政府の推進する「働き方改革」の具体策の1つが「多様な正社員制度」の拡充です。勤務地や職種を限定した正社員などが該当し、制度の拡充により多様な人材に活躍の場を与えるとともに雇用形態の異なる労働者間の均衡のとれた待遇の確保を目指します。
短時間正社員制度も「多様な正社員制度」の1つで、制度普及に向けて助成金も準備されました。今回の記事では、短時間正社員制度の概要やメリット・デメリット、制度導入企業に対する助成金について解説します。
短時間正社員制度とは、フルタイムで働けない人も正社員として適正な評価と公正な待遇を確保しながら活躍してもらうための仕組みです。
短時間正社員の対象者は下記の労働者です。
・育児・介護と仕事を両立したい社員
・決まった日時だけ働きたい人
・定年後も働き続けたい高齢者
・キャリアアップをめざすパートタイム労働者 など
短時間正社員は、下記条件を満たし、フルタイム正社員より所定労働時間が短い正規社員のことです。
・期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結
・時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等
また、社会保険(健康保険と厚生年金)もフルタイム正社員と同様に適用されます。
厚生労働省の 「令和元年度雇用均等基本調査」の結果概要によれば、「短時間正社員制
度」を導入する事業所は調査対象の16.7%でした。
また、制度を導入している企業での制度利用状況は下記の通り女性が大半を占めています。
短時間正社員のメリットとデメリットは下記の通りです。
短時間正社員のメリットは下記の通りです。
・子育て期の社員の離職防止・定着
・親等の介護を行う社員のの離職防止・定着
・心身の健康不全による休職者のスムーズな職場復帰
・フルタイムで働けない(働かない)が、意欲・能力の高い人材の獲得
・60歳以上の高齢者のモチベーションを維持・向上
・意欲・能力の高いパートタイム労働者のモチベーション向上 など
フルタイムで働けなくなった人の離職防止・定着を図るだけでなく、新たな人材の獲得、従業員のモチベーションアップなどのメリットも期待できます。
短時間正社員のデメリットは下記の通りです。
・制度や職場環境づくり、多様な就業形態への対応など、企業の事務負担が増加
・短時間正社員増加による従業員数増と待遇アップで、企業の経済的負担が増加
・勤務時間が短いことによる社外対応への支障
・待遇・評価の難しさ(責任あるポストに就けづらい、評価が低くなる)
企業の事務負担や金銭的な負担増加だけでなく、従業員にとっても待遇・評価の面でデメリットが生じる可能性があります。
前述の短時間正社員のメリットを活かし、デメリットを最小限に抑えるためには、導入にあたっては周到な準備が必要です。導入手順とポイントを解説します。
引用:厚生労働省|「短時間正社員制度」導入支援マニュアルP23
短時間正社員制度導入の目的は会社の人材活用政策がベースになるでしょうが、「自社の現状や将来の課題」と「従業員のニーズ」を十分に把握したうえで検討する必要があります。
短時間正社員に期待する役割は、対象者ごとに検討が必要です。
フルタイム正社員だった人が、出産や家族の介護、体調不良による休業復帰などの理由で短時間正社員になる場合、フルタイムへの復帰を念頭に役割を設定する必要があるでしょう。また、高年齢者を短時間正社員として新たに採用する場合は、高年齢者の経験やノウハウを活かせるよう適切な役割を課すことで人材を有効活用できます。
短時間正社員の労働条件は、勤務時間に関する項目以外はフルタイム正社員と同レベルに設定することがポイントです。
たとえば、短時間正社員の給与は、同じ職種・職位のフルタイム正社員への支給額を、労働時間に比例して減額します。勤務時間が短い分、給与は少なくなりますが時給に換算すれば同レベルになります。
将来、フルタイム正社員へ復帰(転換)するコースを設けることも人材の有効活用につながります。
出産などのため一時的にフルタイムができない場合は、所定期間経過後にフルタイムに復帰するのが一般的です。また、新規に採用した短時間正社員もフルタイムに転換できる制度があればモチベーションアップにつながります。
目的を明確にし制度を整えるのと同じくらい、制度導入の周知徹底は重要です。
いくら立派な制度ができても、利用者や管理者、周囲の社員すべてが制度の目的、内容、具体的な対応方法を理解しなければ、制度がうまく機能しません。マニュアル作成、研修など施策浸透策が必要です。
短時間正社員制度を導入した企業が受給可能な助成金は、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」です。
「正社員化コース」は、6か月以上雇用している有期契約労働者(パートタイマーなど)を、正規雇用労働者や短時間正社員に転換し賃金を5%以上増額させた場合に支給されます。対象事業主の要件は下記の通りです。
・雇用保険適用事業所の事業主
・キャリアアップ管理者を置いている事業主
・対象労働者に対しキャリアアップ計画を作成し管轄労働局長の認定を受けた事業主
など
「正社員化コース」の支給金額(中小企業の場合)は下記の通りです。さらに、所定の生産性向上が認められた場合、下記表の()内の金額に増額されます。
ただし、1年度1事業所あたりの支給申請上限人数は20人までです。
短時間正社員制度とは、フルタイムで働けない人も正社員として適正な評価と公正な待遇を確保しながら活躍してもらうための仕組みです。
フルタイムで働けなくなった人の離職防止・定着を図るだけでなく、新たな人材の獲得、従業員のモチベーションアップなどのメリットも期待できます。
ただし、制度導入によるデメリットを最小限に抑えるため周到な事前準備が必要です。