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デリバティブ取引の会計処理と税務上の留意事項

税理士 井上幹康
デリバティブ取引の会計処理と税務上の留意事項

デリバティブ取引とは、先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類する取引をいいます。今回は、デリバティブ取引の原則的な会計処理方法である時価評価及びその時価の算定方法の概要について解説します。最後に、法人税法における取扱いにも触れ、留意事項をご紹介します。

金融商品会計基準におけるデリバティブ取引の原則的な会計処理(時価評価)

金融商品会計基準では、デリバティブ取引の原則的な会計処理ついて、以下の通り規定されています。

デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、原則として、当期の損益として処理する。

出典:金融商品会計基準25項

このように、デリバティブ取引に関しては、原則として、期末(貸借対照表日)において時価評価し、貸借対照表価額を時価として、帳簿価額と時価の差額は損益計算書に計上することとされています。

B/S計上額を時価とする理由については、「デリバティブ取引は、取引により生じる正味の債権又は債務の時価の変動により保有者が利益を得又は損失を被るものであり、投資者及び企業双方にとって意義を有する価値は当該正味の債権又は債務の時価に求められる」からとされています(金融商品会計基準88項)

また、時価評価差額をP/L計上する理由については、「デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務の時価の変動は、企業にとって財務活動の成果であると考えられる」からとされています(金融商品会計基準88項)

金融商品会計基準では、「原則として」と書かれていますが、これは例外として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いるヘッジ会計の適用要件を満たす場合には、デリバティブ取引であっても時価評価差額を損益計算書に計上しない方法(繰延ヘッジ)もあるためです。なお、ヘッジ会計についてはまた別の記事で触れていますので、本記事ではヘッジ会計の詳細は割愛させていただきます。

時価算定方法

上記の通り、原則としてデリバティブ取引は時価評価が求められますが、その時価はどのように算定するのかが問題となります。

この点、従前は、「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会HP)で以下の通り、上場デリバティブ取引と非上場デリバティブ取引に区分してそれぞれ時価算定方法が規定されていました。

【上場デリバティブ取引の時価算定方法】
・貸借対照表日における当該取引所の最終価格(終値又は終値がなければ気配値(公表された売り気配の最安値又は買い気配の最高値又はそれらがともに公表されている場合にはそれらの仲値))を用いて時価評価する。
・同日において最終価格がない場合には同日前直近における最終価格を用いる。また、委託手数料等取引に付随して発生する費用は時価に加味しない。

【非上場デリバティブ取引の時価算定方法】
・市場価格に準ずるものとして合理的に算定された価額が得られればその価額とする。
・合理的に算定された価額は、一般に、以下のいずれかの方法を用いて算定する。
(1) インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引等の随時決済・換金ができる取引システムでの気配値による方法(詳細略)
(2) 割引現在価値による方法(詳細略)
(3) オプション価格モデルによる方法(詳細略)
・時価は原則として自ら算定すべきであるが、取引相手の金融機関やブローカー等から入手した価格を自らの責任で使用することができる。

出典:最終改正(2019年7月4日)前の金融商品会計に関する実務指針101項、102項

上場デリバティブ取引の時価算定方法

ただし、企業会計基準委員会から2019年7月4日に「時価の算定に関する会計基準」がリリースされており、当該基準3項にて、金融商品会計基準における金融商品(デリバティブ取引に係る正味の債権・債務を含む)の時価に当該基準が適用されることとされました。

「時価の算定に関する会計基準」の適用時期は、以下の通りとされていますので、それ以降は「金融商品会計に関する実務指針」ではなく、当該基準が適用されることとなります。

【「時価の算定に関する会計基準」の適用時期】
強制適用:2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用:2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から

出典:時価算定に関する会計基準16項、17項

まとめ

デリバティブ取引の原則的な会計処理である時価評価及び時価の算定方法に関してその概要をご紹介しました。

デリバティブ取引の会計処理(原則として時価評価)は、金融商品会計基準に規定されていますので、会計基準の適用が強制されていない非上場の中小企業では別にデリバティブ取引について時価評価しなくても問題ないだろうと思う方もいるかもしれません。

しかし、法人税法においても、期末において未決済のデリバティブ取引がある場合には、決済したものとみなして算定した損益(みなし決済損益)を課税所得の計算上益金・損金に算入する旨の規定(法人税法第61条の5)があります。

法人税法の上記規定は、上場か非上場かに関わらず適用されますので、仮に会計上デリバティブ取引の時価評価を失念していても、法人税法の規定が適用されて、みなし決済損益(時価評価損益)がプラス(利益)の場合には、課税所得がその利益分増加し、思わぬ課税が発生するリスクがあります。

特に非上場の中小企業でデリバティブ取引を行っているところは会計上時価評価漏れがないか等、注意が必要でしょう。

この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:業務内容

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