割引現在価値という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一昔前は会計では使うことが無かったのですが、ここ10年くらいで色々な場面で使用されるようになりました。今回は、割引現在価値とは?から、会計のどのような部分で使われるかを解説します。
まず、割引現在価値について説明します。
割引現在価値というのは、将来受け取る又は支払うべき金額を現在の価値に引き直すことを言います。
例えば、10年後に100万円受け取るのと、今100万円受け取るのとどちらが良いですか?と聞かれたら、皆さん迷わず「今100万円受け取る」と答えるでしょう。なぜなら、今100万円手元にあれば、預金したり投資信託を買ったりして10年後にはもっと増やすことができると考えているからです。
ですので、例えば10年後に100万円もらえるというのは、例えば今90万円もらえるのと同じことを意味するのです。この、100万円を90万円に引き直したものを、割引現在価値と言います。
##会計で割引現在価値を使う場面は?
会計で割引現在価値を使う場面は様々ですが、割と最近の会計基準に使われることが多いです。主な会計処理は次の通りです。
・退職給付引当金
・減損会計
・金融商品会計
・資産除去債務
これらの会計基準は主に2000年以降適用されているものがほとんどで、昔ながらの会計処理には割引現在価値はほとんど出てこないと言っても良いでしょう。
これ以外にも使う場面はありますが、ひとまずそれぞれの会計処理での割引現在価値を使う場面を紹介します。
退職給付引当金は、従業員に対する将来の退職金に備えて今のうちに引当金として計上しよう、という会計処理です。
退職給付引当金は、将来の従業員への退職金を債務として、現在積み立てられている退職金の財源を資産として、その差額を計上します。
このうち、将来の従業員への退職金については、あくまでも将来のものなので、割引現在価値に引き直す必要があります。
例えば、20年後に従業員に合計1億円の退職金を支払うとします。この1億円を現在価値に引き直すのですが、例えば割引率を1%とすると、次のような計算式となります。
1億円÷1.01÷1.01÷・・・(これを20回繰り返す)
こうやって1億円を1.01で20回割ることによって割引現在価値が出ます。
ちなみに、この割引率には国債の利率を使うことが多いです。
とはいえ、この退職給付引当金に使われる現在価値の計算は非常に複雑で、年金数理人という専門家に外部委託して計算してもらうことがほとんどです。ですので、皆さんが実際に上の計算をすることはあまりないと思いますが、エッセンスだけは覚えておくと良いでしょう。
減損会計でも割引現在価値を使うことがあります。
減損会計は、例えば店舗が利益を出せずに赤字を計上し続けている場合に、その固定資産の価値が無いとして利用できる価値まで簿価を落とす会計処理です。その利用できる価値というものを算定するのに割引現在価値を用います。
例えば、その店舗の簿価が1億円だったとして、将来獲得できる収益が8000万円だったとします。将来獲得できる収益は、何年後にもなりますので、先ほどのような現在の価値に引き直すことも重要ですが、それに加えて8000万円の収益を獲得できると思っていたのに実際は5000万円しか獲得できないリスクもあります。
ですので、計算方法は退職給付のものと同じですが、使う割引率は国債の割引率に、事業のリスクを足し合わせたものを使うこととなります。
資産除去債務という会計処理があります。
これは、企業が借りている土地の上に建物を建てた場合などで、撤退する時に更地にしなければならない等、将来の撤去費用をあらかじめ見積もる会計処理です。
資産除去債務については、将来の費用となるので今までの流れと同じように、割引現在価値に引き直す必要があります。利率については、国債を使うことが多いので退職給付引当金と似ていますが、いつ退去するかが不明であるため、あらかじめ退去するだろう年数を見積もっておく必要があります。
金融商品会計においては、様々な場面で割引現在価値が用いられますが、代表的なのは金融商品の時価の注記でしょう。
例えば、長期借入金の時価を注記することがあります。例えば、元本1億円、固定金利2%の借入があったとします。これを今同じ条件で借りようとすると金利が1%になると仮定すると、元々の借入は損をしていることになります。
そこで、その損失分を時価評価するために、元本1億円と将来支払う金利2%の合計を割引現在価値に引き直して時価を算定することとなります。
ただし、この注記については主に上場会社や会計監査人のいる大規模な会社のみ記載されるので、まずは自分の会社がこの注記が必要かどうかによって覚えるべきかどうか考えましょう。
会計上、割引現在価値は様々な場面で用いられます。2000年以降に出てきた基準ではよく使われますが、それぞれ使う割引率、計算方法が若干異なるので、使用する割引率については事前に監査人とよく相談して計算をするとよいでしょう。
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