管理会計とは、財務会計とは別の会計となりますが、財務会計よりも実務で使われていない場合も多いので、あまり種類を知らない人も多いかもしれません。そこで、今回は管理会計の概要からその重要性、手法、メリット・デメリットなど詳しく解説します。
管理会計は、企業活動によって発生しているお金や損益の流れを、会社経営者や事業を統括する人たちが数値で把握できるようにするための会計です。管理会計の情報は、会社経営者の意思決定に役立てられ、会社全体や部署毎の業績測定・業績評価にも用いられます。
管理会計の計測期間は月単位、週単位、日単位、あるいは四半期単位等、その目的に応じて変わります。例えば、月額課金制のシステムを提供している会社の場合、損益を把握する単位は月単位であるのが適切でしょう。一方で、小売業のように売上や原価が毎日発生し、また変動するビジネスの場合、日毎にタイムリーな会社の業績状況を把握し、次の打ち手を考えていく必要があります。
また、管理会計は特定の形式もないため、会社ごとに異なる形で報告されます。会社の属している業界のビジネスや商品の特性はもちろんのこと、部門毎の特徴を踏まえて、サービスの収益状況、各種費用の発生状況を分析するためのデータを取ります。それがあって初めて、経営者は経営戦略を立案していくことが出来ます。
実際に管理会計で事業実態を把握するために計算・報告される主なものは下記に挙げられるものです。経理担当者として、身につけておきたいスキルですので、順番に見ていきましょう。
原価計算は特に製造業では損益や会社の経営状況・見通しを把握する上で重要です。製品別・部門別といった単位別で計測するとより情報の有用性が高まります。また、顧客毎にオーダーメイドの製品を納品する場合、売上金額に対してどの程度の原価が発生しているのかを把握することで、受注に対する利益額を正確に把握することが出来るようになります。
原価計算について詳しく知りたい方はこちらの記事もご一読ください。
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キャッシュフロー分析や資金繰り管理を行うことは企業経営では最も重要なものの一つです。基本的には企業間の取引では掛取引が中心であり、また、現金販売が主流のtoCビジネスでも、商品・サービスを売り上げるにあたっては事前に商品を仕入れておく必要があり、運転資金が必要となります。入出金の状況を適切に把握することで、会社の現在の財務状況を把握出来るだけでなく、運転資金の発生状況なども踏まえて将来の資金需要も予測することが出来ます。
管理会計の本来の目的は、会社の事業状況を把握し、将来に向けた会社の発展のための意思決定に役立てるものです。予算に対する実績の分析は非常に重要であり、実績が予算を下回った場合には下回った要因を把握し、改善のための打ち手を模索します。
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次に、管理会計と財務会計の違いについて説明します。
管理会計とは、法律上定められたものではなく、あくまでも企業の内部で活用するためだけに用いられる会計手法となります。そのため、最終的な利益が財務会計と異なっていても良いですし、様式についても全て任意となっています。
一方、財務会計とは、企業の正式な決算書を作るために必要な会計を言います。例えば、税務署に申告書と共に提出する場合や、株主総会の為の計算書類、銀行に提出するための貸借対照表や損益計算書等は全て財務会計から作られるものです。
管理会計と財務会計の違いについて詳しくは下記のコラムで解説しています。
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法律上求められるのが財務会計で、企業の内部でのみ使われるものが管理会計だとすると、管理会計はなぜ重要であると言えるのでしょうか?
結論としては、経営状態の「見える化」です。
数字を見える化することにより、本当に企業が儲かっているかどうか、また、どの部分を変えれば儲かるようになるか等を議論することができます。
例えば、製造業において、財務会計上は在庫を作れば作るほど企業は利益が出るようにできています。
これは、売上高が一定だったとしても、在庫がどんどん増えていけば、工場の固定費がどんどん在庫に載せられていき、結果的に売上原価が小さくなるからです。
一方で、管理会計で直接原価計算等の手法を取ったりすると、在庫をどれだけ作っても利益には影響せず、あくまでも販売したらしただけ利益が増える仕組みを作ることができます。
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一般的に、会社は規模が大きくなればなるほど細部の正確な数値の把握は難しくなってきます。そのため、管理会計で管理対象を細分化し、どこを改善すべきか、どこがどのような状態になっているのかを細かく把握します。
このことからわかるように、管理会計は規模が大きな会社であればあるほど必要なものとなり、経営者がより良い経営を実現するために管理会計は行われているのです。
また社内でも適切に数字を見える化することにより、適切に業績評価がなされ人材評価の公平性にもつながり、結果として社内のモチベーションが上がり業績が上がることにもつながります。
管理会計なしに来期の事業計画を策定することを想像してみましょう。原価がいくらなのかもあまり把握しておらず粗利が不透明、販売チャンネルごとの利益率が分からない、といった場合、適切に業績が最大化されるような事業計画を策定することは不可能です。
前年の制度会計上の数字から〇%増加といった適当な基準で形だけ作ることはもちろん可能ですが、その行為自体に特段の意味はありません。事業計画の策定とは、企業の利益を最大化するために行っている仕事であって、形だけ整えることは仕事とは呼べないでしょう。
きちんと管理会計を導入したうえで適切な数字の因数分解ができており、事業のセンターピンに向かって経営資源を配分することが大切です。
以上のように、管理会計は経営改善のための情報提供と社内の適切な業績測定、事業計画策定等の3点で重要な役割を担っています。
次に管理会計の主な手法について解説します。
管理会計上よく用いられるのが、限界利益です。
限界利益というのは、売上高から変動費を差し引いた数値を言います。例えば1個作るのに材料(変動費)が60円かかり、1個100円で売れる商品があった場合の限界利益は、1個売ったら40円、100個売ったら4,000円と言えます。
この限界利益の考え方は、例えば1個100円で売れるものの、その品物を作るのに110円かかるといった場合、普通に考えたら作らない方が儲かるようにも思えます。
しかし、110円の内訳が、材料費(変動費40円)で、残りが機械の減価償却費70円だったとしましょう。
すると、この商品を売っても売らなくても、機械の減価償却費はかかり続けるわけなので、原価利益である(110円―40円)の70円を稼いだ方が得という結論になります。
このように、見た目はマイナスであるものの、実際にはプラスになる行動がたくさんあるため、限界利益の考え方は管理会計の基礎と言えるでしょう。
管理会計の代表的な考え方の一つに、損益分岐点があります。
損益分岐点の計算式は、次の通りです。
損益分岐点売上高=固定費÷粗利率
元々、損益分岐点売上高というのは、企業がその売上高をあげれば、損益がちょうどゼロになる売上高を言います。よって、毎月損益分岐点売上高を計上していれば企業は継続できると言えますし、逆に損益分岐点売上高を下回っている場合は、存続が危うくなります。
損益分岐点売上高は、企業全体としての指標としても使えますが、新規事業を立ち上げる時に、最低限どれくらいの売上が必要かを知るのに最適な指標です
よって、部門別に損益分岐点売上高を把握しておいて、その売上高を最低目標とする使い方をするとよいでしょう。
今までは具体的な指標でしたが、製造業で管理会計というと、この原価管理がよく出てくるでしょう。
原価管理とは、例えば一つの製品を作るのにいくらかかるかを算出して、その原価をどのようにして低くしていくかを管理していく手法となります。
例えば、一つの製品を作るのに、材料費が100、労務費が50、設備の減価償却費が30の計180かかるとします。
ここで原価を150までに抑えたい場合に、やみくもに材料費のみ減らすというわけではなく、正社員で作っていたものをアルバイトに切り替えて労務費を削減したり、最新の機械でなくても作れるのであれば、古い機械で制作して減価償却費を抑えたりするなど、様々な手法を考えることができます。
原価管理で重要なのは、製品を作るのにいくらかかるかの目標を立てて、その目標原価と実際原価がなぜ、どれくらい違うのかを検証することにあります。
やみくもに出てきた原価を削るよりも、まず製品開発段階でしっかりと予定原価を組み立てる必要があります。
最後に管理会計を導入するメリットとデメリットを解説していきます。
管理会計のメリットは、前述のとおり会社の細部の数値が把握でき改善につなげられること。それに加えて、会計情報をいち早く取得することができるという面もあります。
財務会計は、報告書や申告書の提出日が決められているため、それに向けて会計処理を行っていきます。一方管理会計は、いつまでに何をするという明確なルールはありません。
会社独自のルールを敷くことができるため、財務会計による申告書の完成を待たずして、会社の数値を把握することができます。スピーディーに会計情報を把握することは、時流に乗った経営判断を行うために重要な判断材料となってきます。
管理会計を行うためには、手間と費用がハードルとなってきます。
まず管理会計を導入するために、管理会計システムを新しく入れたり、社内の会計運用ルールを整備したりする必要があります。つまり、ルールを整備するための手間と、そのための人件費、システム費などが必要になってきます。また導入後も、それを維持管理するための手間と費用が必要になります。
管理会計の数値管理を行う経理にとっては、財務会計と管理会計、2つの会計処理を行う必要があるため、管理が複雑になるというデメリットもあります。会社規模が大きくなるにつれ管理会計の規模も大きく複雑になってくるため、それに合わせて財務会計とは別に管理会計を行う人員を雇う必要も出てきます。
そのため、管理会計はスタートしたばかりの会社にとっては少々導入のハードルが高いものでもあります。
管理会計は、会社の細かな部分の利益や費用などがわかる経営者にとってはありがたいものです。管理会計によって会社の様々な数値を明確化し、その数値を根拠として今後のビジネスをグローアップさせるための対策を講じることができます。
管理会計の手法を具体的に色々と列挙しましたが、これ以外にも数えきれないほどたくさんあります。管理会計は、一つの手法にこだわることなく、自社に合った方法をカスタマイズして利用することが大事と言えるでしょう。
しっかりとした管理会計を行える体制を整えることは、ビジネスにおいて重要な意味を持っているのです。