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IGSとは?移転価格を専門に扱う税理士が解説します!

税理士 川口拓哉
IGSとは?基本を簡単に紹介します!

海外子会社を持つ企業の経理部や、国際税務を取り扱う税理士事務所に勤務されている方であれば、「IGS」という単語を見たり聞いたりすることもあるのではないでしょうか。

「IGSってたまに聞くけど何のことだっけ?」という方や、「そもそもIGSって何?」という方向けに、今回はIGSの基本について解説していきます。

IGSとは?

IGS(アルファベットのまま「アイジーエス」と読みます)は、Intra Group Servicesの頭文字を取ったもので、「企業グループ内(における)役務提供」という日本語訳が一般的に使われます。

IGSに該当する活動の例としては、たとえば次のようなものがあります。(これらの例では、親法人である日本法人をP社、P社の100%子法人であるインド法人をS社とします)

・P社が開発・維持している営業管理システムをS社に利用させている
・S社の財務活動を円滑に行うため、P社がS社の資金調達を行っている
・S社が第三者と締結する契約書のレビューをP社の社員が行っている
その他、IGSに該当するものの例については、国税庁による「移転価格税制の適用にあたっての参考事例集」(以下、「事例集」)の事例26をご参照ください。

出典:移転価格税制の適用に当たっての参考事例集

IGSと移転価格税制

移転価格税制の対象は、法人とその国外関連者との間で行う資産の譲渡、資産の購入、役務の提供その他の取引であり、この取引における対価の額が独立企業間価格に満たないあるいは独立企業間価格を超える場合は、この取引は独立企業間価格で行われたものとみなされます。(租税特別措置法66条の4第1項)

IGSは企業グループ内における役務提供であるため、その役務の提供が法人とその国外関連者との間で行われるときは、原則として移転価格税制の対象となります。移転価格税制の対象となるということはその取引の対価の額を独立企業間原則に従って決める必要があるということを意味します。

役務の提供の対価の額に係る独立企業間価格は、棚卸資産取引と同じく、

①独立価格比準法
②再販売価格基準法
③原価基準法
④①から③に準ずる方法でその他政令で定める方法のいずれかで算定しますが(租税特別措置法66条の4第2項)、いずれにせよ何らかの方法で算定する必要があるということにご留意ください。(何の根拠もなく取引価格を決めることはできません)

なお、国外関連者とは、次の全ての要件を満たす法人をいいます。
(租税特別措置法66条の4第1項)

・外国法人であること
・当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式総数の50%以上の株式を保有する関係その他の政令で定める特殊の関係があること

IGSと移転価格税制

移転価格税制の対象とならない役務の提供

親法人と国外関連者との間で行われる役務の提供取引の取引内容は多岐に渡りますが、その全てが移転価格税制の対象となる「役務の提供」に該当するのでしょうか。

この点を検討するにあたっては、国税庁による「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」の3-10の記載が参考となります。(以下、「事務運営指針3-10」)
出典:第3章 調査|国税庁

事務運営指針3-10(2)及び(3)によると、次の役務提供は移転価格税制の対象になりません。

・法人が行う活動と非関連者が国外関連者に対して行う活動又は国外関連者が自らのために行う活動との間で、その内容において重複(一時的に生ずるもの及び事実判断の誤りに係るリスクを軽減させるために生ずるものを除く。)がある場合の当該法人が行う活動
・国外関連者の株主又は出資者としての地位を有する法人が行う活動のうち一定のもの(当該活動の準備のために行われる活動を含む。)

2点目の「一定のもの」は、たとえば次のとおりです。(詳細は事務運営指針3-10(3)をご参照ください)

・親会社が当該親会社の株主その他の投資家に向けて行う広報
・親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主又は出資者としての活動

役務の提供が移転価格税制の対象となるか否かの指針

上記の役務の提供以外、たとえば経理サービスや営業サービスが移転価格税制の対象となるか否かの指針も、事務運営指針3-10には用意されています。

事務運営指針3-10(1)によると、会計・監査・税務又は法務サービスや、製造・購買・販売・物流又はマーケティングに係る支援サービスが移転価格税制の対象となるか否かは、それらのサービスが国外関連者にとって経済的・商業的に価値を持つかで判断されます。具体的には、次の基準で判断されます。

・法人が当該活動を行わなかったとした場合に、国外関連者が自ら当該活動と同様の活動を行う必要があると認められるかどうか
・非関連者が他の非関連者から法人が行う活動と内容、時期、期間その他の条件が同様である活動を受けた場合に対価を支払うかどうか

たとえば、親法人から決算書作成サービスを受けている国外関連者は、親法人がそのサービスを提供しなくなった場合は自ら決算書作成を行うかもしくはその決算書作成を有償で第三者へ依頼することが想定されるため、この決算書作成サービスは国外関連者にとって経済的価値を持つと言え、したがって移転価格税制の対象となる役務の提供に該当すると考えられます。

まとめ

あるサービスが移転価格税制の対象となる役務の提供に該当するか否かは、実務で悩むことが多い点の一つです。今回紹介した事例集や事務運営指針3-10を参考にしてもなお判断に困るものについては、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。なお、記載の情報は2020年10月時点の法令等に基づきます。

この記事を書いたライター

税理士事務所代表。社会人5年目で経理職に転じ、以降は経理畑。事業会社に勤務しながら税理士試験の勉強を始め、官報合格。移転価格税制対応業務や、外資系企業日本法人の各種申告業務の経験などを有する。
カテゴリ:コラム・学び

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