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ソフトウェアの取得原価の範囲?研究開発費との区別?

HUPRO 編集部
ソフトウェアの取得原価の範囲?研究開発費との区別?

無形固定資産として計上したソフトウェアについて、減価償却が必要であることは以前の記事:「ソフトウェアも減価償却資産!仕訳方法と注意点について」にて述べたとおりです。今回はより詳細に、ソフトウェアの取得原価に含めるべき費用とそうでない費用について解説していきます。

研究開発費とソフトウェアの違い

先ずは「研究開発費等に係る会計基準」の一部を以下に抜粋します。

ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう。研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配額等、研究開発のために費消されたすべての原価が含まれる。

研究開発費等に係る会計基準一および二

ここで大きなポイントは、研究開発費は研究開発のために費消された「すべての」原価であるということです。また、研究開発費はすべて発生時に費用として処理します。そして、ソフトウェアの制作費であっても研究開発に該当する部分は研究開発費として費用処理し、資産に計上することは出来ません。

確かに費用と収益は対応すべきという考え方から研究開発費の資産計上を認めた方がよいという考え方を唱えている学者等も居ないわけではありません。しかし、研究開発費を発生した期の費用とすべきという現在の会計処理は、企業が研究開発を行い将来の収益獲得の可能性がある程度高まったとしても、研究開発の時点ではあくまでも収益獲得が確実であるとは言えないことを大きな理由としています。

研究開発費の会計処理

研究開発費には一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法がありますが、研究開発費は一般的には原価性がないと考えられるため、原則、一般管理費として計上します。

一方、製造現場において研究開発活動が行われ、かつ、当該研究開発に要した費用を一括して製造現場で発生する原価に含めて計上しているような場合には、研究開発費を当期製造費用に算入することも容認されています。ただし、この容認規定に従って会計処理を行う場合でも、当期製造費用の大部分が期末仕掛品等として資産計上される場合は妥当な会計処理とは認められません。上記のように、研究開発の時点では収益獲得が確実ではなく、研究開発費を多額に資産計上することは適切であると言えないからです。

研究開発費の会計処理

受注制作のソフトウェアの会計処理

受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理します。そのため、成果の確実性が認められる場合には工事進行基準にて収益及び費用を認識し、成果の確実性が認められない場合には工事完成基準にて収益及び費用を認識します。

ここで、工事進行基準においては多くの場合、原価比例法が用いられます。

原価比例法とは、決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法をいう。

工事契約に関する会計基準6項(7)

原価比例法を用いた場合、工事の収益のうち工事進捗度分が実現したと考えます。また、工事の費用については当期に発生した分を原価とします。

一方、工事完成基準はソフトウェアが完成し目的物の引き渡しを行った時点で、収益及び原価を損益計算書に計上する方法です。従って完成前の費用については仕掛品に計上されることとなります。

市場販売目的のソフトウェアの会計処理

市場販売目的のソフトウェアの制作に係る研究開発の終了時点は、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち最初に製品化された製品マスター完成時点であると考えられています。そのため、その時点までに発生した費用は研究開発費として処理します。

一方、製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動のための費用については、原則として、資産に計上します。即ち、ソフトウェアの取得原価に含め、減価償却を行います。

ただし、ソフトウェアの機能の改良が著しい改良と認められる場合は、その費用を研究開発費として処理します。

自社利用のソフトウェアの会計処理

自社利用のソフトウェアについては、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合は無形固定資産に計上します。即ち、ソフトウェアの取得原価に含め、減価償却を行います。一方で、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められない場合又は確実であるかどうかが不明な場合には、ソフトウェアとして資産計上することはせず、費用として処理します。

まとめ

ここまで、研究開発費とソフトウェアの違いについて、および、目的の違いによるソフトウェアの会計処理の違いについて解説して来ましたが、いかがでしたでしょうか。繰り返しになりますが、研究開発費を資産計上することは適切であるといえないという大原則は非常に重要です。

研究開発費の費用処理は企業にとっても大きな負担であるため、監査法人と企業の判断が対立しやすいところでもあります。

実務では会計基準およびその適用指針を参考にしながら、適切な会計処理を行って下さい。

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