株式を発行する際の手段の一つとして有利発行という手段があります。この有利発行については、他の増資とは異なり株主総会の特別決議が求められています。今回は、有利発行とはなにか、そして株主総会の特別決議が必要であることについて説明していきます。
有利発行とは、会社法上において、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合と定められています。(会社法199条3項)
ここでいう特に有利な金額については、公正な払込金額に比べて特に低い金額と一般的に解釈されています。公開会社であれば株式には市場価格があるのが一般的です。その場合において、日本証券業協会のルールとして第三者割当増資の取扱いに関する指針が公表されており、それによると株式発行にかかる取締役会決議の直前の日の価額に0.9を乗じた額以上の価額であることが公正な払込価額であるとされています。
一方で非公開会社に関しては、市場の価格がないのが一般的です。そのため、株式価格を算定する必要があります。具体的な算定方法の例としては、配当還元方式、収益還元方式、類似業種比準方式、純資産価額方式といった算定方法があり、これらの算定方式を基に算定していきます。
以上より、公開会社であれば取締役会決議の直前の日の価額に90%を乗じた価格、非公開会社であれば算定した株式価格よりも低い価格である場合には、会社法上でいう「特に有利な金額」となりますので、有利発行に該当することとなります。
有利発行は、上記でも説明しましたが、発行されている株式の時価よりも低い価格で第三者に株式を発行することです。そのため、既存株主に株式を取得する権利を付与する株式割当増資においては実行されません。有利発行の対象となる発行形態は第三者に株式を発行する、増資や第三者割当増資となります。
ここでは、有利発行を実際に行うことを検討する際に確認しておかなければならない会社法の決議方法について解説していきます。株式発行を行う際には、募集事項の決定を行う必要があります。これは基本的には株主総会の決議事項となります。(会社法199条)
これは、株式を発行することは既存株主に影響を及ぼすためであり、慎重に決定すべき重要な事項であるためです。なお、公開会社であれば取締役会の決議事項として行うことも認められています。(会社法201条1項、199条2項)
しかしながら、有利発行を行う場合には、募集事項の決定においては株主総会の特別決議が必要とされています。(会社法199条2項)、309条2項5号)
特別決議とは通常の株主総会における普通決議よりも厳しい要件となっているため、株主にとって影響のある事項を決議する場合には会社法において特別決議に当たります。
有利発行の場合には、通常の株式の発行と比較して既存株主に与える影響が大きいことから、より要件の厳しい株主総会の特別決議事項とされています。
そのため、有利発行を行う際には通常の株式の発行と決議要件が異なる点について留意してください。
ここでは有利発行の留意点と特別決議を実施しない場合のリスクについて解説していきます。有利発行は、第三者に対して発行株式の時価価格よりも低い価格で株式を発行します。留意点として以下2つが挙げられます。
①株主が増えることによる株式に対する価値が減少してしまう点(これを一般的に希薄化効果といいます)
②既存株主よりも低い価格で株主となることができるため、既存株主の利益を損なう点
1つ目は、株主が増加するため一人当たりの株主に対する利益が減少してしまうので、既存株主にとっては嬉しくありません。
2つ目は、既存株主が保有している株式よりも低い価格で新たに株主になる可能性があることから、既存株主にとって保有している価格と有利発行による価格の差額分だけ、損しているといえますし、そういった場合にも既存株主にとっては不満が出ることでしょう。
そのため、有利発行を実行するためには既存株主に有利発行を実行する必要性について理解してもらうために説明責任があると考えられます。
もし特別決議を行わずに有利発行を行った場合には、既存株主の方針を無視して実施したこととなりますので、既存株主の反発を受けることもあり、株式発行の差し止めを既存株主に請求されることも可能性も考えられます。くれぐれも有利発行を実行する場合には慎重に進めることをお勧めします。
有利発行は、既存株主にとって不利益を与える可能性が高いものですので、既存株主の保護の観点からも実行するか検討する際には慎重に検討することをお勧めします。また、有利発行は通常の株主総会の決議事項とは異なりますのでその点も併せて留意してください。