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年俸制でも残業代が必要!年俸制と残業代のよくある誤解とは

社会保険労務士 田中かな
年俸制でも残業代が必要!年俸制と残業代のよくある誤解とは

年俸制の労働者の残業代について、「年俸制には残業代も全部含まれているから、別途残業代を支払う必要がない」と思っている経営者・担当者がいますが、これは誤解です。年俸制であっても残業をさせればほかの労働者と同様に残業代を支払わなければなりません。今回は年俸制の残業代について解説していきます。

残業代の法的根拠

まずは、そもそも残業代とは何かについて、法律の観点からお伝えします。

労働基準法第32条では、原則として1日8時間・1週40時間(法定労働時間)を超えた労働が禁止されています。ただし同法第36条にもとづく労使協定を結んだ場合には一定の範囲で法定労働時間を超えた労働が可能となり、これがいわゆる残業です。

さらに同法第37条では、使用者に対し、法定労働時間外に働かせた場合における割増賃金の支払い義務を定めており、これが残業代にあたります。

年俸制とは

次に、年俸制とは何かについても確認しておきましょう。

年俸制とは、年単位で賃金が決定する賃金形態をいいます。年俸制といっても1年に1回支払うのではなく、一般的には年俸額を12ヶ月で割った額を各月に支給します。労働基準法第24条2項では賃金について、毎月一定の期日を決めて支払わなければならないと定めており、1年に1回の支払いで済ませてしまってはこの規定に抵触するからです。

なお、年俸制と聞くとプロ野球選手を思い浮かべる方がいるかもしれませんが、プロアスリートは基本的に個人事業主です。一般企業における使用者と労働者の雇用関係とはまったく別の契約を結んでいるので、プロアスリートの年俸制とは切り離してお考えください。

年俸制と月給制の違い

月給制に慣れている方にとっては年俸制が何か特別な制度のように感じるかもしれませんが、年俸制と月給制の違いは賃金の決定が年単位か月単位かという点だけです。大きな違いはなく、どちらも労働基準法にもとづき賃金の計算や支給をおこないます。

違いをしいて挙げるとすれば、成果主義を採用する企業で年俸制が導入されやすい傾向にあります。年俸制は一般的に前年の実績や評価等をもとに金額を決定するため、成果主義との相性がよいのです。

年俸制でも残業代は支払われる

お伝えした通り、法定労働時間を超えた労働には残業代を支払う必要があり、年俸制であってもこの点は変わりません。どれだけ働かせても賃金額が固定された制度ではないので注意が必要です。年俸制だからといって労働時間の把握義務が消えるわけでもないので、会社としては労働者の実労働時間を把握しなくてはなりません。

残業代の計算方法も一般的な賃金形態の場合と同じなので、「賃金単価×残業時間×割増率」で計算します。年俸制の賃金単価は、年俸額を12で割って月額賃金を算出し、さらに1ヶ月の所定労働時間で割って算出することになります。

年俸制でも残業代は支払われる

年俸制で残業代を支給しなくてもよいケースとは?

年俸制でも一般的な賃金形態と同じように、残業をさせれば残業代を支給しなくてはなりません。ただし例外的に残業代を支給しなくてもよいケースがあります。

労働基準法の管理監督者にあたるケース

対象の労働者が管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)にあたる場合は、労働基準法第41条により労働時間・休憩・休日の規定から除外されますので、残業代の支払いが不要です。

注意が必要なのは、本当に労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかです。この点は「課長」「店長」等の名称にとらわれず、実態に即して、次の基準をもとに判断されます。

・労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にあること
・労働時間や業務量について広い裁量権が認められていること
・一般の従業員と比べ、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

労働者側の不満としてよくあるのは「役職が付いたら残業代がでなくなったため、一般社員の頃よりも実労働時間あたりの賃金単価が下がった」というケースです。この場合は管理監督者にふさわしい処遇を与えているとは言いがたいため、管理監督者の該当性は否定される可能性が高いでしょう。つまり一般の労働者と同じように残業代を支給する必要があります。

なお、管理監督者に該当する場合でも、支給義務がないのはあくまでも残業代や休日手当であり、深夜に働かせた場合は割増手当が必要です。誤解が多い部分なので気を付けましょう。

固定残業代制度を導入しているケース

いわゆる固定残業代制度とは、あらかじめ残業が想定される場合に、その分の残業代を固定残業代として、基本給などの固定賃金とあわせて支払う方法です。あらかじめ契約で定めた残業時間分を固定残業代として支払うため、残業時間が契約範囲におさまっている限りにおいては、別途残業代の支給は必要ありません。

ただし、契約範囲を超えて残業させた場合には超過分の残業代が必要です。また固定残業代は残業の有無にかかわらず発生するため、結果としてほとんど残業がなかったというケースでも、固定残業代分を減らすといった取り扱いはできません。

固定残業代制度を「何時間残業させても固定残業代が変わらないからお得」と思っている経営者は多いのですが、まったくの誤解であり、むしろ正しく運用した場合には労働者にこそメリットの大きい制度です。恣意的に残業代の支給を免れるために導入することはできないと思っておきましょう。

まとめ

年俸制は年単位で賃金を決める賃金形態であり、それ以外は一般的な賃金形態と同じです。年俸制を理由に残業代の支給義務を免れるわけではなく、年俸制の労働者に残業をさせた場合は残業代の支払いが必要となります。不要なトラブルを防止するためにも年俸制と残業代について正しく理解し、適切に賃金を支払うようにしましょう。

この記事を書いたライター

求人関連企業の経理部門に在籍中、社会保険労務士資格を取得。その後、会計事務所や総合病院での労務担当を経験し、現在はフリーランスのライター・校正者として活動中。ジャンルは労働問題を得意とする。
カテゴリ:コラム・学び

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