IPO準備会社での経理は上場会社並みの決算を行わなければならないだけではなく、監査対応も行わなければなりません。今回はそんな監査対応の流れや監査法人を選ぶ際のポイント、2023年から法的拘束力を持った上場企業の監査における新しいルールについて解説します。
まず、監査対応と一口に言っても、上場準備会社にはどのような監査が存在するのでしょうか。
最も重要な監査対応としては、監査法人の監査対応があります。上場準備会社は2年間分の監査法人からの監査証明を入手しなければならず、この対応ができないと上場することができません。
監査法人とは、上場をする2年以上前から監査契約を結ぶ必要がありますので、最低2年間はこの監査法人対応が必要となります。
また、監査対応という意味では監査役監査の対応をする必要があります。
上場準備会社でなければ監査役が設置されていない会社は多いですが、上場準備会社となると、監査役若しくは監査等委員取締役が必要となってきます。
監査役の監査対象は経理に限ったことではないので、全ての対応を経理がするわけではありませんが、監査役の監査がどのようなものかは経理がよく知っておく必要があります。
この他、内部監査室や経営企画室等が行う、内部監査の監査対応もあります。
監査役監査は経営者に対する監査が主である反面、内部監査では各部署の業務そのものを監査します。
よって、監査役監査よりも内部監査対応の方がより経理には関係してくると言えるでしょう。
先ほどご紹介した中でもやはり監査対応のメインは監査法人の監査対応となります。そこで、監査法人の監査対応の流れを解説します。
まず、監査法人との監査の日程調整が必要となります。3月決算を例にすると、大体次のような日程となります。
①9月前後
この頃から監査が始まります。これは、監査法人が一年間の監査をどのように行っていくかの計画を立てる期間であり、また4月から8月までの帳簿を見る期間となります。
②10月から3月末まで
期末までは期中の帳簿の内容チェックと、内部統制のチェックを行います。
内部統制のチェックとは、例えば人件費を集計、支払、記帳するまでの流れを確認することや、実際の業務が適正に行われているかどうかを確認することを言います。
③3月末から4月頭まで
3月末は会社の在庫を棚卸する時期となりますが、これに監査法人が立ち会うこととなります。また、監査法人は4月頭に現金や有価物が実際にあるかどうかチェックをしますので、この日程についても調整する必要があります。
④4月中旬から6月まで
この時期はいわゆる期末監査となります。最も多くの書類を求められる時期となりますので、今までご紹介したものよりも、多くの日にちと時間を確保しておく必要があります。
何日間監査を行うかは会社の規模や業種、監査法人の人員数によって異なります。
では、いざ監査対応をするとなった時、どのような資料を監査法人に提供するか悩むかもしれません。
この点は、監査法人からどのような資料が欲しいかを前もって連絡してくれるので、それに沿って準備しておけば大丈夫です。
ただし、当日監査を進めていく中で、追加で資料の依頼が来ることも多いので、その時は慌てずに探して提出しましょう。
中には、監査法人が求める資料が会社にない場合があります。そんな時、言われてから資料を作るのはとても非効率ですので、次のように対処しましょう。
最も大事なことは、どのようなことが知りたくて資料を要求しているのかを聞くことです。
例えば、「得意先に提出した請求書の控えをください」と言われてたまたまなかったとして、欲しい理由を聞くと「先方へいくらで売ったかが知りたい」という返答があった場合、別途契約書や領収証があればそれで問題ない場合もあるからです。
「〇〇という帳簿をください」と言われ、その帳簿が無かった場合があります。その場合は「前回どのような資料を出しましたか」と聞くと、コピーを見せてくれる場合があります。
単純に資料名が間違っていただけのこともありますし、似たような資料があれば、「これでどうですか」と聞けば意外と問題ない場合もあります。
単純に無いと諦めずに、どのような資料を言っているのかを確認しましょう。
あるはずの帳簿や資料がない場合で、探せばある場合は「後日お渡しでもよろしいでしょうか」とはっきり言いましょう。
監査の期日ギリギリでは困ってしまいますが、日程に余裕がある場合は待ってくれることがほとんどです。
その代わり、約束した期日には何らかの返答をすることは大事ですのでご注意ください。
ではここからは監査法人に監査対応を依頼する場合の選ぶポイントを紹介していきます。
上場準備においてどの監査法人を選ぶかは非常に大事になってきますので、参考にしていただけますと幸いです。
監査法人は規模感によってメリットやデメリットが変わります。それぞれの特徴がありますので、ご紹介していきます。会社の状況に合わせて最もマッチした規模感の監査法人を選んでいきましょう。
大手監査法人は「上場会社を概ね100社以上監査し、かつ常勤の監査実施者が1,000名以上の監査法人」と定義されています(公認会計士・監査審査会)。
この定義を満たすのは4法人のみで、まとめてBig4と呼ばれています。次の4法人がBig4に該当します。
大手監査法人のメリットは、大規模なチームを組み、専門部署による高度な業務にも対応可能な点です。国際的な4大会計事務所とそれぞれが提携しているため、グローバルな企業にも強いです。一方で費用は高めなのがデメリットです。高度な業務を行う企業や海外展開を目指す企業には適しているといえます。
準大手監査法人は「大手監査法人以外で、比較的多数の上場会社を被監査会社としている監査法人」と定義されています(公認会計士・監査審査会)。
次の5法人が準大手に該当します。
準大手監査法人も大手に匹敵する専門性を持っていますが、チームではなく会計士が個人で企業担当をするのが特徴です。チームだと随時必要になる進捗共有などが省けるので、大手に比べてスピード感があるのが特徴です。
大手監査法人および準大手監査法人のどちらにも該当しない監査法人や監査事務所が該当します。費用やスピード感は最も優れているものの、専門性が高い業務に対応できるかや実績があるかなども踏まえて選択する必要があります。場合によっては証券会社から監査法人の交代を求められることもあるので、注意しましょう。
監査法人の実績としてみるべきポイントは3つです。
特にこれまでのIPO実績については業種や事業内容、規模感、フェーズなどにおいて自社と似た企業をサポートしたことがあるかをチェックしておきましょう。
上場企業は財務諸表の監査が義務になっています。その監査を受ける監査法人や公認会計士を選ぶ際には、上述のポイントに加えて上場会社等監査人名簿への登録をしているかの確認も必要です。なぜそんな確認が必要なのでしょうか?
まずは上場会社等監査人名簿への登録を定めた上場会社等監査人登録制度から解説していきます。
上場会社等監査人登録制度とは、上場会社等の財務書類について監査証明業務を行う監査法人等に対する登録制度の導入などを定めた制度です。2022年5月に法改正が公布され、2023年4月から開始されています。
この制度によって、上場企業が監査を受ける監査法人や公認会計士は上場会社等監査人名簿への登録していることが必須になりました。つまり、企業側は監査を依頼する監査法人や公認会計士が同名簿に登録しているか確認しなくてはなりません。
上場会社等監査人登録制度が始まるまでは、上場会社監査事務所登録制度が運用されていました。この制度は上場企業の会計監査に関する制度であるという面では上場会社等監査人登録制度と似ていますが、あくまで自主規制の原則であり法的拘束力のあるものではありませんでした。
そんな中で、かつては上場企業の7割以上から会計監査を依頼されていた4大監査法人(Big4)以外の中小監査法人も監査を依頼されることが増えているのが現状です。どの監査法人や公認会計士でも信頼性の高い監査をするべく、法整備の必要性が増してきていました。新たに上場会社等監査人名簿への登録が必須という法的拘束力を持つ上場会社等監査人登録制度が運用されるに至ったのは、このような経緯があったのです。
上場会社等監査人名簿に登録されている監査法人や公認会計士は、下記リンクより法人名や会計士の名前を入力することで確認できます。
先述の監査法人を選ぶポイントである程度依頼する事務所を絞れたら、上場後は同名簿への登録がされているかの確認も忘れず行うようにしましょう。
上場準備会社の経理担当者は、様々な監査対応が必要となります。その中でも監査法人対応は、どちらかというと監査法人主導で色々な依頼が来るので、焦らず言われる資料を提供していきましょう。