国外関連取引の価格は原則として独立企業間原則に基づいて設定をする必要がありますが、その設定方法がよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、「そもそも移転価格算定方法って何?」という方や、「移転価格算定方法ってTNMM以外に何があるの?」という方向けに、移転価格算定方法について基本から解説していきます。
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移転価格算定方法(Transfer Pricing Method:TPM)とは、簡単に言うと「独立企業間価格を算定するための方法」のことです。
法令の表現を使うと、「国外関連取引の内容及び国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための方法」とも言うことができます。
日本の租税特別措置(以下、「措置法」)では、次の方法が移転価格算定方法として認められています(カッコ内の根拠条文は棚卸資産の売買取引の場合のものです。以下同じ)。なお、これらのうち独立価格比準法、再販売価格基準法、及び原価基準法のことを「基本三法」と呼びます。
・独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ)
・再販売価格基準法(措置法66条の4第2項1号ロ)
・原価基準法(措置法66条の4第2項1号ハ)
・基本三法に準ずる方法(措置法66条の4第2項1号ニ)
・その他政令で定める方法(措置法66条の4第2項1号ニ)
また、「その他政令で定める方法」として租税特別措置法施行令(以下、「措置法施行令」)で定める方法は次のとおりです。
・比較利益分割法(措置法施行令39条の12第8項1号イに係る部分)
・寄与度利益分割法(措置法施行令39条の12第8項1号ロに係る部分)
・残余利益分割法(措置法施行令39条の12第8項1号ハに係る部分)
・取引単位営業利益法(措置法施行令39条の12第8項2号から5号)
・ディスカウント・キャッシュフロー法(措置法施行令39条の12第8項6号)
・比較利益分割法からディスカウント・キャッシュフロー法までの方法に準する方法(措置法施行令39条の12第8項6号)
平成23年度税制改正まで、措置法66条の4第2項1号ニに掲げる方法は、イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り用いることができると規定されていました。(改正前措置法条文は、出典の498頁にあります)
つまり、基本三法に準する方法及びその他政令で定める方法は、基本三法が適用できない場合に限って選択できました。(このルールを「基本三法優先の原則」といいます)この基本三法優先の原則は平成23年度改正で廃止され、現行の措置法では独立企業間価格を「最も適切な方法により算定した金額」としています。(措置法66条の4第2項)
もっとも、「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」の4-2によれば、独立価格比準法は独立企業間価格を最も直接的に算定することができる長所を有し、また再販売価格基準法及び原価基準法は独立価格比準法に次いで独立企業間価格を直接的に算定することができる長所を有するとあるため、平成23年度改正をもって基本三法の理論的優位性が消滅したわけではないことには留意が必要です。
基本三法について、「移転価格税制の適用にあたっての参考事例集」(以下、「事例集」)では、それぞれ次のように説明しています。(事例1の参考2より)
・独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method:CUP 法)
国外関連取引に係る価格と比較対象取引に係る価格を直接比較することから、独立企業間価格を算定する最も直接的な方法
・再販売価格基準法(Resale Price Method:RP 法)
国外関連取引に係る売上総利益の水準と比較対象取引に係る売上総利益の水準を比較する方法
・原価基準法(Cost Plus Method:CP法)
国外関連取引に係る売上総利益の水準と比較対象取引に係る売上総利益の水準を比較する方法
基本三法は、直接的に独立企業間価格を算定できるという長所を有しますが、一般的には公開情報から比較対象取引を見い出すことが困難という致命的な短所があるため、実務上ではほとんど採用されていません。
基本三法以外の方法について、事例集ではそれぞれ次のように説明しています。
・取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNMM)
国外関連取引に係る営業利益の水準と比較対象取引に係る営業利益の水準を比較する方法
・利益分割法(Profit Sprit Method:PS 法)
比較対象取引を見いだせない場合などに有用な方法
・ディスカウント・キャッシュ・フロー法(Discounted Cash Flows Method:DCF 法)
国外関連取引に係る資産(例えば、無形資産)の使用その他の行為により生ずる各事業年度の予測利益の金額について、合理的と認められる割引率を用いることにより、当該国外関連取引が行われた時の現在価値として割り引いた金額を合計して独立企業間価格を算定する方法です。
このうち取引単位営業利益法は、検証対象取引と比較対象取引との類似性(たとえば製品の類似性や取引当事者の果たす機能及び負担するリスクの類似性)が、基本三法ほどは厳格に求められないため、実務では多く採用されています。
移転価格算定方法は国外関連取引の内容及び当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して最も適切な方法を選定するものとされています。それぞれの方法の特徴を把握して、独立企業間価格を算定しようとする取引に最も適切な方法を選定しましょう。なお、記載の情報は2020年10月時点の法令等に基づきます。