不動産の流動化というと、何やら難しそうな響きがあるかもしれません。ですが、内容を把握すればそれほど難しいものではないことに気が付くはずです。
そこで今回は、不動産の流動化についてやさしく解説します。
まず、不動産の流動化という言葉について解説します。
不動産というのは、文字通り土地や建物のことを主に言います。土地や建物は固定資産に分類されている通り、基本的に企業が取得したらそうそう売買等することなく持ち続ける資産です。
ですので、基本的に企業に固定化されたままで、流動性がない資産と言えます。
一方でこの固定資産である不動産を有価証券などに変えて保有することがあります。これを不動産の流動化と言います。
不動産を有価証券にというとよくわからないかもしれませんのでもう少し解説しましょう。
不動産を有価証券に変えるというのは、次のような流れによって行われます。
まず、不動産を持っている会社が、特別目的会社(通称SPC)を設立して、SPCに不動産の所有権を移します。移す、というのは不動産をSPCに出資していると同じようなものと考えてください。
今まで固定資産として計上されていた不動産が、出資つまり株券などに変わるため、これを他人に譲渡してしまえば資金調達が簡単になります。
特別目的会社やその株主は不動産収入や配当を貰うことができますし、不動産を元々所有していた会社は利息等を得ることができます。
不動産の流動化をすると、次のようなメリットが得られます。
まず、不動産を持っていても賃貸収入は得られますが、まとまったお金は入ってきません。しかし、不動産を流動化して他人に譲渡すればまとまったお金が入ってくるので、与信が低くて借入が難しいような企業には最適な資金調達方法となります。
また、不動産は固定資産に計上されるため、財務諸表が重くなります。
投資家や銀行は固定資産よりも流動資産が多い方が良い企業だと見る傾向にありますが、不動産の流動化をすると固定資産が無くなり、現金などの流動資産が増えることとなります。
不動産の流動化はここ最近企業の資金調達方法として浸透してきていることから、会計基準についても別途公表されています。具体的には、「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針(会計制度委員会報告第15号)」を参照した会計処理となります。
不動産の流動化では基本的に固定資産を消去して、流動資産を増やす処理となりますが、これには前提があります。
例えば、固定資産を他の会社に売却したにもかかわらず、未だに何かあったら元の持ち主がリスクを負わなければならなかったり、不動産収入をそのままもらい続けたりしていると、それは単に名目上所有権が移転しただけとなり、貸借対照表から消去することができません。
不動産の流動化、固定資産を消去することができるのは、
✓元々の持ち主が売却後固定資産から生じるリスクが無くなっていること
✓売却先が賃貸借収入を得られている等、不動産からの収益が移転していること
の2点を満たしたときのみ行えます。
先ほどの会計基準にそって、リスクと価値が移転しているかどうかを判定し、固定資産を財務諸表から消す処理を行うこととなります。これは、元々の持ち主が固定資産のリスクを負ったままでその固定資産が財務諸表から消えてしまうと、そのリスクが投資家に認識されてしまうことや、逆に不動産から収益を受け続けているのに固定資産が計上されていないことも投資家にミスリードを招いてしまうことから来ています。
リスクと価値が相手に移転しているかどうかについては、具体的な判定指標があります。
例えば、不動産の価値が1億円であったとします。また、売主がリスクを300万円追うと仮定します。
ここで、リスクが相手に完全に移転したという指標は時価の5%以内であれば不動産が適正に売買されたとみなして、5%を超えるようであれば不動産は売買されたわけではなく単純に借入が起きたと考えます。
この事例に当てはめてみると、1億円の時価に対してリスクが300万円(3%)であるため、会計基準上ではリスクが移転したと考えられるので、売買処理が行われ、有形固定資産が貸借対照表から消えることとなります。
ここまで不動産の流動化について説明しましたが、実際に不動産が流動化されてリスクも買主に移転したと仮定して、仕訳については次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 1,000,000 | 有形固定資産 | 800,000 |
有形固定資産売却益 | 200,000 | ||
有価証券 | 1,000 | 現金預金 | 1,000 |
不動産を特別目的会社に売却して、そのお金で会社を設立、不動産を特別目的会社の所有物にするイメージです。
このように、流動化が適正に行われていれば不動産が貸借対照表から消えることとなります。
不動産の流動化は、最近よくみられるようになるほどメリットがあります。ただし、オフバランスをするには条件があり、その条件を満たしてしまえば通常の固定資産の売買と同様の処理になるため、響きにつられて難しく考えすぎないようにしましょう。