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上場企業と非上場中小企業で違う?減損の兆候の把握とは

税理士 井上幹康
上場企業と非上場中小企業で違う?減損の兆候の把握とは

「固定資産の減損に係る会計基準」は上場企業であれば必ず適用しなければならない会計基準です。非上場の中小企業でも「中小会計指針」で減損処理について規定があります。今回は、減損会計の適用可否を判断するにあたりはじめに行う減損の兆候の把握について上場企業と非上場の中小企業との違いをご紹介します。

上場企業の減損の兆候の把握はどうするか

上場企業が減損会計を適用するにあたっては、「固定資産の減損に係る会計基準」で規定されている以下のフローに沿って順次検討していくことになります。

<上場企業における減損会計基準の適用フロー>

① 資産のグループピング
減損の兆候の把握(兆候がなければ減損処理は不要)
③ 減損損失を認識するかどうかの判定(帳簿価格<割引前将来CFの場合は減損処理不要)
④ 減損損失の測定
⑤ 減損損失を損益計算書の特別損失に計上

減損損失の兆候の把握は、資産のグループピングを行ったら一番はじめに行う重要な手続きになります。

減損損失の兆候を把握した結果、その兆候がないと判定された場合はその時点で減損処理不要となり、兆候があると判定された場合にのみ上記③のステップに進むことになります。

実務上は上記③以降の手続きが非常に手間のかかる部分ですので、はじめに減損の兆候の有無を把握し、兆候がある場合のみ③以降のステップに進むとすることで経理実務の負担軽減が図られています。

では、具体的にどのような場合に減損の兆候があるといえるのかが問題となりますが、「固定資産の減損に係る会計基準」では以下のような具体例が示されています。

<減損の兆候の具体例>

① 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
② 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること
③ 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること
④ 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと

「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」では、上記4つの減損の兆候の具体例についてさらに詳しく解説されていますので、気になる方は以下リンクをご確認ください。

参照:固定資産の減損に係る会計基準の適用指針|企業会計基準委員会

なお、上記4つの減損の兆候の具体例はあくまでも例示であり、これ以外の事象でも減損の兆候有と判定される場合もあり得ます。

上場企業と非上場中小企業で違う?減損の兆候の把握とは

非上場の中小企業の減損の兆候の把握はどうするか

上記までの解説は、「固定資産の減損に係る会計基準」の基づき上場企業が行う減損の兆候の把握の話になりますが、非上場の中小企業の減損の兆候の把握も同じように上記4つの減損の兆候の具体例等の有無を判定していくのでしょうか。

もちろん、非上場の中小企業でも上場企業と同じように「固定資産の減損に係る会計基準」が示す4つの減損の兆候の具体例等の有無を検討して減損の兆候の把握をしても問題ありません。

しかし、非上場の中小企業が上場企業と同じように「固定資産の減損に係る会計基準」を厳密に適用するのは経理レベルの観点からもかなりハードルが高いこともあり、「中小会計指針」36項で中小企業でも減損会計を適用しやすいように中小企業向けの減損会計の適用フローが規定されています。

<非上場の中小企業における減損会計の適用フロー>

 

減損損失の認識及びその額の算定に当たっては、減損会計基準の適用による技術的困難性等を勘案し、本指針では、資産の使用状況に大幅な変更があった場合に、減損の可能性について検討することとする。
 具体的には、固定資産としての機能を有していても次の①②のいずれかに該当し、かつ、時価が著しく下落している場合には減損損失を認識する。
将来使用の見込みが客観的にないこと(資産が相当期間遊休状態にあれば、通常、将来使用の見込みがないことと判断される。)
固定資産の用途を転用したが採算が見込めないこと
なお、固定資産の減損損失累計額は、減価償却累計額に準じて表示する。

そして、今回トピックとして取り上げている減損の兆候の把握については太字部分に記載されています。「固定資産の減損に係る会計基準」の4つの具体例と比べて具体例が2つと少なく、より把握しやすい表現でシンプルに規定されているのがわかるかと思います。

ただし、シンプルに規定されているとは言え、固定資産の使用状況が適切に把握・管理されていないと太字部分の具体例2つの把握・判定も困難でしょう。

中小企業の場合、固定資産台帳の作成も税理士事務所に丸投げであったり、自社で固定資産台帳を作成している場合でも固定資産を取得した時に固定資産台帳に登録してあとは減価償却費の計算をするのみであり、決算の都度、固定資産の実査を行い、その使用状況の変化をチェックしている会社は少ないでしょう。

したがって、非上場の中小企業が「中小会計指針」によって減損の兆候を把握するには、まずは自社で固定資産台帳作成・管理を行い、決算の都度、固定資産の実査を行い、その使用状況の変化をチェックする仕組み作りから始める必要があるでしょう。

この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:コラム・学び

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