クラウド会計業界において、新興2台勢力と言えば株式会社マネーフォワード とfreee株式会社ではないでしょうか?両企業は共に2012年に創業したフィンテック企業であり、クラウド会計サービスの提供をしています。今回はこの2社について、企業概要、財務諸表、クラウド会計の3つの項目について深掘っていきます。
クラウド会計とは、ハードウェアやソフトウェアを所有することなく、インターネット環境上で使用できる会計処理システムのことです。2010年ごろから経理財務、税理士・会計士をはじめとする会計従事者から利用が始まり、働き方が多様化した現在では、個人でもクラウド会計を使用する機会が増えました。
クラウド会計ソフトの利用状況調査(2020年4月末)|株式会社MM総研によると、2020年4月調査では会計ソフトを使用している個人事業主(7,122事業者)のうち、21.3%(1,518事業者)がクラウド会計ソフトを使用しているとわかります。その上、クラウド会計ソフトの利用率は年々上昇しており、前回調査(2019年3月)の18.5%から2.8ポイントも増加しました。
出典:クラウド会計ソフトの利用状況調査(2020年4月末)|株式会社MM総研
クラウド会計業界は今後も間違いなく拡大し続けます。この市場拡大の立役者が株式会社マネーフォワードとfreee株式会社です。この2つの注目株企業について、
1.企業概要
2.財務状況
3.クラウド会計【メイントピック】
クラウド会計ソフトの順に読み解き、結局どちらがユーザーに適したサービスを提供しているか白黒ハッキリさせたいと思います。
また、記事作成にあたり、マネーフォワードクラウドを使用している明和マネジメント税理士法人の都鍾洵税理士、クラウド会計フリーを使用しているイレブン税理士事務所の飯谷慎平税理士へインタビューを行いました。ご協力いただきありがとうございました。
1番勝負では、創業時期から事業内容までまとめています。
出典:筆者作成
マネーフォワードは2012年05月18日に、辻庸介さんによって設立されたフィンテック企業です。「すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる」というビジョンのもと、お金を中心とする事業を複数展開しています。
【主たる事業】
・お金の見える化サービス『マネーフォワードME』
(2012年12月リリース)
・『マネーフォワード クラウド会計・確定申告』
(2013年11月リリース)
・お金のウェブメディア『マネトク』(現くらしの経済メディア『MONEY PLS』)
(2013年12月リリース)
など
マネーフォワード の特徴は、個人向け資産管理アプリ『マネーフォワードME』から事業が始まった点です。普段会計に関わらない人の場合、マネーフォワードと聞くと、資産管理アプリを提供する企業イメージの方が強いのではないでしょうか?
『マネーフォワードME』とは2018年12月からTVCMを放送開始したことで、知名度が一気に向上し、2020年6月には利用者数が1050万人(単純計算10人に1人が使用している!)を突破した超人気アプリです。アプリでは金融機関との連携や散らばった複数の口座を一括管理できるほか、入出金をカテゴリー別に自動で割振って内訳をグラフ化してくれる便利な機能がユーザーに支持されています。
freeeはマネーフォワードの設立から約2ヶ月後の2012年07月09日に、佐々木大輔さんが創業したフィンテック企業です。「スモールビジネスを、世界の主役に」というミッションのもと、会計、人事労務などバックオフィス業務を自動化するサービスを提供しています。
【主たる事業】
・クラウド会計ソフトfreee(税務会計用)
・人事労務freee(人事労務用)
・会社設立freee(起業用)
など
出典:HP|freee株式会社
freeeの特徴は、クラウド会計事業に特化しているという点です。これまで一貫してバックオフィス業務を効率化できる基幹システムの開発とサービス提供をしてきました。事業を多角化しなかった理由として、創業者佐々木大輔さんがこれまで歩んできたキャリア、スタートアップのCFOからGoogleのマーケティングを担当したことが影響しているようです。
佐々木さんは経理担当が1日中パソコンと向き合い、入力作業をする姿とGoogleでの日本の開業率の低さを知ったことが起業のきっかけとなり、中小企業へ普遍的な影響を与えられるサービスの開発に着手しました。
クラウド会計ソフトという一事業からその企業の全体像を見てきました。お金を軸に事業の多角化を続けるマネーフォワードと、一貫してクラウド会計事業を極めていくfreee、そのビジネスモデルの差を把握することができました。
企業概要において最も差が現れた点は上場時期です。マネーフォワードは2017年に上場を果たしましたが、freeeは2019年の上場と2年ほど遅れる形をとっています。ビジネス全体の収益性から判断し、1番勝負「企業概要」についてマネーフォワードに軍配!
1番勝負「企業概要」戦 ○マネーフォワード VS freee×
それでは次のテーマ2番勝負、「財務状態」を見ていきましょう!
2番勝負では客観的に理解がしやすい「財務状態」をもとに企業の現在の姿を明らかにしていきます。
損益計算書
出典:IR資料より著者作成
※freeeは2019年12月17日に上場したため、2018年の決算資料は入手できておりません。
さらにそれぞれの比較している月が違うことについては、
①freeeの決算時期は6月、マネーフォワード は11月であり決算時期がズレていること
②2020年度3〜7月はコロナ期間であり、通常のビジネス環境ではないということ
以上の2点を考慮した上で、可能な限り正確な比較をすべく、freeeは2019/7/1~2019/12/31の半期を表に載せています。
※当時純利益について、freeeにおいては半期の純利益となる。
貸借対照表
出典:IR資料より著者作成
キャッシュフロー計算書
出典:IR資料より著者作成
2019年度においてマネーフォワードとfreeeはともに先行投資が続き、当期純利益は赤字となりました。損益計算書によると、マネーフォワードがfreeeの売上高を上回り、当期売上高は71億円です。しかしながら営業利益・経常利益・当期純利益、いずれの利益額も大きく赤字となり、秀でた差はありませんでした。
続いて貸借対照表より、最も興味深い差が出ていたのは自己資本比率でした。マネーフォワードは自己資本比率が48.2%であるのに対し、freeeは79.1%と極めて安定した経営をしていることがわかります。会社の安全性を図る自己資本比率は、中小企業の平均がおよそ40%であり、50%を超えるとかなり良好な状態にあると言われています。freeeは財務面が極めて安定した企業なのです。
freeeの自己資本比率の高さについて、2つ理由が考えられます。1つ目は固定資産を保有していないこと。2つ目は財務活動によるキャッシュの増加です。2019年はfreeeが上場を果たした年であり、株式の発行によって多額のキャッシュが手に入ることで、長期借入をする必要がないと判断したのかもしれません。
2番勝負「財務状態」では、経営の安定性が極めて優れているという理由からfreeeに軍配!
2番勝負「財務分析」戦 ×マネーフォワード VS freee○
最後に3番目では「クラウド会計」の内容について比較していきます。
参考:平成30年中小企業実態基本調査速報(要旨)|中小企業庁
3番目の勝負ではクラウド会計ソフトの中身について詳しく見ていきます。
この度、現クラウド会計ソフトのユーザーである税理士の先生へインタビューを実施し、それぞれメインで使用しているクラウド会計の特徴、導入して良かったこと、イマイチな点を伺ってきました。
【概要】それぞれのクラウド会計について
出典:著者作成
従業員数別のクラウド会計ソフト主要3サービスの導入動向について
出典:3強が戦うクラウド会計ソフト市場(1)導入ユーザーの動向を徹底調査|株式会社BCN
【価格帯】クラウド会計の料金設定
出典:料金シミュレーション|株式会社マネーフォワード、法人向け会計|株式会社freee、個人向け会計|株式会社freeeより著者作成
【インタビュー】ユーザーの声
今回インタビューさせて頂いた
飯谷慎平さんが代表を務める
イレブン税理士法人事務所のホームページはこちら
飯谷慎平さんのTwitterはこちら
都鍾洵さんが代表を務める
明和マネジメント税理士法人のホームページはこちら
都鍾洵さんのYoutubeはこちら
マネーフォワード、freee両企業とも個人事業主から法人企業まで幅広く対応しています。価格帯の幅も広く、月2000円〜3000円から使用できるプランから、月40,000円を超えるプランまで存在し、それぞれの企業規模に合わせて会計ソフトを選べるようになっています。
freeeクラウド会計のコンセプトは「簿記知識がなくても、会計ソフトを使用できること」です。そのため、簿記特有の仕訳処理がなく、会計初心者でも使用しやすいのが特徴になります。しかしながら会計経験者の中にはfreee特有の仕訳処理に慣れず、使用に至らない方も多数いらっしゃるようです。
マネーフォワードクラウド会計は、他の会計ソフトと同様に、仕訳処理によって試算表を作成する仕様となっています。そのため、会計初心者は使いづらい一方、会計経験者にとって親しみやすい会計ソフトと言えます。
これらの特徴がそれぞれの価格設定に現れているように思います。 freeeは会計初心者に使いやすい特徴を活かし、会計不慣れの個人事業主に対してマネーフォワード よりも高い価格を設定できます。しかし経理部があるような法人企業では、導入によって新しく会計ソフトの使い方を覚えるコストがあり、マネーフォワード よりも安い価格を提示しなければ選ばれません。
マネーフォワード は会計経験者にとって使いやすい特徴から、法人企業に高い価格設定をし、個人事業主には安い価格設定をしています。以上のようにそれぞれの会計クラウドの特徴が上手く価格に反映されています。
インタビューを通じ、マネーフォワードとfreeeどちらも、税理士が抱える仕事の不都合をクラウドやAIという特徴を活かして解決しており、注目企業と言われるのも納得でした。
フリークラウド会計は、業務の効率化・ペーパーレス化に最大の強みがあるようです。まさに事務作業が多いバックオフィサーにとって求められる価値を提供しています。事務業務を節約し、人にしかできない創造性ある仕事ができる環境を作れる。AIと共存する良い未来を創造することができました。
しかし気になったことは、freeeの差別化ポイント『会計知識が要らないというコンセプト』が、会計のプロ達に使いづらい印象を与えてしまうと他の会計ソフトに移行されてしまうことです。
元々専門性が高い会計業界において、システムは税理士・会計士に合わせて作られてきました。会計に精通しない人が使い始めたのは、働き方が多様化してきたごく最近の出来事です。まだまだ旧来のシステム使用に慣れた会計のプロが多いため、この層に対応できるかどうかが今度、成長の鍵になりそうです。
更に税理士が使用する場合は、税務申告に関して機能不足が見られるようで、担当する業務範囲によって機能の追加が課題となるようです。
マネーフォワードは、会計に慣れた方々なら使いこなせる仕様のため、使いづらいという声は聞きませんでした。freeeと比較すると新規性はそれほど感じなかったですが、従来通りの安心感と他サービスとの連携が魅力的な印象を受けました。
マネーフォワードとして、更にユーザー満足度を上げるには、クラウド上で業務が一気通貫して完了できるよう、ユーザーが抱える課題をプロダクトに落とし込んでいくことだと思いました。
3番勝負「クラウド会計」では、機能・料金設定・ユーザーヒアリングなど総合的に評価し、新しい会計処理を提案し、業務の効率化に大きく貢献したフリーに軍配!
3番勝負「クラウド会計」戦 ×マネーフォワード VS freee○
これまで「企業概要」・「財務諸表」・「クラウド会計」をテーマにマネーフォワードとfreeeについて見てきました。
1番勝負「企業概要」ではビジネス全体の収益性と2年早い上場という観点から、マネーフォワードに軍配
○マネーフォワード VS freee×
2番勝負「財務状態」では経営の安定性という観点から、freeeに軍配
×マネーフォワード VS freee○
3番勝負「クラウド会計」では新しい会計処理を提案し、業務効率化に貢献したという観点から、freeeに軍配
×マネーフォワード VS freee○
今回の3番勝負ではクラウド会計をメイントピックとして記事を執筆してきました。そのため、冒頭にあったように、事業の多角化を目指すマネーフォワードよりも、クラウド会計事業を極めてきたfreeeの方が少し有利な戦況だったかもしれません。この記事を通じ、会計業界に少しでも興味を持つ人が増えれば幸いです。マネーフォワード、freee両企業とも調べれば、調べるほど素晴らしい成長率と社会への貢献を感じられました。
出典:クラウド会計ソフトの利用状況調査(2020年4月末)|株式会社MM総研
クラウド会計業界の新星マネーフォワードとフリーですが、実は業界トップには弥生会計クラウドがあったのです。株式会社MM総研『クラウド会計ソフトの利用状況調査』より、市場の50%以上は弥生会計クラウドが有しており、マネーフォワードもfreeeもまだその半分にも満たないのです。
加えて、初めに紹介した会計ソフトの利用形態(単一回答)によると、2020年4月調査では会計ソフトに占める会計クラウドの割合はたった21.3%しかありません。実は会計ソフトはクラウド型とPCインストール型に分かれ、PCインストール型は67.7%もあります。主流はクラウドではなく、PCインストール型の会計ソフトでした。
勢いに乗るマネーフォワードとfreeeですが、市場シェアトップは依然として弥生株式会社であり、会計ソフトの主流はPC型です。マネーフォワードとfreeeはこれら2つの壁を乗り越え、これからも大躍進を期待していきたいですね。