働き方改革による業務効率改善の一環として、アウトソーシングを検討する会社が増えています。アウトソーシングでは、「業務請負」や「業務委託」という意味で使用されますが、人によって違うケースが散見されます。
今回は、業務委託の意味とメリット・デメリット、「業務請負」「業務委託」の違いについて解説します。
業務請負と業務委託との最大の違いは、業務請負が「完成物や成果」に対して報酬が支払われるのに対し、業務委託は成果には関係なく「実際に行った業務」に対して報酬が支払われることです。
業務請負の場合は、業務に多くの時間を費やしても成果が上がらなければ報酬はないか、減額されるのに対し、業務委託の場合は一定の時間仕事をすれば一定の業務を行ったとみなされるので成果に関係なく報酬を受けることができます。
それでは業務請負と業務委託について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
アウトソーシング業務で業務の発注者と受任者が結ぶ契約について、民法では「請負契約」「委任契約」「純委任契約」の3つの契約形態を定めています。
● 民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる
● 民法第643条(委任)
委任には、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手がこれを承諾することによって、その効力を生ずる
● 民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
広い意味で業務委託は、「請負契約」による業務請負と、「委任契約」や「準委任契約」による業務委任に分けることができます。しかし、民法の条文では「委任」ではなく「委託」という言葉が使用されているため、業務委任は業務委託と呼ばれることが一般的です。
すこし紛らわしいですが、今回の記事では「請負契約」によるものを業務請負、「委任契約」や「準委任契約」によるものを業務委託、と定義して解説していきます。
業務請負とは、アウトソーシングの1種で「請負契約」により成立します。請負契約の特長は下記の通りです。
● 仕事の完成を前提に、発注者が請負人の仕事の結果に対して報酬を支払う
(成果報酬型)
● 請負人が業務の手順や方法を決め、発注者は請負人に対して直接指示できない
● 業務の費用(原材料費や諸経費)は、請負契約の報酬に含まれる
● 対象業務は製造、物流・運輸、システム開発など
業務委託は、「委任契約」や「準委任契約」により成立します。委任契約の内容は「法律行為」ですが、準委任は法律行為以外の行為です。業務委託の特長は下記の通りです。
● 成果や結果にかかわらず、受託者が行った業務に対し委託者が報酬を支払う
● 請負人が業務の手順や方法を決め、委託者は受託者に対して直接指示できない
● 業務の費用(原材料費や諸経費)は、委託者が負担する
● ビル管理、システムのメンテナンス、弁護士、コンサルタントなど
ここでは、業務請負を依頼する側と依頼される側のそれぞれのメリット・デメリットを解説していきます。
● 自社ではできない業務をしてもらえる
● 専門知識を持った人材の採用・育成や設備投資などのコストを削減できる
● 労務管理などが不要
やはり、1番のメリットといえるのは、自社で出来ない業務を行ってもらえるところではないでしょうか。コストが軽減できるのもそうですが、会社規模になってくると、この業務だけやってほしいなどということがあるので、その業務を任せることで安心して他の業務を行うことができます。
● 発注した業務の進捗状況を管理(チェックや指示)できない
● 発注した業務が完成しなかった場合(期限遅れ、不具合発生など)、損害を受ける
● 発生業務ができる人材の育成、社内でのノウハウ蓄積ができない
進捗状況が確認できづらく、連携が取れずに期限遅れとなってしまうリスクがあります。自社の社員ではないので、すぐに連絡が取りづらいのはデメリットでしょう。
● 自分の得意分野を活かして仕事ができる
● 仕事の内容や時間、場所などを自分で決めることができる
● 成果次第で収入アップが可能
依頼されているということは、自社の得意領域で仕事ができているということです。出来ないことや苦手なことで任されるようなことは少ないため、どんどん仕事を進めることができます。
● 労働基準法が適用されない、厚生年金・健康保険に加入できない
● 成果をなければ報酬もない、場合によっては損害賠償請求を受ける可能性もある
● 仕事の繁閑によって収入が不安定
個人の場合には特にデメリットが多く、そのような依頼を多く受けて仕事をしている場合、成果を出していないときには収入は出ず、そういった依頼を適宜探してこないといけません。収入が安定しないのはデメリットといえるでしょう。
ここでは、依頼する時の注意点についてまとめてみました。どれも重要なので、一つ一つ見ていきましょう。
実際に委託したい内容を契約の際に決めて置かないと、その規約以上のことは依頼を受ける側はする必要がありません。そのため、依頼する側がやってほしいことでも、規約に書いていないからやらなくてよいといわれてしまう可能性があるので注意しましょう。また、同じ理由で、請負を依頼する場合も事前に期日を決めておく必要があります。
契約上のトラブルがあった際の対処法をあらかじめ用意することは大切です。トラブルでなくても、どの条件が達成されたら契約解除する、または契約更新するなどをあらかじめ決めておくことで、どちらの立場も明白となり関係が良好になるといえます。
依頼するときには、「再委託の可否」「再委託する場合に満たすべき条件」「再委託の際に生じた損害の賠償を求める旨」なども決めておくべき必要があります。依頼する側は、依頼先の技術を見込んで依頼しているわけなので、再委託されてしまうと、思っていた成果が得られない場合があります。また、情報漏洩のリスクも上がってしまいます。
業務請負において、発注者が業務手順や方法を管理したり指示してないかチェックされる理由は、偽装請負の問題があります。請負業者は人の派遣のみを行い、発注者が業務指示をするという派遣労働と変わらない状況にもかかわらず業務請負をしている状態を偽装請負といいます。
偽装請負が生まれる原因は、派遣社員と異なり、請負労働者には労働基準法が適用されず社会保険料や福利厚生の負担も不要であるため、請負業者にとって請負労働者は低コストの労働力であるからです。
偽装請負は違法行為なので、業務請負を利用する企業は、請負契約の内容が遵守されているかチェックする必要があります。
一般的に「請負契約」によるものを業務請負、「委任契約」や「準委任契約」によるものを業務委託といいます。業務請負と業務委託との最大の違いは、業務請負は「完成物や成果」に対して報酬が支払われるのに対し、業務委託は「実際に行った業務」に対して報酬が支払われることです。
業務請負には、依頼する側、依頼される側ともにさまざまなメリット・デメリットがあるので、お互いに請負契約の内容を理解したうえで制度を有効活用しましょう。