社ではなく工場で勤務することになるため、東京が本社のメーカーに入社しても、勤務は工場のある地方となるケースが多いです。地方勤務を嫌がる方も多いですが、実際に製造している場に立ち合いながら原価計算を行った経験は本社勤務となった後でも役に立つ貴重なものです。

<関連記事>

メーカー経理のやりがい

製造業(メーカー)経理に向いている人の特徴

メーカー経理に向いている人の特徴としては、1円単位できっちりミスなく業務ができる、オフィスでのルーティンワークが苦手でない、コミュニケーションが得意といった点が挙げられます。

1円単位できっちりミスなく業務ができる

経理は会社のお金を扱う部門ですから、1円単位できっちり細かく管理できる人が求められます。実際に、決算などで数字が合わなかった際には、原因がわかるまで何度も確認する必要があります。1円ぐらいいいかと思わず、忍耐強く原因を追及することが求められます。

オフィスでのルーティンワークが苦手でない

経理は営業などと違い、オフィスで資料作成をしている時間が非常に多いです。正確な数字を使ってミスなく資料を作成するために、各自集中して業務を行っているので、経理部のオフィスは非常に静かです。そのため、ひとりで黙々と作業することが苦手、新しいことにどんどん挑戦したいという方には向いていないかも知れません。

しかし反対に、オフィスでのルーティンワークが多いので、仕事のスケジュールを組みやすいというメリットもあります。月次決算や年次決算業務で忙しい時期が決まっているので、それ以外の閑散期であれば比較的有給が取りやすいなど、メリハリを持ったワークライフバランスを保つことができます。

コミュニケーションが得意

経理部員は黙々と作業すると言いましたが、実はコミュニケーション能力が求められる場面もあります。具体的には、税務上や会計上の複雑な論点で処理に迷った際に、担当の税理士や会計士に相談することはよくあります。

また、社内の人から経費精算の方法を聞かれたり、伝票でどのような仕分けを切ればいいかなどを相談されることもよくあります。相手の要望を理解して会計上どのように処理するかということを会計の知識がない人にもわかりやすく説明できることが求められます。

<関連記事>

製造業(メーカー)経理に必要な資格・スキル

簿記

簿記に関しては経理の基本となる知識を学べるので、メーカーに限らず経理で働きたいと考えているかたには必須の資格です。さらにメーカーでは原価計算を細かく行うという特徴があるため、工業簿記を試験範囲に含む簿記2級まで取得しておくといいでしょう。

TOEIC

また、メーカーでは生産の拠点をアジア諸国においている場合や、国外へも積極的に販売を行っていることがよくあるので、英語が話せるというのは大きな武器になります。英語の資格は多数ありますが、やはり最も有名なTOEICで高得点を取得していると、グローバルに展開しているメーカーから高い評価を得ることができます。点数に関しては、企業によって求人票に何点と記載していることもありますが、800点程度あれば十分なアピールとなるでしょう。

企業の専用ソフト

経理の仕事はもちろん原価計算だけではありません。会社の規模にもよりますが、莫大な量の請求書の発行や仕入れ先への支払いなどを行わないといけません。メーカーが管理する専用のソフトを導入していることが多く、そのソフトに即座に適用できる能力も必要です。

また企業によっては専用ソフトを導入しておらず、エクセルで管理しているところもありますので、「SUM」や「COUNT」など基本的な関数はもちろん「VLOOKUP」や「SUMIF」など集計に欠かせない関数も使用できるようにしておきましょう。

日商原価計算初級(CBT)

2018年から始まった比較的新しい資格です。日商簿記2級の工業簿記を少し易しくしたレベルの資格ですが、日商簿記2級を持っていないなら手始めに受験してみるのもいいでしょう。

<関連記事>

製造業(メーカー)経理のキャリアパス

内部でキャリアアップする

1つめは内部でキャリアアップする、つまり社内でキャリアを積む方法です。
経理担当→経理管理職→CFO(最高財務責任者)が一般的なキャリアパスとなります。

具体的には、まず経理担当としてメーカー経理の基礎となる「工業簿記」「原価計算」の知識を身につけ、月次決算や年次決算の流れを理解していきます。
上記の基礎が固まったら、経理部門の管理職に昇進し決算の報告書を作成する業務に携わり、経営者を納得させられる指標を提供できるように努めます。
その後はCFOの立場で会社の経営に深く関与し、成長戦略や今後の経営方針にも意見していくという流れになります。

内部でキャリアアップするメリット

人脈形成がしやすく、管理職になるまでの期間が比較的短くなる点がメリットです。一つの企業に長く在籍していると、自然に部門の上司や他部門の社員との人脈が出来ていきます。築いた人脈を利用し自分をアピールすることで、転職をするよりも比較的短時間で管理職に昇進できる可能性があります。
そのため、今の企業になじみがあり、人脈形成が得意な方には内部でのキャリアアップがおすすめです。

内部でキャリアアップするデメリット

一方で、視野が狭まってしまう点はデメリットといえます。経理の管理職、またCFOの立場になってから必要になるのは、日本経済全体の動向や、自社を客観視し他社と差別化する視点です。
日常業務で得られる社内の知識だけではなく、自ら積極的に経理や経営の知識を習得していく心がけが重要です。

外部でキャリアアップする

2つめは外部でキャリアアップする、つまり転職をし、新たな企業で経験を積むことでキャリアアップする方法です。

現在中小企業に勤務している方は大企業へ転職を考えてみましょう。製品や社員が多ければ多いほど、お金の動きは複雑になり、より深く専門的な経理知識を身につけることが可能です。

逆に大企業に勤務している方は、ベンチャー企業なども候補にいれてみましょう。会社規模が小さいほど、一人の経理が担う業務は多岐にわたります。大企業では見えづらかった会社全体のお金の動きを学ぶことが可能です。
その他、資格を取得した上で大きくキャリアチェンジし公認会計士、税理士を目指すことも可能です。

外部でキャリアアップするメリット

経理としてより広範囲の知識をつけられることがメリットです。
一口に経理といっても、製品や業種によって使用する勘案科目や取引は大きく異なってきます。最初は勝手が違い戸惑うことも多いですが、より多くの目線で経営状況を把握する力がつくため、管理職となった際に説得力のある決算書の作成ができるようになります。

外部でキャリアアップするデメリット

経理職へ転職する場合、自分が求めていた仕事内容と配属先の仕事内容が異なってしまうというリスクがある点がデメリットといえます。

例えば経理部門の中でも決算担当でキャリアを積み、管理職になりたいと考えていても、実際の配属が財務担当となってしまうというケースです。
まずは転職する際に、自分のスキルや希望をしっかりと採用担当者に伝えることが重要です。さらに転職する際エージェントを利用し、アドバイザーから採用担当者に念押しで伝えて貰うという方法も可能です。転職後の希望配置が明確に決まっている方は、転職エージェントを利用してもよいでしょう。

<関連記事>

まとめ

製造業における経理には原価計算への理解が必須です。工業簿記や原価計算は難解ではありますが、理解することで会社の経営状況についても把握できるようになり、各部門での予算の調整や、製品の適正販売価格などの判断材料を得ることができます。

製造業といっても、多様な業種があるため、経理業務も様々な対応が求められることになりますが、ベースとなる知識を持っておくことで社内のキャリアアップにも役立ちます。まずは日商簿記2級レベルの知識を身に着けることで、業務をスムーズに理解して進めることができるようになるでしょう。

この記事を書いたライター

HUPRO MAGAZINEを運営している株式会社ヒュープロ編集部です!士業や管理部門に携わる方向けの仕事やキャリアに関するコラムや、日常業務で使える知識から、士業事務所・管理部門で働く方へのインタビューまで、ここでしか読めない記事を配信。
カテゴリ:業務内容

おすすめの記事