簿記検定の最高峰「日商簿記1級」。難関資格として知られているぶん、取得を悩まれている方も多いのではないでしょうか。今回は、簿記検定1級を取得することで、転職の際に果たして優位になるのかどうか、未経験でも可能かどうかについて解説します。
まず初めに簿記1級について解説します
日商簿記検定で最も難しいとされるのが「1級」。その合格率は、毎回多少のばらつきはあるものの、約10%以下と非常に狭き門となっています。まるで国家資格並みの非常に低い合格率です。
簿記検定は、日商簿記検定の他にも2つあります。のこりの2つは全経簿記(正式名称:全国経理教育協会簿記検定)や全商簿記(正式名称:全国高等学校主催簿記検定)といわれるものです。これらは専門学校や高校生向けなので、社会人向けには日商簿記検定(正式名称:日本商工会議所簿記検定)が一番メジャーで、通常「簿記検定」といえば日商簿記を指すことが一般的です。また、日商簿記検定1級と全経簿記上級は、税理士受験資格の一つにもなっています。
日商簿記検定では、2020年12月から全国の試験会場でほぼ毎日「ネットで受験」が開始されました。しかし、これは2級まで。1級は引き続き年に2回(6月・11月)の会場でのペーパー試験のみとなります。
2022年については6月12日(日)・11月20日(日)と決定しました。受験料は7,850円です。
試験日の3か月前をめどに最寄りの商工会議所に申し込みを行う必要があります。
難易度の高い簿記1級ですが、それでは取る価値があるのでしょうか?簿記1級が転職に役立つかどうかは、志望する雇用業態や会社の規模によって大きく異なります。
ここでは雇用業態・会社の規模別に「簿記1級の有用度」を見ていきましょう。
派遣・契約社員として転職を考えるならば、簿記1級はほぼ必要ありません。派遣・契約社員で就労する場合、経理業務と言っても経費精算や伝票確認、帳簿整理などがメインです。これらの業務は、会計ソフトの操作方法含む基本的なパソコン操作ができれば未経験者でも可能です。簿記検定では2~3級レベルであれば十分対応できます。
そのため、経理未経験者にとっては経験を積みやすいため「まずはここから」チャレンジするのもアリです。
会計事務所では、簿記1級をステップに税理士試験を受験し、科目合格している方も多く在籍しています。簿記1級の学習範囲は、税理士試験の「簿記論」「財務諸表論」の学習範囲を8割以上カバーしているからです。つまり、会計事務所への転職については簿記1級がとても有利に働きます。
もちろん、未経験者であっても事務所によっては募集しています。先輩社員の補助業務や記帳代行、税務申告書類の作成等の業務を担当することになるでしょう。こうした業務で経験を積み、簿記一級や税理士の資格取得を目指すのもキャリアアップの道の一つです。
中小企業の経理正社員は、決して部内の人数は多くありません。場合によっては、月次決算や税金申告、社員の給与計算から株主対応まで、経理にまつわるほぼ全てのことを1人で担当することがあります。
その会社の規模や、社員への仕事の割り振りによってですが、総務や労務など別の業務を担当することもあるかもしれません。そのため、中小企業の経理正社員への転職を希望するならば、少なくとも簿記2級の資格と、経理らしい経験は必須となります。
簿記1級の資格については、企業の規模にもよりますがオーバースペックとなる場合もあります。しかし、いずれの場合も未経験では難しく、経理業務の経験者が有利となるでしょう。
大企業や上場企業の正社員としての転職は難関となります。一番良いのは学生のうちに簿記1級を取得し、それをアピールポイントとして新卒入社することです。大企業の場合、未経験者募集があまりないため、資格も大事ですが実務経験を積む必要があります。
大企業や上場企業となると、決算業務や税務申告はもちろん、大型の資金調達や企業の買収(M&A)、海外駐在にて経理全般を担当することも考えられます。それらの業務には、高度な会計知識が必要です。
そのため、上場企業の経理正社員を目指すならば、経理経験とともに、簿記1級の資格を所得しておくことは、転職活動を行う上で確実に有利に働くでしょう。採用側としては、それまでに大規模な企業の経験がなかったとしても、業務をこなしてもらえる期待感を持つことができます。
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経理未経験者は簿記何級まで取得すればいいのか悩むこともあると思います。
ここでは未経験者の簿記取得について解説します。
簿記1級は難易度が高く、年2回しか試験がありません。
まずはいつでも試験を受けられる簿記2級の取得を目指しましょう。
実際、未経験者の募集の多くは簿記2級からのことが多いので、1級でなれば厳しいというケースは少ないです。
また未経験者が、実務を行う前に簿記を勉強とともに簿記検定を受験することは多いです。場合によっては期限付きで合格をマストにする企業もあります。
しかし、その場合でも多いのは2級どまりです。簿記1級は、経理部の社員でも持っていることが少ない資格といわれています。ベテランの経理社員でも合格が難しいのです。
未経験の転職において年齢は一歳単位で若い方が有利です。そのため簿記1級を取得するのを待つより、2級を取得した段階で動き出すことをお勧めします。
もしあなたが経理未経験者であるなら、いきなり1級を目指すのは得策ではありません。まずは、2級・3級を勉強し知識をつけてから転職。実務を経験しながら会計業務への理解を深めて、更なるステップとして1級を受験するのが順当です。
ただし、もしあなたが新卒なら話は別。学生のうちは経理の実務を仕事として積む機会がない分勉強すべき時に勉強したというエビデンスになります。簿記1級は、就職活動においては大きな威力を発揮するでしょう。
簿記検定は、年々その難易度を上げています。簿記2級が「2級じゃなくて1.5級では?」と言われたりもするほどです。前述の通り、簿記1級の合格率は10%以下。合格するために必要な勉強範囲は、2級と比べて飛躍的に範囲が広くなるのです。そのための勉強時間は500~1000時間とも言われています。
仮に500時間だとして考えてみても、毎日2時間の勉強を1カ月してで60時間。約8ヶ月半かかります。1,000時間ならその倍です。1日の勉強時間を長くして対応することもできるかもしれません。しかし、無理のある勉強計画では途中で挫折してしまいます。自分のライフスタイルに合った勉強方法を選ぶことが必要です。
難しい検定試験だからといっても、勉強する方法が他の資格や検定と変わるわけではありません。きちんとやるべきことをやっていれば合格できます。
・独学
・通信教育
・スクールでの受講
などの、勉強方法があります。試験は年に2回であることを考えると、広い学習範囲を効率よく勉強して合格するためには、通信教育かスクールが無難でしょう。
もちろん独学でも合格する人もいますが、2級よりも高度で新しい論点がたくさん出てくるので、理解のために時間がかかるからです。読んでも理解できない場合、質問ができる先生がいる方が早く自分のものにできます。
簿記1級は、1回の受験で合格できる人もそう多くありません。あきらめずに再チャレンジしているうちに、結果的に勉強時間が1000時間を超えていた……ということになったりします。
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簿記1級は取得難易度が高く、取得者は専門的な知識と高度な会計スキルをアピールできます。企業側としても「大きな仕事を任せられる」安心感を持つでしょう。しかし企業の経理職の転職ついては実務での職務経験が重要視されるため、未経験の場合、簿記2級を取得したら転職に向けて動き出すことをお勧めします。自分のキャリア・転職したい業界や企業を踏まえて簿記1級が有利に働くのかを見極めることが大切です。簿記1級は勉強も大変なため、勉強法を工夫することも大切です。