近年、企業活動を行う中で、「いかにコストを削減しながら業績を効率化させるか」という点に注目が集まっています。そのようなニーズに沿うものとして重用されるのがアウトソーシングです。
確かに、アウトソーシングを効果的に企業活動に盛り込むことができれば、いろいろな面においてメリットが生じます。他方、闇雲なアウトソーシング化に走ってしまうと、企業母体の密度が薄くなる結果、悲惨な状況にもなり得るものです。アウトソーシングの活用は、いわば経営選択の一つであり、企業の今後を左右するほどのものと言っても過言ではありません。
そこで今回は、アウトソーシングの内容やメリット・デメリットについて説明します。企業経営にアウトソーシングを導入するか検討されている方は、ぜひ最後までご一読ください。
まず、アウトソーシングがいかなるものかを説明します。関連して、近年になってアウトソーシングが求められるようになった理由についても迫りたいと思います。
アウトソーシング(outsourcing)とは、業務の外部委託のことです。自社内で行っていた業務や、新規に自社で取り扱う予定の業務について、これを外部の機関に委託し、当該外部機関によってこなされた労務やサービスの結果を商品として購入するという形式が採られます。
元々は、情報システム関連業界において取り扱われていた経営手法ですが、現在では広くアウトソーシングが実施されています。生産、物流、経理などはもちろんのこと、例えば採用面接のみのアウトソーシングや、Webサイト管理など、多方面で活用されています。
自社で取り扱う業務を外部機関に任せる、という表現をしたとき、派遣労働や外注、BPOといった用語を想定される方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、現代におけるアウトソーシングの多様化によって、アウトソーシングの概念自体がかなり流動的になっています。そのため、どこまでがアウトソーシングの範疇に含まれるのかはかなり曖昧です。ただ、少なくとも一般的には、派遣労働や外注をアウトソーシングに含めることはありません。
例えば、外注とは、広く外部の事業者に物品やサービスの提供を発注することを意味するものです。外注の中にアウトソーシングが含まれるという関係性です。
また、派遣労働は、確かに自社以外の人材が自社業務を遂行するという意味ではアウトソーシングと共通する内容を含みます。ただ、アウトソーシングが商品やサービスを外部機関に依頼するのに対して、派遣労働は人それ自体を受け入れるものです。ここに大きな違いを見出すかは論者次第ですが、一般的には派遣とアウトソーシングは似て非なるものとされています。
他方、BPOはアウトソーシングの一種です。むしろ、アウトソーシングをより積極的に活用した形とも言えるでしょう。そもそも、アウトソーシングは、自社で取り扱っていた業務を外部に委託するものではありますが、委託するのは自社の基幹業務ではありません。基幹業務は自社でこなしつつ、細部的な業務を外部に依頼するものです。これに対して、BPOは基幹業務に属するものについても外部に依頼するものです。
アウトソーシングは、自社の業務の一部を外部に委託するものです。多くの場合が、自社とはまったく資本提携関係のない企業等への業務委託でしょう。
ただ、場合によっては、子会社や関連企業、グループ会社などに対して業務の一部を任せるケースもあります。一般的には、このような資本提携関係がある組織に対して業務委託する場合もアウトソーシングに含めます。
アウトソーシングが活用される理由は、それによっていろいろなメリットが生じることに加えて、企業がアウトソーシングをせざるを得ない状況に追い込まれていることが挙げられます。
それは、労働人口の減少です。従来型の企業活動は、豊富な人材を企業に抱え込むことを前提に遂行されてきました。しかし、労働人口が激減する昨今、この従来型の企業活動をそのまま維持するだけの人材を集めることは難しくなっています。しかし、企業活動を縮小することは収益性の観点から問題があります。
そこで、注目されたのがアウトソーシングです。事業規模を自社社員だけで支えきることができないのであれば、自社で必ずこなさなければいけないもの以外の業務については、そのまま外部に委託してしまえば良いという発想に基づきます。
このような形でアウトソーシングを迫られた企業が増え、アウトソーシング市場自体がブラシュアップされて多様化・高度化・専門化が進んだ結果、以下で紹介するような多くメリットを享受できる状況に至ったのです。
ここからは、アウトソーシングを経営に導入することによってどのようなメリットが生じるのか説明します。具体的には以下の5点です。
・人件費の抑制
・固定費の抑制
・自社組織の肥大化の抑制
・基幹業務への集中
・事業の幅の拡大
アウトソーシングを活用すれば、人件費の抑制を図ることができます。
21世紀の現在においても、日本の多くの企業において年功序列制度が採用されています。この企業風土を前提とする以上、企業内で効率性の低い作業あるいは難易度の低い業務しか任せることができない人材に対しても、勤続年数が多いというだけでかなりの給与を支払う必要があります。
他にも、残業代や社会保険料など、いろいろな面で企業にはコストがのしかかります。新人教育に時間をかける必要もあるでしょう。
アウトソーシングを活用すれば、このような人件費を大幅削減することができます。もちろん、業務委託の費用にもよりますが、往々にして企業にはメリットが生じるケースが多いでしょう。
アウトソーシングを活用すれば、固定費の抑制を図ることができます。オフィスの規模を縮小すれば物件コストが減りますし、PCやソフトウェアの整備にかかる費用を抑えることもできます。
アウトソーシングを活用すれば、自社組織の肥大化の抑制を図れます。
組織規模は、事業内容に応じて適切でなければいけません。収益性の低い部門を多数抱えたままでは、組織としてのフットワークが重くなる一方です。例えば、不採算部門を多く抱えるがために組織の利益率が低く評価されると、融資の必要に迫られた際に満足の行く資金調達を受けられないリスクが生じます。また、投資家などからも厳しい目を向けられるでしょうから、株価の維持も難しくなる可能性があります。
組織規模が大きくなること自体が悪いことではありません。しかし、不必要なまでに肥大化することは避けるべきでしょう。アウトソーシングを活用し、不採算部門の効率化を図ることによって、組織全体の価値が高まることを期待できます。
アウトソーシングを活用すれば、基幹業務への集中が実現します。
アウトソーシングによって末端業務は外部機関が受託してくれるので、自社において遂行すべき基幹業務が明確になります。限られた人材を限られた時間の中で一極集中させることができるので、組織活動の効率性が上がります。
結果として、より良い製品、サービスの実現にも繋がるでしょう。
アウトソーシングを活用すれば、事業の幅が拡大します。
先程簡単に触れましたが、現在アウトソーシングが頻繁に活用されるようになったことで、アウトソーシング市場の専門性が高くなり、多様なサービスが提供されています。
となると、アウトソーシングの活用によって、従来自社企業のみでは達成できなかった事業も行えるようになります。自社における提供サービスの幅が広がり、質も向上させられるでしょう。市場においてより存在感を示せますし、競合企業に対する優位性も維持できます。
以上のように、アウトソーシングの活用は大きなメリットを生み出すものですが、他方、注意しなければ以下のようなデメリットが生じかねません。
アウトソーシングは、外部機関に業務を委託するものです。これは、委託部分に関しては、自社内で一切業務プロセスを知りえないことを意味します。したがって、自社にノウハウを蓄積できないというデメリットが生じます。
アウトソーシングを活用すれば、確かに自社内における人件費等のコストを削減することはできます。ただ、同時にアウトソーシングのために費用を捻出しなければいけません。後者の方がコストがかかるのであれば、そもそも費用面におけるアウトソーシングのメリットは存在しません。
アウトソーシングを活用する以上、情報漏洩のリスクには常に晒されます。もちろん、業務委託の際には、守秘義務、秘密保持義務を含んだ内容で契約が締結されるでしょう。しかし、それが遵守されるという確証はありません。また、委託部分に関する情報管理自体も受託機関に委ねることになるので、管理体制に問題があれば漏洩リスクは高まります。
特に、人事関連情報、顧客情報、システム関連情報などには注意が必要です。
企業のスリム化だけに注目してアウトソーシングを行ってしまうと、ノウハウが蓄積できなかったり、多数の人材が流出するというおそれがあります。これでは、今現在は企業経営がスムーズに進むかもしれませんが、将来的な企業価値に問題が生じる可能性があります。
企業としては、中長期的なスパンで、アウトソーシングをすべきかどうかを判断しなければいけません。
そしてその際考慮しなければいけないのが、どの部門をアウトソーシングし、どこまでを自社で処理するのか(インソースを含む)という点です。自社企業の将来的な展望を含めいろいろな事情を考慮した上で、この線引きを正確に行う必要があるのです。
その際に考慮されるポイントは、以下の3点です。
・業務内容の専門性
・コア業務か否か
・業務における戦略性
これらのポイントを総合的に考慮して、アウトソーシングの線引きをご判断ください。
専門性が高い業務は自社で行い、専門性の低い一般業務はアウトソーシングするのが一般的な考え方です。
これによって、専門性の高い業務に関するノウハウを自社内に蓄積することができるので、将来的な企業の成長力が期待できます。
収益性の高いコア業務は自社で行い、収益性の低いノンコア業務はアウトソーシングするのが一般的な考え方です。
例えば、単純な事務作業などは、わざわざ自社社員の労力を割く必要のないことです。それよりも収益性が高い業務に集中させることで、社員のスキルアップ機会を確保すべきでしょう。
戦略的業務は自社で行い、非戦略的業務はアウトソーシングするのが一般的な考え方です。
戦略的業務は、企業の根幹に関わるものです。ノウハウ維持・企業戦略の漏洩阻止のためにも自社内で執り行うようにしましょう。
アウトソーシングに関する解説は以上です。
多くのメリットを生み出す一方、自社内で適切に範囲を決定しなければ、多大なるデメリットを生じうるのがアウトソーシングです。特に重要なのは、今の企業の状況だけではなく、将来的な企業の在り方を意識した上でアウトソーシングの活用範囲を決するという点です。単なる業務委託と軽く扱ってしまうと、数年後、数十年後に痛い思いをしかねません。
まずは、自社の現状を客観的に分析し、抱える問題を洗い出しましょう。その上で、アウトソーシングの有効性を吟味し、的確な経営判断を行ってください。
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