「固定資産の減損に係る会計基準」は上場企業であれば必ず適用しなければならない会計基準です。非上場の中小企業でも「中小会計指針」で減損処理について規定があります。今回は、減損会計の適用可否を判断するにあたりはじめに行う減損の兆候の把握について上場企業と非上場の中小企業との違いをご紹介します。
上場企業が減損会計を適用するにあたっては、「固定資産の減損に係る会計基準」で規定されている以下のフローに沿って順次検討していくことになります。
<上場企業における減損会計基準の適用フロー>
減損損失の兆候の把握は、資産のグループピングを行ったら一番はじめに行う重要な手続きになります。
減損損失の兆候を把握した結果、その兆候がないと判定された場合はその時点で減損処理不要となり、兆候があると判定された場合にのみ上記③のステップに進むことになります。
実務上は上記③以降の手続きが非常に手間のかかる部分ですので、はじめに減損の兆候の有無を把握し、兆候がある場合のみ③以降のステップに進むとすることで経理実務の負担軽減が図られています。
では、具体的にどのような場合に減損の兆候があるといえるのかが問題となりますが、「固定資産の減損に係る会計基準」では以下のような具体例が示されています。
<減損の兆候の具体例>
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」では、上記4つの減損の兆候の具体例についてさらに詳しく解説されていますので、気になる方は以下リンクをご確認ください。
参照:固定資産の減損に係る会計基準の適用指針|企業会計基準委員会
なお、上記4つの減損の兆候の具体例はあくまでも例示であり、これ以外の事象でも減損の兆候有と判定される場合もあり得ます。
上記までの解説は、「固定資産の減損に係る会計基準」の基づき上場企業が行う減損の兆候の把握の話になりますが、非上場の中小企業の減損の兆候の把握も同じように上記4つの減損の兆候の具体例等の有無を判定していくのでしょうか。
もちろん、非上場の中小企業でも上場企業と同じように「固定資産の減損に係る会計基準」が示す4つの減損の兆候の具体例等の有無を検討して減損の兆候の把握をしても問題ありません。
しかし、非上場の中小企業が上場企業と同じように「固定資産の減損に係る会計基準」を厳密に適用するのは経理レベルの観点からもかなりハードルが高いこともあり、「中小会計指針」36項で中小企業でも減損会計を適用しやすいように中小企業向けの減損会計の適用フローが規定されています。
<非上場の中小企業における減損会計の適用フロー>
そして、今回トピックとして取り上げている減損の兆候の把握については太字部分に記載されています。「固定資産の減損に係る会計基準」の4つの具体例と比べて具体例が2つと少なく、より把握しやすい表現でシンプルに規定されているのがわかるかと思います。
ただし、シンプルに規定されているとは言え、固定資産の使用状況が適切に把握・管理されていないと太字部分の具体例2つの把握・判定も困難でしょう。
中小企業の場合、固定資産台帳の作成も税理士事務所に丸投げであったり、自社で固定資産台帳を作成している場合でも固定資産を取得した時に固定資産台帳に登録してあとは減価償却費の計算をするのみであり、決算の都度、固定資産の実査を行い、その使用状況の変化をチェックしている会社は少ないでしょう。
したがって、非上場の中小企業が「中小会計指針」によって減損の兆候を把握するには、まずは自社で固定資産台帳作成・管理を行い、決算の都度、固定資産の実査を行い、その使用状況の変化をチェックする仕組み作りから始める必要があるでしょう。