経済ニュースなどでよく見る会計用語「のれん」。M&Aにおいては、目に見えない資産である「のれん」もあわせて売買することになります。今回は、「のれん」とは具体的に何か、どのように決まるのかについて解説します。
会計上で「のれん」というと「会社や事業が持つ無形の財産」を指します。会社のブランドのようなものです。
例えば、原材料と作り方が一緒だとしても、有名ブランドの商品と無名ブランドの商品では価格に大きな違いが生じます。
この差額が、いわゆる「のれん」ということになるのです。
通常の企業では「のれん」が生じることはありません。というのも、その企業の無形財産を決算ごとに算出するというのは基本的に不可能だからです。
しかし、のれんをどうしても算出しないといけないときがあります。
その企業がM&Aによって買収されたり合併されるときです。企業を買収するにあたっては、企業価値というものを算定しなくてはなりません。
M&Aにおいて、買収される企業が持つ資産は、土地や建物の他に、その企業が持つ事業があります。
事業とは、土地や建物といった目に見える財産だけではなく、その企業組織や今まで事業をおこなってきたなかで培ってきたノウハウ、独自の物流や仕入れラインなど、様々な無形資産を含むものです。これらは財務諸表には計上されませんので、買収に当たって企業価値を見極めるために調査して初めて数値化されるものとなります。
例えば、時価などで価値が算出できる不動産が1億円の企業があったとして、その企業が営む事業が年に1億円の利益を生み出しているとします。
仮に、この企業を10億円で購入したとすると、差額の9億円が「のれん」と言うことになります。
出典:M&Aにおける巨額な「のれん」の本質 板津直孝|野村資本市場研究所
つまり、のれんは下記の式で求めることができます。
のれん= 買収金額 - 被買収企業の資産価値
上記のケースでは、この企業がおこなっている事業やブランドについては、9億円の価値があると見なされたわけです。
もし、買収される企業に負債がある場合は、負債金額を差し引いてのれんを求めます。
次の項でもう少し細分化してみましょう。
のれんを構成しているものは大きく3つに分けられます。
被買収企業がおこなっていた既存事業を、買収後も継続することによって得ることができる利益です。
被買収企業と買収企業が合併することで新たに始める事業、または発展させる事業によって得られるコスト削減や収益増加などの相乗効果
M&Aをおこなう際には、被買収企業の価値を細かく調査しますが、それでも漏れが生じます。
例えば、企業を取得時点では評価されていなかった特許などが、後日大きな利益を生み出したりなどです。結果的には暖簾に含まれることになります。
のれん代の決まる仕組みというのは以上の通りなのですが、どうやってその価値を決めているのでしょうか。
実は、のれん代の決め方には公式や相場などは存在しません。のれん代を決めるのは「無形資産」なので、何に価値を置くかはその企業によって異なるからです。
売り上げが○億円あれば、発行済み株価がいくらなら、のれん代もいくらというように決まっていれば簡単なのですが、結局は、買収先の企業が買収時に何に価値を見いだすかによって決まります。
そのため、企業価値を算定する方法はいろいろ考え出されてきました。
企業価値の算出については、本コラムでも以下のように取り上げています。
のれんに正解はないため、その価格を決める買い手がリスクを負って折り合いをつけることになります。
M&Aの後に、買収された企業が、もくろみ通りに「のれん」を上回る利益をあげてくれるのであれば、のれんも「資産」となりますが、逆に、収益に貢献しなければ、一転してのれんは「不良資産」となってしまいます。
「のれん」を高く見積もりすぎると、その買収で企業自体を危うくさせてしまうことにもなりかねません。
例えば、東芝が買収した原発メーカー・ウエスチングハウス(WH)や、ソフトバンクによるスプリントの買収などは、大型のM&A失敗事例でよく知られています。
M&Aについては、被買収企業はできるだけ高く買い取ってもらおうとしますので、企業価値をなるべく大きくみせようとしますが、事前にしっかりと調査をおこなうことが非常に重要なのです。