今回は、ファッションビルや商業施設などを展開する「OIOI(マルイ)」を運営する株式会社丸井などを傘下にもつ株式会社丸井グループについて取り上げたいと思います。
近年は、消費者の購買行動が、リアル店舗での買物からECサイトなどのネットでの購入が増えてきています。この市場環境の変化により、苦戦を強いられる小売業の会社は少なくありません。そんな中丸井グループは、2020年3月期まで9期連続の増益となっています。その増益を支えている要因について解説をしていきたいと思います。
丸井グループは、1931年に創業され、家具の月賦販売を行っていました。この月賦販売とは、商品の販売と同時にクレジットを提供する販売方法です。これは言い換えれば、小売と金融が一体となった販売手法であり、丸井グループのルーツには、小売と金融は一体であるという考え方があり、それが今日の企業経営にも引き継がれていると言えます。
現在丸井グループでは、商業施設である「OIOI」の運営やクレジットカードの「エポスカード」に関する事業が中心となっています。
2007年に株式会社丸井株式会社丸井グループに商号を変更し、事業セグメントごとに会社を分けて現在の持株会社制に移行しました。2020年3月末時点で親会社と子会社16社と関連会社6社によって構成されています。
なお、会社の有価証券報告書上では、小売とフィンテックの2つの報告セグメントに分けられています。これら2つの事業内容について紹介します。
小売セグメントとして挙げられているのは、以下の事業になります。
・商業施設の賃貸及び運営管理
・衣料品・装飾雑貨等の仕入販売
・店舗内容
・広告宣伝
・ファッション物流受託
・建物の保守管理等
一言でまとめると、商業施設であるOIOIやモディの運営及び附随業務がメインの事業と言えます。
フィンテックセグメントとして挙げられているには、以下の事業になります。
・クレジットカード業務
・消費者ローン
・家賃保証
・情報システム・サービス
・不動産賃貸等
一言でまとめると、クレジットカード業務を中心として、それらの関連する業務を扱う事業といえます。
株式会社丸井グループ 連結指標
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
2020年3月期は、コロナの影響もあり売上収入が減少しておりますが、利益としては事業全体として9年連続増益ということもあり、会社としては成長していると言えます。特に、会社の稼ぐ力として、自己資本利益率は、5年前と比べると約3%増加しています。
次に、キャッシュ・フロー項目についてです。会社としては、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスの期間が過去5年間をみると続いています。その一方で財務活動によるキャッシュ・フローがプラスの時期もあります。これは、丸井のカードを利用する人が、分割払いやリボ払いを選択することで代金回収が遅れていることが要因です。その回収が遅れている部分を借入等によって運転資金を確保することによって財務活動によるキャシュ・フローが増えているのです。
ただし、近年では、会社としては有利子負債が増えることは企業の倒産リスクが高まると考え、保有している債権を第三者に回収前に売り渡す債権流動化を積極的に行い、有利子負債の圧縮をしています。その結果、営業活動によるキャッシュ・フローが改善しているわけです。
以上のように、会社全体でみれば成長をしており、財務健全性も高まり企業価値がより向上しているような状況と言えます。
次に、セグメント別の状況について見ていきたいと思います。
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
小売セグメントは、近年はリアル店舗の売上が苦戦をしており、売上収益としては減少傾向にあります。
しかし、営業利益や利益率ベースでみると改善をしています。それはなぜでしょうか?売上収益の内訳について見ることでその理由がわかります。
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
一点留意点があります。この売上収益の内訳は、株式会社丸井グループが公表しているFACTBOOKから作成しているのですが、小売セグメントの売上合計と売上収益の内訳が一致しないですが、その他の収入が小売セグメント合計として開示する際に加えられていると考えられます。(後述するフィンテックセグメントも同様です)
小売セグメントのトピックとして、丸井グループは大きな戦略の転換をしています。2017年度から売場区画ごとに期限を定めて賃貸借契約を結ぶ定期借家契約を各テナントに結ぶ方向に転換していきます。
それ以前は、百貨店モデルという自社で商品を仕入れて販売するモデルで行っていました。特に消化仕入というものが売れた時点で仕入が立つ方法が百貨店では通例の商慣習となっていました。
消化仕入れは、販売されたときに仕入が立つため、マルイ自体に在庫リスクはありません。一方で、大量仕入は行われないため、仕入価格自体は下がらず利幅も獲得しづらいというデメリットがあります。
近年は、百貨店の売れ行きが下がってきていることもあることから、自社で販売するメリットが少なくなっていたため、2017年度からショッピングセンターのように、各テナントに売場区画を貸し出す方法に転換しました。
ここ5年間の数字の推移を確認すると、賃貸収入が大きく増えているのは、定期借家契約が増えたことが要因となります。一方、百貨店モデルからの転換により商品売上高及び消化仕入売上高が減少しています。
小売セグメントでは、賃貸収入で安定的な収入かつ高い利益率を確保しつつ、ECサイトなどの拡張を図っていくことになると考えられます。
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
フィンテックセグメントの業績の推移を確認すると、右肩上がりに利益が増えています。また、利益率も小売セグメントと比較しても高い利益を確保しています。
売上収入の内訳について確認し、要因について見ていきます。
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
フィンテックセグメントの売上を確認すると、割合として大きいのが、ショッピングクレジット及び消費者ローン利息収入になります。これは、丸井グループが発行しているエポスカードの発行枚数が増加しかつ利用者の利用率が増えているため、カードの利用手数料が入ってきているのと、カードのキャッシングの利息が主な収入として入ってきます。
以下がカードの会員数の推移になります。
出典:株式会社丸井グループ 過去5年間のIR情報より筆者が作成
この推移で注目したいのが、「プレミアム会員構成」です。
プレミアム会員構成とは、ゴールドカードやプラチナカードの会員数の構成割合です。この5年間で21.6%から34.8%に大きく増加しています。
このプレミアムカードの会員の方は利用金額も大きいため、構成割合が増えることによって、手数料収入も大きく増えることになります。
丸井はこのカードをよく利用する層を徐々に増やすことができていることが、高い利益率が増えている要因といえます。
フィンテックセグメントでもう一つ押さえておきたいことがあります。それは2019年3月期から計上されている債権流動化という項目です。債権流動化とはいわゆる、ファクタリングというものになります。ファクタリングとは、債権が回収期限を迎える前に第三者に売却をして債権を現金化するものになります。
通常は、ファクタリング行うと、手数料がかかるため、利益はでないですが、ファクタリング価格が将来の利息等を含んだ金額で売却をされるため、現在の額面金額よりも高い金額で売却されるため、手数料を加味したとしても利益が発生することになります。
クレジットカードなどで、分割払いやリボ払いが増えることにより、資金の回収が遅れていくため、運転資金が厳しくなるため、運転資金確保のため、借入金が増えて行くモデルとなっています。会社としては財務安全性の観点から債権金額の9割を負債調達額の上限として考えており、負債を圧縮するためにも債権の流動化は今後も行われていくと思われます。
丸井グループの業績を確認していくなかで、フィンテックの好調が会社を支えているといえます。2020年3月期の会社の決算説明資料を確認すると、会社としては店舗を定借化したことにより店舗投資が少なくなっていく一方で、ソフトウェア、人材・研究開発、新規事業領域などへの投資が拡大していくと書いてあります。
ソフトウェア開発については、内製化を進めることで、コストの抑制と、年間230件という2日に1件ローンチするというハイスピードな開発体制を実現しています。
人材・研究開発費についても、ITの人材の育成や、投資先ベンチャー企業への出向、次世代経営者育成などの人材投資を強化しています。確かに、売上収益に占める割合としては、2020年3月期で1.3%と多くを占めていますが、2015年3月期の社員1人あたり営業利益が、472万円から802万円に1.7倍に大きく成長しています。
丸井グループは、ベンチャー企業への投資も積極的に行っており、近年上場したBASEやgifteeにも投資を行っています。新規事業を伸ばしていくためにも積極的に増やしていくとのことです。
以上のような項目への投資を増やし、丸井グループは、今後は小売×フィンテック×共創投資を三位一体の新たなビジネスモデルを創出していく、知識創造型の企業を目指していくとのことです。
創業は小売業であるのですが、フィンテックなどの分野で経営環境の変化に柔軟に対応することで、会社の価値を高めていく丸井グループに今後も注目すべき企業だと言えます。