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雇用調整助成金(新型コロナ特例)|手続の流れや注意点は?

社会保険労務士 田中かな
雇用調整助成金(新型コロナ特例)|手続の流れや注意点は?

雇用調整助成金は、経済上の理由で事業規模の縮小を余儀なくされた企業に対し、国が休業等に要した費用を助成する制度です。以前からある制度ですが、新型コロナウイルスの影響を踏まえた要件緩和等がおこなわれています。今回は雇用調整助成金(新型コロナ特例)の概要や手続の流れ・注意点について、社会保険労務士が解説していきます。

雇用調整助成金とは

まずは通常の雇用調整助成金について、制度の概要を説明しましょう。

企業の雇用維持を支援する制度

労働基準法第26条では、使用者の都合で休業を実施した場合、従業員に対して平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があると定めています。

しかし内部留保が多い大企業はともかくとして、多くの企業では休業手当の支払い自体が負担となり、やむを得ず従業員を解雇するという事態に発展しかねません。雇用調整助成金は、企業に対して休業手当等の一部を助成し、解雇等を防ぐことを目的としています。

「助成」の意味

助成金は貸付けとは異なり、企業に返済義務はありません。したがって、受給要件を満たすのであれば利用するメリットが大きいといえます。

「支払った賃金のうち○割が補償される」と考えている方がいるようですが、雇用調整助成金は、あくまでも休業手当等に要した費用に対する補償です。たとえば1日あたりの賃金が1万円の従業員を休業させ、その6割にあたる6,000円を休業手当として支払った場合、企業は6,000円のうちの何割かについて助成を受けることになります。

新型コロナウイルスによる特例措置とは

新型コロナウイルスの影響により、事業規模の縮小を余儀なくされ、従業員の雇用維持が困難となる企業が増えています。これを踏まえ、通常の雇用調整助成金に特例措置が設けられました。通常時と比べて要件や手続が緩和され使いやすくなっていますので、新型コロナの影響を受けている企業は積極的に活用したいところです。

特例措置における助成内容のポイント

新型コロナウイルスの影響にともなう特例措置は、休業等の初日が「令和2年1月24日~7月23日」の場合に適用されます。このうち「令和2年4月1日~6月30日」までの間を、国は「緊急対応期間」と定め、助成内容や対象が大幅に拡充されます。ここでは、緊急対応期間中の要件や助成内容の主なポイントを紹介します。

生産指標の要件緩和

通常は対前年同月比で10%の減少が必要でしたが、緊急対応期間は5%に緩和されました。生産指標(売上高や生産量など)の確認期間も3ヶ月から1ヶ月へと短縮されています。

助成率

緊急対応期間にかかる助成率は次のように引き上げられました。

中小企業:3分の2→5分の4(解雇等をしていない場合は10分の9)
大企業:2分の1→3分の2(解雇等をしていない場合は4分の3)

ここでいう解雇等とは、有期労働者に対する一方的な雇い止めや中途契約解除を含みます。

対象となる従業員の要件

通常の対象者は雇用保険被保険者ですが、特例では被保険者ではない従業員も含まれます。雇用保険に加入できない短時間労働のパート・アルバイト等も対象になり、助成率も違いはありません。

支給限度日数

通常時は1年間で100日分を限度として支給されますが、緊急対応期間についてはこれと別枠で利用可能です。

出典:新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ 雇用調整助成金の特例を拡充します|厚生労働省ホームページ
出典:新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ 雇用調整助成金の特例を追加実施します|厚生労働省ホームページ

申請手続の流れ

新型コロナウイルスの影響を受けた企業が雇用調整助成金を申請するには、大きくは以下の流れに沿って手続します。

1. 休業計画を立て、休業等に関する労使協定を結ぶ
2. 休業等を実施する
3. 休業等の計画を労働局またはハローワークへ提出
4. 支給申請
5. 支給・不支給の決定

手続面における変更点

雇用調整助成金はこれまで多くの企業の雇用を支えてきましたが、手続にかかる提出書類の記載事項や添付書類が多かったために、使いにくい面があったのも事実です。

しかし新型コロナウイルスの特例措置にかかる申請書類については、記載事項が約5割削減され、記載内容も大幅に簡略化されたほか、添付書類の削減や既存書類での代用も可能となるなど、手続面の負担が軽減されています。

また通常の雇用調整助成金では休業等を実施する前に計画を提出する必要がありましたが、特例措置にかかるものは事後提出が可能となっています。

申請する場合の注意点

雇用調整助成金の利用に際しては、従業員の責任と関係なく休業等をしてもらうことになるため、従業員の理解が必須です。休業の趣旨や休業せざるを得ない事情とともに、休業の対象者や休業日、休業手当の割合等、しっかりと納得できる説明をしなくてはなりません。

とくに休業手当の割合は従業員の生活を支えるうえで極めて重要な項目となり、従業員の関心も高い部分だといえるでしょう。法律上は最低6割の補償ですが、7割、8割と補償の率が高いほど理解が得られやすくなるのはいうまでもありません。この点は経営状況等を踏まえ、慎重に判断してください。

休業する人に偏りがあることも不満の原因となるため、対象者の範囲や日数の決定は合理的で従業員が納得のできる理由を用意する必要があります。

手続の簡素化によって、国は申請から支給までの期間を1ヶ月となるよう目指しています。しかし利用する企業が多いと予測されることから、いつまでに必ず支給されるという保証はありません。雇用調整助成金の申請と同時進行で、資金の確保や固定費の削減等の努力をする必要もあるでしょう。

まとめ

雇用調整助成金は企業の雇用を支える重要な助成金です。新型コロナウイルスの影響を受けた企業が申請する場合には要件や助成内容が通常時とは異なりますので、休業等を検討する場合はよく確認しましょう。また報道等でご存知のとおり、新型コロナウイルスに関する国・自治体の支援体制は刻一刻と変化しています。企業に対して今後どのような支援がおこなわれるのかについても、引き続き注視していきましょう。

この記事を書いたライター

求人関連企業の経理部門に在籍中、社会保険労務士資格を取得。その後、会計事務所や総合病院での労務担当を経験し、現在はフリーランスのライター・校正者として活動中。ジャンルは労働問題を得意とする。
カテゴリ:コラム・学び

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