投資家が、企業の決算書から必要な科目の金額をピックアップして比率にし、企業の収益性、安全性、効率性、生産性、成長性等を分析することを財務比率分析といいます。有形固定資産回転率は、企業の効率性の分析に用いられる指標の1つです。今回は有形固定資産回転率の意義、求め方及び分析方法をご紹介します。
はじめに少し解説済みですが、有形固定資産回転率とは財務比率分析のうち企業の効率性を分析するための比率の1つです。
ここで、企業の効率性とはどういうことか疑問を持たれる方もいるかと思いますので、補足します。企業の効率性とは、企業が保有する資産をどれだけ効率的に使用・運用して売上や利益を上げることができたかということを意味します。
この企業の効率性を分析する比率としては、有形固定資産回転率の他に、総資産回転率、棚卸資産回転率等もあります。
有形固定資産回転率は以下の計算式で簡単に求めることができます。
分子の売上高は、当期の損益計算書(PL)から持ってきます。
分母の有形固定資産の期首と期末の平均値は、前期末の貸借対照表(BS)と当期末の貸借対照表(BS)の有形固定資産の金額を合計して2で割ることで求められます。
上記の通り、計算式自体は簡単なのですが、分母の有形固定資産の範囲に注意する必要があります。
貸借対照表(BS)の固定資産の部は、大きく①有形固定資産、②無形固定資産及び③投資その他の資産に区分されていますので、有形固定資産回転率を求めるには、①有形固定資産のみを集計して分母の計算をする必要があります。
有形固定資産以外の無形固定資産を加えたりしてしまうと、それにより計算された比率はもはや有形固定資産回転率ではなくなってしまいます。
有形固定資産回転率は、企業が、保有する有形固定資産を使用してどれだけ効率的に売上を上げたのかを示す比率です。
よって、一般的には有形固定資産回転率が高い方がより効率的に有形固定資産を使用して売上を上げられていることを意味しますが、その分析方法は大きく2つあります。
1つ目は、有形固定資産回転率の同業他社比較です。
有形固定資産回転率は、業種ごとに大まかな傾向を見出すことができますので、同業他社の有形固定資産回転率の平均値と自社の比率を比較してみるのが有効です。
同業他社の有形固定資産回転率の平均値の情報は、例えば、以下のようなサイトが参考になります。
参考;「財政金融統計月報第811号 法人企業統計年報特集(平成30年度)」|財務総合政策研究所
この同業他社比較については、同じ業種というマクロ的な視点で客観的に分析することができます。
2つ目は、自社時系列比較です。
自社の有形固定資産回転率を過年度から当期まで算出したものを時系列で並べて比較します。
自社の比率のみを使用して比較分析するので、よりミクロ的な視点で個別具体的な分析をすることができます。
同業他社比較や自社時系列比較を行った結果、同業他社平均に比べてその企業の有形固定資産回転率が低い場合、又は、その企業の過年度よりも当期の有形固定資産回転率が低い場合、その原因を分析する必要があります。
例えば、当期に大きな設備投資を行ったことで一時的に当期の有形固定資産回転率が低くなっているような場合であればよいですが、そうでない場合には、業績不振による売上高の減少、売上に貢献していない遊休資産や本業と関係ない有形固定資産(社長が会社を通じて購入しているプライベート資産等)の存在等が疑われます。
遊休資産等でも持っているだけで固定資産税や償却資産税等のコストが生じています。よって、こうした資産がある場合には、企業経営の効率性の観点から、できるだけ早めに売却・処分する等の措置を取る必要があるでしょう。
また、中小企業のM&Aの場面では本業と関係ない資産の売却・処分が前提となり買手による買収価格の決定や買収実行可否等の意思決定が行われる場合が多いです。
投資家(M&Aの買手も含む)からすれば、投資先の企業が本業と関係ない資産を持つことは望ましいことではないのは当然ですね。
有形固定資産回転率に限りませんが、財務比率分析を行うには会計・税務のルールに基づき正しく作成された決算書の存在が不可欠です。いくらいろんな種類の比率を算出して分析しても、元となる決算書の数値が事実と異なるものだとその比率分析の結果は何の役にも立ちません。
例えば、売上高の架空計上といった粉飾決算が行われている場合や利益を出したいがために減価償却費を計上しないということが行われている場合には、有形固定資産回転率も本来の比率とはかけ離れてしまいます。
逆に、財務比率分析を行うことで粉飾決算等の異常を発見することもできますがそれはあくまでも副産物であり、財務比率分析の本来の目的は、投資家等の利害関係者が企業の収益性、安全性、効率性、生産性、成長性等を分析することを通じて企業価値や企業の経営成績を評価することだと思います。
投資家等の利害関係者の正しい投資意思決定を促すためにも、企業は粉飾等のない正しい決算書を作成することが求められるでしょう。
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