ヘッジ対象の相場変動リスク等を回避するために、ヘッジ手段としてデリバティブ取引を用いるヘッジ取引のうち一定要件を満たすものがヘッジ会計の対象になります。
今回は会計基準におけるヘッジ会計の適用要件の概要、及び、法人税法における適用要件のうちよく問題となる帳簿記載要件について解説します。
ヘッジ会計の適用要件の前に、そもそもヘッジ会計とは何なのかについて簡単に触れておきたいと思います。
金融商品会計基準では、ヘッジ会計、及び、ヘッジ取引の意義について以下の通り規定されています。
すなわち、ヘッジ対象(資産・負債)の相場変動リスクを回避(ヘッジ)するため、又は、ヘッジ対象のキャッシュ・フロー変動リスクを回避(ヘッジ)するために、ヘッジ手段としてデリバティブ取引を用いるのがヘッジ取引ですが、すべてのヘッジ取引がヘッジ会計としての会計処理ができるわけではありません。
上記太線部分にあるようにヘッジ取引のうち一定の要件を満たしたものだけがヘッジ会計として会計処理されることになります。
では、ヘッジ取引がどのような要件を満たせばヘッジ会計の適用要件を満たすのか。すなわち、ヘッジ会計の適用要件については金融商品会計基準で以下の通り規定されています。
金融商品会計基準では(1)の要件を事前テスト、(2)の要件を事後テストと呼んでおり、どちらも満たして初めてヘッジ会計の適用要件を満たすこととなります。
このように2つの厳格な適用要件が規定されている趣旨としては、「企業の利益操作の防止等の観点から、ヘッジ取引時にはヘッジ取引が企業のリスク管理方針に基づくものであり、それ以降はヘッジの効果について定期的に確認しなければならないという具体的な要件を定めている」とされています(金融商品会計基準104項)。
(2)の事後テスト要件に関しては、ヘッジ対象の相場変動リスクやキャッシュ・フロー変動リスクをヘッジ手段であるデリバティブ取引を用いて有効に減少できているか、ヘッジの有効性を定期的に確認することが求められています。
以上、金融商品会計基準が定めるヘッジ会計の適用要件の概要をご紹介しましたが、法人税法でも会計基準に類似したヘッジ会計の適用要件が定められており、会計と足並みをそろえる形にはなっています。
本記事では、法人税法のヘッジ会計の適用要件の全部を詳細にご紹介はできませんが、中でも特に注意が必要となるのが以下の帳簿記載要件と呼ばれるものになります。
帳簿記載要件の趣旨は会計基準の趣旨と類似しており、法人の恣意性を排除という点に求められます。こうした趣旨から、帳簿書類記載要件として求められる記載は、帳簿のみから法令上定められた事項を明確に判別することができるものでなければならず、他の事情も加味して理解することができれば足りるといえるものではないのであって、その記載をする時期についても、関係規定に従い当該デリバティブ取引等を行った日においてこれをする必要があると解するのが相当であるとされています(TAINSコード:Z260-11570 H22.12.14東京地裁の裁判所判断部分より)。
この点、先に解説した会計基準における事前テスト要件(文書化)を満たせば、法人税法における帳簿記載要件についても同時に満たすのではないかと思いがちですがこれはそうとは言い切れません。
現に、会計監査でも問題視されなかったが、法人税法における帳簿記載要件を満たしていないとして争われた事例(TAINSコード:Z260-11570 H22.12.14東京地裁)もあり、この事例では最終的に最高裁までいきましたが納税者敗訴となっています。
金融商品会計基準におけるヘッジ会計の適用要件と法人税法における適用要件は類似した部分もありますが、完全に一致していないので会計と税務でそれぞれ適用要件を満たすかどうかの検討が必要となります。
中でも争点となりやすいのが今回解説した法人税法における帳簿記載要件になります。法人税法の帳簿記載要件は上記の通り、①帳簿のみ見ただけで所定の記載事項が明確に記載されていること、及び、②記載のタイミング(デリバティブ取引等を行った日に記載が必要であり、事後記載はNG)が特に厳格です。
会計監査をパスすれば法人税法の適用要件もすべてクリアしているだろうという思い込みは捨てていただき、特に法人税法の帳簿記載要件については要注意です。仮に法人税法の適用要件を満たしていないとなれば、未決済デリバティブ取引の時価評価の規定が適用され、思わぬ課税が発生することとなります。