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企業の労務違反とは?労働基準法違反となるケースと罰則について解説します!

社会保険労務士 西岡秀泰
企業の労務違反とは?労働基準法違反となるケースと罰則について解説します!

平成28年10月より労働基準法などの労務に関する法令に違反した会社のうち、特に重大な違反を行った会社は、厚生労働省や労働局のホームページで会社名や違反事案が掲載されることになりました。
今回は、会社が労務違反となるケースや罰則について解説します。

労務違反とは

労務違反とは、会社が労働基準法など労働基準関係法令に違反することです。労働基準関係法令の目的の1つは労働者を守ることですが、会社がそれに違反すれば労働者の権利や利益、安全などが損なわれることになります。

労働基準関係法令は労務に関する法令

労働基準関連法令には下記以外にも多くの法令があり、労働者の労務に関わるものであることから総称して労働法と呼ぶこともあります。

● 労働基準法
● 労働安全衛生法
● 労働災害保険法
● 雇用保険法
● 最低賃金法
● 労働契約法
● 男女雇用機会均等法
● 労働者派遣法 など

労働基準関係法令の違反状況

労働基準関係法令に違反して厚労省などのホームページで掲載された件数は、平成28年10月から令和2年8月末までの累計で2528件(2つ以上の法令違反が重複しているケースを含む)です。違反の内訳は下記の通りです。

● 労働安全衛生法違反:1,652件
● 最低賃金法違反  :484件
● 労働基準法違反  :405件

参考:労働基準関係法令違反に係る公表事案|厚生労働省

労働安全衛生法の違反

ホームページ掲載件数の過半数を占めるのが労働安全衛生法の違反です。違反内容は、建築業・運搬業で使用する設備・運搬具の整備や使用について、法令に違反して危険な工事・作業をした結果、労災事故を起こしたケースなどです。

最低賃金法の違反

次に多いのが最低賃金法の違反です。違反内容は、労働者への給与の未払いや外国人労働者へ最低賃金以下の給与しか支払っていないことなどが当てはまります。

労働基準法の違反

3番目に多いのが労働基準法の違反で「労働安全衛生法の違反」「最低賃金法の違反」と併せて法令違反の大半を占めます。主には時間外労働と休日労働に関連した長時間労働や割増賃金の未支給、36協定違反、などが目立ちます。

労働基準法は、すべての労働基準関連法令の根幹となる法令で、会社と労働者の間で様々な論点から違法性が争われてきました。以下では、労働基準法に関連する労務違反を中心に解説していきます。

労働基準法に違反する主なケース

労働基準法は、労働者を保護するために労働条件の最低限を定めた法律です。内容は多岐にわたりますが、大きく下記内容について定められています。

● 総則(労働基準法の基本となる考え方)
● 労働契約
● 賃金
● 労働時間
● 年少者や妊婦
● 就業規則や罰則 など

会社が労働基準法に違反して問題になるのは、解雇や雇止めなど「労働契約」に関する違反と、長時間労働や残業代の未払いなど「労働時間」に関する違反が中心です。
解雇など「労働契約」に関する違反には下記ケースがあります。

①解雇制限に対する違反

会社が業務上負傷した従業員や妊婦を解雇することは、労働基準法で禁止されています。

第19条「使用者は、労働者が業務上負傷・疾病により療養のために休業する期間とその後の30日間、または産前産後休業の期間とその後の30日間は、解雇してはならない」

たとえ、懲戒解雇に該当する事由が発生しても、上記の該当者を解雇した場合は労働基準法違反となります。

②解雇予告に関する違反

会社が従業員を解雇する場合、即時解雇は禁止されています。

第20条「使用者は、労働者を解雇しようとする場合、30日前に予告をしなければならない。30日前に予告をしない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」

解雇予告なしで即時解雇する場合に支払わなければならない30日分以上の平均賃金を解雇予告手当といいます。解雇予告や解雇予告手当の支払い、両者の併用以外で従業員を解雇した場合も、労働基準法違反です。

会社都合など一方的な理由で解雇した場合は、権利の濫用として労働契約法で禁止されています。

労働契約法第16条「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」

長時間労働や残業代の未払いなど「労働時間」に関する違反には下記ケースがあります。

②解雇予告に関する違反

③法定労働時間に関する違反

会社が法定労働時間を超えて従業員に残業させることは禁止されています。

第32条「使用者は、労働者に1日について8時間を超えて、1週間について40時間を超えて労働させてはならない」

1日8時間1週40時間を法定労働時間といいます。法定労働時間を超えて残業させるには、36協定という労使協定を締結し所管の労働基準監督署に届け出なければなりません。

第36条「使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合などと書面による協定をし行政官庁に届け出た場合は、協定で定めによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」

平成31年4月より36協定に定める時間外労働の上限(月45時間・年360時間)が設けられました。これらの法令に違反するケースは、36協定違反と呼ばれます。

④時間外、休日及び深夜の割増賃金に関する違反

法定労働時間を超える労働に対し、会社は従業員に割増賃金を支払う必要があります。

第37条「使用者が、労働時間を延長、休日に労働させた場合は、その時間・日の労働については、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金を支払わなければならない」

さらに、1か月60時間を超える残業や深夜(午後10時から午前5時)残業については、通常賃金の50%の割増賃金が必要になります。
会社が残業代を支払わない、割増賃金が正しく支払わない、などの状況が、未払い残業代問題です。

⑤休憩時間に関する違反

会社は従業員に所定の休憩時間を与え、自由に利用させなければなりません。

第34条「使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少くとも45分、8時間を超える場合は少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」

8時間勤務の場合は休憩時間は45分でも大丈夫ですが、少しでも残業すると15分の休憩を追加しなければならないため、多くの会社が休憩を1時間としています。
また、第34条には休憩について「勤務の途中で付与する」「全従業員一斉に付与する」「自由に利用させる」という休憩の3原則も定められています。

⑥法定休日に関する違反

会社は従業員を7日連続で勤務させることは禁止されています。

第35条「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」

週休2日の会社では、休日2日のうち1日が法定休日、残りの1日が会社所定休日となります。法定休日に出勤させた場合は、代休を与えるとともに割増賃金の支払いが必要です。

ただし、会社所定休日に出勤させた場合は、代休や割増賃金は法律で強制されていないため会社所定のルールに従って対応すれば足ります。
「労働契約」や「労働時間」に関する法律以外にも、法律違反になるケースがあります。

⑦賃金に関する違反

会社は従業員に対し毎月決まった日に給料を支払わなければなりません。

第24条「賃金は、直接労働者に、通貨でその全額を支払わなければならない。賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」

労働基準法では賃金の支払い方法について下記の5原則を定め、例外についても厳しく制限しています。5原則を満たさない賃金の支払いは労働基準法違反です。

● 通貨払いの原則(従業員の同意があれば口座振込も可)
● 直接払いの原則
● 全額払いの原則
● 毎月1回以上払いの原則
● 一定期日払いの原則

また、支払った賃金が最低賃金法に定める最低賃金を下回る場合は、最低賃金法違反で「50万円以下の罰金」が課せられます。

⑧年少者や産前・産後に関する違反

会社は所定の年少者や産前・産後の女性の労働を禁止しています。

● 第56条「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない」
● 第65条「使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない」

上記以外にも、年少者や産前・産後の女性の労働については、労働基準法で厳しい制限が設けられています。

労働基準法違反に対する罰則

労働基準法に違反した場合、違反内容に応じた罰則が労働基準法第117条から121条に設けられています。最も重い罰則は「強制労働の禁止(第5条)」の違反で、違反した会社には「1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金」が課せられます。

労働基準法違反に対する罰則

まとめ

会社の労務違反とは、会社が労働基準関連法令に違反することです。違反した会社には罰則が課せられます。特に、労働条件の最低限を定めた法律である労働基準法については、労働者保護の観点から労務担当者は違反しないように注意しなければなりません。

労務に関する違反は法律で罰せられるだけでなく、場合によっては公的機関によって会社名を公開されるなど、会社の社会的信用にも悪影響を及ぼします。目先の会社利益にとらわれず、従業員の労働環境を整えることで会社の発展に貢献することも、労務の重要な役割といえるでしょう。

この記事を書いたライター

生命保険会社に25年勤務の後、西岡社会保険労務士事務所を開設。保有資格は社会保険労務士資格、ファイナンシャルプランナー2級、生損保各種販売資格。得意分野は人事・労務、金融全般、生命保険、公的年金。
カテゴリ:コラム・学び

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