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諭旨解雇とは?その際の退職金はどうなる?

社会保険労務士 蓑田真吾
諭旨解雇とは?その際の退職金はどうなる?

使用者側から一方的な労働契約の解除通告として、解雇があります。そして、解雇は一般的に次のように分類されます。

・普通解雇
・懲戒解雇
・諭旨解雇
・整理解雇

今回は、諭旨解雇にフォーカスを当て、かつ退職金にまで波及させて解説してまいります。

諭旨解雇とは

諭旨解雇とは、本来であれば、最も重い懲戒解雇の対象となり得るものの情状酌量の余地があり、自主的に退職届を提出するように勧告する処分を指します。諭旨とは、趣旨や理由を諭し告げるという意味であり、労働者側に責任の所在があっても使用者側が一方的に処分を下さず、両者で話し合い、双方納得の上で解雇処分を受け入れさせることです。

解雇が禁止される場合とは

労働基準法第19条
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が労働基準法65条の規定によって休業する期間(産前産後)及びその後30日間は、解雇してはならない。以下略。

解雇権濫用法理とは

労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

退職金の性質とは

退職金は、賃金の後払い的性格と同時に功労報償的性格を有しているとされています。功労報償とは今まで会社に勤めてきてくれた労をねぎらうという意味です。退職金は、就業規則や退職金規定などに支給条件が明記されている場合には、賃金の後払い的性格を有し、原則として労働基準法上の賃金支払いの原則の適用を受けると解されます。一方で、懲戒解雇や諭旨解雇の場合には、退職金の一部が支給されないという取り決めも一般的です。

退職金の性質とは

2つの参考となる判例

三晃社事件

同業他社に再就職するという「競業避止義務違反」については、企業は一定の制約を設けている場合があります。特に業界内の引抜きが激しい業界ではその動きはより顕著に表れるでしょう。この判例は、退職金支給額を自己都合退職の場合の半額にすることの有効性が認められた事件です。

退職金は基本給や割増賃金と異なり、法律上支払いが義務付けられているものではありません。また、退職金はどの程度の額を支給するかは、使用者側においてある程度裁量的に定められるものであり、例えば自己都合退職の場合でも民法第90条の公序良俗(常識的に考えてあり得ないことは慎む)に反しない限り算定基準に差異を認めることも違法ではありません。よって、退職事由により算定基準が異なることは、予め従業員に周知されており、その事実が判明している以上従業員において不利益は十分認識、比較(例えば自己都合退職かつ同業他社への転職の場合は〇%減)できるのであって、いずれを選択するかは従業員の意思に委ねられていると考えられます。

しかし、会社が退職金の支給額に差異を設けることで特に有能な従業員の足止めを図ろうとする意図は否定できません。しかし、直ちに労働基準法第16条(使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない。)に違反しているとまでは断言できません。よって、一定程度の減額に留めておくのであれば、従業員の強い足止めになるとも考えられないために、民法第90条違反にもあたらないと考えられます。

よって、同業他社へ転職した事案において、退職金の半額のみを支給するとの就業規則上の定めが功労報償的性格に照らして有効とされました。

中部日本広告社事件

広告代理業を営む会社が「退職後6カ月以内に同業他社に就職した場合には、退職金を支給しない」という規定を設けており、退職金全額不支給としました。

まず、退職金は労働の対償である賃金の性質を有しています。そして、退職金の減額に留まらず、全額不支給としてしまうと退職従業員の職業選択の自由に重大な制限を加える結果となるでしょう。退職金規定がありながら、退職金を全く支給しないことが許されるのは、今までの労働の対償を全て抹消してしまうほどの重大な背信性がある場合に限られるとされます。

また、不支給規定が設けられており、会社にとって不支給条項の必要性、従業員の退職に至る経緯、退職の目的、競合する業務によって会社の被った損害等の事情を総合的に考慮すべきとされ、会社の退職金不支給とする適用が否定されました

最後に

上記判例はいずれも諭旨解雇の場合ではありませんが、一部参考にすべき部分があります。まず、諭旨解雇であっても退職金「全額不支給」とするには、今までの労働の対償を全て抹消してしまうほどの重大な背信性がある場合に留めておくことが肝要ということです。これは、退職金が功労報償的性格を有している以上、全額不支給とするには(不支給規定を整備していたとしても)極めてハードルが高いと言えます。

また、予備知識として有期雇用労働者の場合、労働契約法第17条に以下の定めがあります。「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」このやむを得ない事由とは、期間の定めのない労働契約(多くの場合正社員)の場合より狭く考えられています。よって、有期雇用労働者の期間途中での解雇は期間の定めのない正社員よりも難しいということです。すなわち安易に解雇を選択すると重大な労務リスクになり得るということです。

この記事を書いたライター

大学卒業後、一般企業を経て都内の医療機関に就職。医師、看護師をはじめ、多職種の労務管理に従事しながら一念発起し社会保険労務士の資格を取得。 【他保有資格】2級ファイナンシャル・プランニング技能士、労働法務士 等
カテゴリ:コラム・学び

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