コロナ渦において、企業の休養における一時帰休や、整理解雇・リストラなどで雇用の維持が難しい状況が進んでいます。そこで注目されているのが、雇用を確保しつつ、一時的に別の会社で働く「従業員シェア」です。本記事では、従業員シェアについてその目的と問題点を解説します!
シェアとは「分け合う」という意味ですが、従業員を分け合うというのは、人を「モノ」化しているように聞こえるかもしれません。コロナ禍の中で注目されている「従業員シェア」とは、コロナの影響で人員が過剰になった企業から、人手不足の企業へ労働者を一時的に異動させて、その企業で働いてもらうことです。
例えば、ANAの客室乗務員がマスクの縫製を行うなど、今までの仕事とはまるで異なるお仕事をするケースもあります。
従業員シェアの場合、労働者はあくまで元の企業との雇用関係は維持したままで、別の企業で働くことになります。つまり、法的には「出向」の立場です。
企業はなぜ「従業員シェア」を行うのでしょうか。
新型コロナウイルス感染症のような、一過性のものとみられる要因で、開店休業状態に追い込まれている企業もあれば、エッセンシャルワークのように人手不足に悩む企業も出るなど、業種によって必要とされる人員に大きく隔たりが出てしまっています。
しかし、これはあくまで一過性のものです。この状況で、余剰人員となっている人を解雇したり、人手不足だからといって新たに新規雇用をしてしまうと、コロナ禍の後に肝心の労働力が不足してしまったり、逆に余剰人員が生じてしまい、企業にも従業員にも良いことはありません。
そこで、余剰人員となってしまっている人の雇用を守りつつ、人手不足が続く業界への労働力提供をするために編み出されたのが「従業員シェア」なのです。
前述の通り、従業員シェアはあくまで、稼働率が大幅に低下して、一時帰休や休業を余儀なくされている元の企業の所属のまま、人手不足の企業で働く仕組みです。
これは法的にいうと「出向」となります。
しかし、身分はもとの企業のまま、別の企業で働くということは、社会的な意義や、人材活用の点では良いように思えますが、様々な問題をはらんでいることも事実です。
なお、企業内の人事異動とは異なり、違う企業への人事異動である「出向」については、使用者が一方的に決められるものではありません。
グループ企業や関連会社があるような、規模が大きな企業であれば、就業規則や労働協約などに「出向」についての正式な規定があるかもしれませんが、もし規定がない場合は、人事異動のように発令することはできないのです。
この場合は、就業規則の改定からはじめる必要があります。
さらに、もし「出向」についての、就業規則や労働者の同意があったとしても、出向によって労働条件に大きな不利益変更がないようにしなければなりません。
つまり、元の企業の待遇がかなり良いと、従業員シェアで出向した先での給与が大きく下がってしまい、その分をどうするかなどの問題が生じてしまうのです。休業手当より損する可能性があるような状況であれば、企業は出向を命じることは難しいでしょう。
従業員シェアでもう1つ問題になるのは、雇用についての責任はどちらの企業になるのかということです。
身分はあくまで、元の企業ではありますが、給料の支払い義務、労災が起きた際の責任関係、社会保険の加入などの責任の所在や、具体的な事務処理など、企業間で決めなければならない様々な事があります。
また、いわゆる「三密」の業務や、新型コロナの感染リスクが高いような職種であれば、社員の負担は相当に重くなってしまい、雇用を守るための施策であるはずが、退職を推進しかねません。
企業としても、整理解雇ではなく従業員シェアで乗り切ろうとしているのは、新型コロナの収束後は従来通りの業務を再開したいからです。今解雇して、事業再開のときに新たに採用となると、人材育成にかけたコストが無駄になってしまいます。
こういった様々な問題が「従業員シェア」といっても結局は同じ業種・企業の店舗同士や会社同士で完結し、広がらない要因ともなっているのです。
現段階での「従業員シェア」は、企業の社会貢献をアピールする狙いが大きく前面に出されているところもあり、ボランティア的な取り組みを行うことで、企業のイメージアップを図るという目的もあります。
しかし、現在進行形の問題として、新型コロナだけでなく、これから少子高齢化も進む中で、労働力の活用というのは一部の企業だけでなく全業種で必要になってきます。
今後、今回の新型コロナウイルスの流行のように予測不可能な出来事が起こらないとも限りません。実際に人手が余っている業種から人手不足の業種への労働力の配置転換をおこなうという試みは、これからの労働力の調整システムとして求められてくるのではないでしょうか。もちろん、従業員が出向した際の金銭的な配慮や、精神的負荷への配慮については忘れてはなりません。