企業が自己株式を期中に取得したり処分したりした場合にはその都度適切な会計処理(仕訳)が必要になりますが、最終的に期末に作成する各種財務諸表においてもその表示方法であったり、一定の注記事項に留意する必要があります。今回は各種財務諸表における自己株式の表示と注記事項の取扱いをご紹介します。
貸借対照表(BS)における自己株式の表示方法については、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示することとされています(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準8)。
基準が採用している一括控除する方法以外に、株主資本の構成要素に配分して直接減額する方法も考えられますが、自己株式の保有は処分又は消却までの暫定的な状態であると考え、基準では一括控除する方法が採用されています。
現行の企業会計上、自己株式の取引(取得、処分、消却)は、損益取引ではなく資本取引とされていますので、基本的に損益計算書に自己株式が表示されることはありません(例えば、自己株式処分差額は資本剰余金に計上され、費用又は収益として計上されることはありません)。
ですが、自己株式の取得、処分、消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上することとされています(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準14)。
基準は、これら付随費用は株主との間の資本取引ではない点に着目し、会社の業績に関係する項目であるとの見方を採用しています。
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部のうち、主に株主資本の各項目について一会計期間における変動事由を報告するための財務諸表です。
株主資本等変動計算書における自己株式の表示としては、変動事由の項目として「自己株式の取得」、「自己株式の処分」、「自己株式の消却」を設けて、各変動事由に区分してその金額を表示することとされています(株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針
6)。
キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュ・フローの収支状況を①営業活動によるキャッシュ・フロー、②投資活動によるキャッシュ・フロー、及び③財務活動によるキャッシュ・フローに3区分して表示する財務諸表です。
自己株式の取引でキャッシュが動くものといえば、以下の2つが考えられますが、キャッシュ・フロー計算書上では、ともに財務活動によるキャッシュ・フローに表示することとされています(連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針9)
1.自己株式の取得:キャッシュ・アウトフロー(マイナスのキャッシュ・フロー)
2.自己株式の処分:キャッシュ・インフロー(プラスのキャッシュ・フロー)
自己株式に関する注記事項としては、以下の事項を株主資本等変動計算書に注記することが求められています(株主資本等変動計算書に関する会計基準9、自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準22、自己株式及び準備金の額の減少等に関する適用指針15)。
1.自己株式の種類及び株式数に関する事項
2.決議後消却手続を完了していない自己株式の帳簿価額、種類及び株式数(注)
(注)取締役会等による会社の意思決定によって自己株式を消却する場合に、決議後消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にあり、当該自己株式の帳簿価額又は株式数に重要性があるとき
3.無償取得した自己株式の数に重要性がある場合には、その旨及び株式の数
財務諸表においては、投資家の的確な投資判断に資する情報提供を目的として、1株当たり当期純利益や1株株当たり純資産額が開示されます。
1株当たり当期純利益の計算方法は以下の通りです(1株当たり当期純利益に関する会計基準12)。
また、1株当たり純資産額の算式は以下の通りです(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針35)。
どちらの算式も詳細は割愛しますが、分母の株数の計算において自己株式数を控除することとされていますので、自己株式を保有する場合には1株当たり情報の開示でも注意が必要です。
自己株式の取引は、一般的にはそう頻繁に行われるものではないだけに、いざ自己株式の取引が行われた際の会計処理誤りや今回ご紹介したような各種財務諸表における自己株式の表示ミスや注記漏れ等が起きやすいです。
ですので、上場企業の経理担当者は、自己株式の取引が行われた際に会計処理に注意するだけでなく、期末に作成する財務諸表の表示や注記上の留意点も先回りして調べたりしておくとよいでしょう。なお、今回は触れていませんが、あわせて自己株式の取引に関する法人税法上の取扱いも先回りして調べておくことで、法人税の確定申告書の作成をスムーズに進めることができるでしょう。