合格すれば監査法人への転職や国内外の会計職におけるキャリアアップを、大きく後押ししてくれる米国公認会計士(USCPA)試験。近年需要が高まっている国際会計に活かしやすいことからも人気を集めていますが、合格率や勉強時間はどうなのでしょうか。本記事では、そんなUSCPA試験の難易度を徹底解説します。
米国公認会計士(USCPA)はアメリカの公認会計士の資格です。グローバルに認知されている会計プロフェッショナルの資格であり、アメリカ以外の多くの国々と相互認証制度があることが特徴です。
具体的には、オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、メキシコなどの国々と相互認証制度を持っています。そのため、各国において大学の単位取得や一部の試験に合格などの条件をクリアすることで、アメリカ以外の国でも会計士として働くことができます。
USCPA試験は、日本ではなじみのない方も多いと思うので、試験制度などの概要についてまとめました。なお試験科目については2024年から変更されているので、過去に受験経験があるという場合でも、チェックしておきましょう。
USCPAはその名の通り米国の資格ですが、その受験資格は州ごとに異なります。ほとんどの州で4年生大学の学位などといった学位要件と会計24単位などといった単位要件があり、その程度や数はまちまちです。
米国公認会計士(USCPA)試験は4科目の取得により合格となります。2023年までは4科目全てが必修科目で構成されていましたが、現在は3科目の必修科目、および3科目の選択科目で構成されており、選択科目はうち1科目を選択する必要があります。
4科目全てにおいて、100点満点のうち合格点である75点以上を取得することで、USCPA試験合格となります。
必須科目(CORE)
AUD(Auditing & Attestation)(監査および諸手続き)
FAR(Financial Accounting & Reporting)(財務会計)
REG(Regulation)(諸法規)
選択科目(DISCIPLINES)
BAR(Business Analysis and Reporting)(ビジネス分析及び報告)
ISC(Information Systems and Controls)(情報システム及び統制)
TCP(Tax Compliance and Planning)(税法遵守及び税務計画)
なお、試験時間は4時間です。AUD、FAR、REG、TCPは四択問題が50%、シュミレーション問題と呼ばれる長文穴埋めや計算が必要となる総合問題が50%となっています。BARおよびISCについては四択問題が60%、総合問題が40%です。
採点方法は相対評価で行われており、難易度が高く受験者の多くが不正解の問題は配点が低くなり、難易度が低く受験者の多くが正解する問題は配点が高くなるという特徴があります。合格点が75点であるということからも、試験範囲全てを完璧にする必要はなく、基礎的なポイントをしっかり抑えて学習すれば合格が可能です。
試験は100点満点ですが、90点以上の高得点で合格する方の大半は英語ネイティブのアメリカ人受験者であり、多くの日本人受験者は75点~80点台で合格しています。
私は4科目全て70点台後半での合格でしたが、転職面接などで合格点を聞かれるようなことはありませんから、合格点さえ満たしていれば問題ありません。重箱の隅をつつくような難問をマスターしてまで高得点を目指す必要はないでしょう。
米国公認会計士(USCPA)の4科目の試験は1年中好きなタイミングで別々に受験することができます。合格した科目は18カ月間有効となるので、初めの科目に合格してから18カ月の間に残り3科目全てに合格する必要があります。合格から18カ月が過ぎてしまうと合格のステータスが無効となり、再受験が必要となります。
科目によって試験範囲のボリュームが大きく違うため、試験範囲を網羅するのに時間のかかる科目を最初に受験することによって、科目合格の有効期限である18カ月内に全科目合格しやすくなります。一般的には、試験範囲が広く、会計の基礎となる知識を問われる科目でもあるFARを1科目めに受験するケースが多いです。
私もFARを1科目めに受験し、その後AUD、REG、BEC(現行制度になる際に廃止)の順番で受験していきました。後半に試験範囲の広い科目が残っていると、科目合格の有効期限切れのプレッシャーがかかってくるので、FARとREGは早めに受験したほうがいいでしょう。
各科目ごとの難易度については下記のコラムにて詳しく解説しています。
米国公認会計士(USCPA)試験は働きながら合格が可能、合格率50%などと言われていますが、実際のところどうなっているのでしょうか。USCPAの難易度を受験資格手続き、合格率、学習時間、英語力の4点に注目して解説していきます。
米国公認会計士(USCPA)試験を受験するにはアメリカの各州に出願して受験資格を得る必要があります。出願する州は好きに選ぶことができますが、各州により受験資格を得るために必要な学歴要件が違ってきます。日本人受験者に人気の州は、ライセンス取得が可能なワシントン州、グアム州か受験要件が易しいニューヨーク州、アラスカ州です。
学歴要件に必要な大学の単位が不足している場合はUSCPA予備校を通してオンラインでアメリカの提携大学から単位を取得することが可能です。私の場合は大学で会計を専攻していたため、ニューヨーク州とアラスカ州の学歴要件を満たしており、ニューヨーク州で出願しました。大学で商学部や経済学部だった方は既に受験要件を満たしている可能性があるので、USCPA予備校等のサービスを活用し確認したほうがいいでしょう。
当然ですが、全ての受験資格取得手続きは英語で行われます。大学から英文成績証明書を取り寄せて、不足単位があればUSCPA予備校を利用して単位を取得し、アメリカの学歴審査機関で審査を受け、受験要件を満たしているアメリカの州に出願するという一連の受験資格取得手続きには時間と労力がかかります。実はUSCPA試験は受験までたどり着かずにUSCPAをあきらめる方が多いのも事実です。
私は独学でUSCPA試験に挑戦したため、上記の手続きをすべて自分でやる必要がありました。大学の講義の英文シラバスが必要だったため、大学から取り寄せたシラバスを自分で英訳したり、手続きが一向に進まなかったので国際電話をかけて催促したり、すべての手続きを終えるまでに3カ月ほどかかりました。試験前からなかなか骨の折れる作業でした。
米国公認会計士(USCPA)試験の運営を行うAICPA(American Institute of Certified Public Accountants)が四半期ごとに全受験者の科目合格率を発表しています。期によって多少の変動はありますが、平均して50%以上の合格率となっています。
合格率50%以上と聞くと、割と受かりやすそうな印象を受けたのではないでしょうか?しかし、この合格率は全受験者の合格率です。英語ネイティブのアメリカ人と比較して日本人受験者の合格率はこれより低くなると考えられます。最近はAICPAから日本人受験者の合格率データが発表されなくなってしまいましたが、2014年のデータでは日本人の科目合格率は平均して30%前後です。
さらに科目合格には18カ月の有効期限があるので、日本人受験者の中で最終的に全科目合格までたどり着くのは20%前後となります。合格率10%前後の日本の公認会計士試験と比べると受かりやすいと言えますが、簡単に合格できる試験ではありません。
米国公認会計士(USCPA)試験の合格に必要な学習時間は1,000時間と言われることもありますが、実際には1,000時間で合格できるのは既に日本の公認会計士試験に合格している方や帰国子女の方などといったケースに限られるでしょう。実際には早くても1,500時間から2,000時間以上かかる方が多いです。
私の場合、大学で会計学を専攻し、TOEICも860点と、ある程度会計と英語のバックグラウンドのあった状態でしたが、合格までに2,000時間以上の勉強が必要でした。また、働きながらこの勉強時間を確保することは非常に難しいです。1年半で2,000時間勉強するには毎日3.6時間勉強する必要があります。
会社員の場合、平日は仕事で8時間働くうえに3.6時間の勉強時間を捻出するのは至難の業と言えるでしょう。私は結局、専業で試験勉強だけに集中することで、なんとか1年半で合格することが出来ました。
試験の問題文、回答の選択肢はすべて英語ですから、英語を読む力が求められます。
私の場合、USCPAの勉強開始時点でTOEIC860点ありました。USCPA試験の文章自体は短文が多く、会計の専門用語も勉強中に自然と覚えられる程度の量なのでそこまで苦労しませんでした。
しかし、試験時間4時間の間に四択問題66問と長文問題8問を解き終えるには、英文を読むスピードが非常に重要であると感じました。実際に初めて受けたFARでは問題を最後まで解き終えることができず59点で不合格となってしまいました。英文を素早く読んで回答する力をつけると同時に試験中のペース配分には十分気を付けたほうがよいでしょう。
参考までに、USCPA受験者の英語力の目安として、USCPAの勉強を開始する時点でTOEIC800点以上取得している方が50%以上を占めています。USCPA予備校の教材は日本語で解説されているのでUSCPAの勉強自体はTOEIC600点前後でも可能ですが、合格するにはTOEIC800点程度の英語力が必要といえるでしょう。
USCPAは米国公認会計士というだけあって、日本の公認会計士との違いが気になる方も多いのではないでしょうか?ここでは、両者にどのような違いがあるのか見ていきましょう。
2つの資格の一番大きな違いは難易度です。公認会計士の2023年に行われた試験の合格率は7.6%でした。日本の公認会計士試験は現在受験資格が無いので、USCPAの合格率との比較は一概にはできませんが、一般的に言われている必要な勉強時間や試験で問われる内容などから鑑みると、日本の公認会計士の方が難易度は高いといえます。転職市場において、公認会計士有資格者の方がUSCPA有資格者より市場価値が高いのも、その裏付けになるでしょう。
他にも試験の形式が異なっています。日本の公認会計士は短答式と論文式で構成されており、その両方に合格しないと公認会計士になることはできません。また、原則いつでも受けることができるUSCPAに対して、日本の公認会計士試験は短答式試験が年二回、論文式試験が年一回(三日間実施)となっています。
資格を取った後に日本で行える業務にも違いがあります。
公認会計士法によると、「財務書類を監査すること」や「財務書類の内容を証明すること」は公認会計士の独占業務に該当しています。つまり、これらの業務は、USCPAを持っているだけだと日本で担当することはできません。
USCPAは会計知識と英語力を同時に証明することができる数少ない資格の一つです。また、冒頭でご紹介した相互認証制度が多くの国々とあるだけでなく、国際会計基準などの専門的な知識を身に付けられることから、国内外問わず幅広い職場で活躍することができます。監査法人や一般企業の管理部門で働くとしても、大手企業をはじめとした、海外子会社を持っていたり国際的な取引が多い企業で働くことができるでしょう。
また、企業同士のM&Aのサポートなどを行うFAS系コンサルティングファームでは、財務に関するリスク調査である財務DDやPMIなどに活かせることなどから非常にニーズが高く、資格保持者からも注目を集めている転職先の一つとなりつつあります。
簿記2級の英語版などと言われることのある米国公認会計士(USCPA)資格ですが、ご紹介したような理由より、確実に簿記2級よりも難易度は高いといえるでしょう。しかしながら日本の公認会計士試験と比べると受かりやすく、国際的な評価も高い資格であるため、会計プロフェッショナルとして国内外で働きたいといった方にはおすすめの資格です。
USCPA予備校を上手に活用し、毎日学習する環境を確保出来れば日本人にも十分合格可能な資格です。みなさんのUSCPA挑戦を応援しています!
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