職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は本来であればあってはならないことです。とはいえ、人事労務担当としては、社員からパワハラを訴えられてもどのように対応すれば良いのかが、社内事情もあって難しい面があります。
今ではパワハラとみなされるような行動についても、かつてはそれが当たり前であり、決裁者である管理職たちがそれを「大げさだ」として重要視していないという傾向があったのも事実です。
しかし、ここにきて法改正があり、2020年6月より職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主に義務化されます。(中小企業は3年以内は努力義務)本記事では、ハラスメント防止措置義務化について、具体的に何をどうすべきかを解説します。
労働局に寄せられる相談では、6年連続で職場のいじめ、嫌がらせに関する相談が毎年トップとなっています。
そこで、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法が改正され、国の施策として「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決の促進」(ハラスメント対策)を行うこととなりました。
具体的に何をしなければいけないかというと、以下の3点についてです。
パワハラ防止法については現状では罰則はありませんが、厚生労働大臣は必要に応じて助言・指導・勧告を行うほか、違反している事業主が勧告に従わない場合には、その旨の公表がされる可能性もあります。(労働施策総合推進法33条2項)
パワハラについては「自分たちもされてきたし当たり前」「そのくらいで気にしすぎ」「される方に問題がある」という職場によっては根強い抵抗感があり、さらに深刻な被害にあっている人ほど、報復を恐れて口をつぐむという傾向があるため、具体的に何が該当するのかが曖昧なままになっていました。
しかし、かつてパワハラを「指導の一環」「社会人としての洗礼」のように受けてきた加害者側の意識を変革しないと、パワハラを亡くすることは難しいでしょう。
そこで、このたびパワハラについては従来より明確な定義が行われています。
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです
これまでパワハラは上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われることが多かったのですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。
優越的な関係とは「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な要因を含みます。
中には、業務上必要な注意や指導についても「パワハラ」と訴える社員もいると感じる管理職もいるかもしれません。
しかし、今まで「業務上必要な注意や指導」と感じていた内容を見直してみましょう。必要以上に威圧的だったり、恫喝とも取れるような話し方をしていたりしませんか?
具体的に裁判になり、会社側に処分が課された例としては以下のようなものがあります。
● 亀戸労基署長事件(出典元:厚生労働省サイト「明るい職場応援団」))
起立させたまま、叱責していたことで、肉体的疲労のみならず、心理的な負担も有すると判断
● シー・ヴィー・エス・ベイエリア事件(出典元:厚生労働省サイト「明るい職場応援団」)
勤務時間終了を理由に帰宅しようとするXに立腹して、同人に対し、「ばばあ」等の暴言を交えて激しい口調で不穏当な発言をして精神的苦痛を与えた
● A保険会社上司(損害賠償)事件(出典元:厚生労働省サイト「明るい職場応援団」)
Yが、Xに対し「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを、Xとその職場の同僚に送信
● 海遊館事件(出典元:厚生労働省サイト「明るい職場応援団」)
複数回、自らの不貞相手の年齢や職業の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。セクハラに関する研修を受けた後,「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言
なお、パワハラについては4つめに取り上げた「海遊館事件」のセクハラも含みますし、妊婦に対するハラスメントである「マタハラ」や男性の育児休業の利用に関するハラスメントである「パタハラ」も含む広い概念です。
特にこの「海遊館事件」については「コミュニケーションの一環として」常にこのような言動を繰り返している中高年層の社員は多いと思われます。会話の具体例がありますので、社員研修の資料に非常に適した例です。
ハラスメントは、今までは「受け流すのが大人」「同じ土俵に上がらない」「いちいち取り合わない」といった対応がある程度支持されてきました。
しかし、被害者が我慢していると「この対応が正しい」とみなされ、事態はさらに悪化してしまいます。
というのも、ハラスメントは加害者はその意識はなく「指導」「相手も望んでいる」と自分を正当化していたり、むしろ「叱られるうちが花」「相手のためを思って」といった誤った認識を持っている事があるからです。
これを機に人事研修を行う会社も多いでしょうが、概要を伝えているだけではパワハラに当たらないとされる「 適正な範囲の業務指示や指導」とみなしてしまう当事者が多いかと思いますので、前述の具体的な裁判例をケーススタディとして取り上げることをおすすめします。
厚生労働省のサイト「明るい職場応援団」にはこのような裁判例が多数ありますので、ぜひ参考にしてみてください。
人事労務担当者においては、現状のハラスメント対策について、就業規則などを改めて整備し、パワハラの具体的要件などを定めた上で、降格や解雇も含めた懲戒処分が下せるようにしておく必要があります。
積極的にハラスメント対策をアナウンスし、もしハラスメントに該当するような案件があれば、当事者や周囲の人が気軽に相談できるような環境を醸成していく必要があるでしょう。
社内の窓口担当については、プライバシー保護のため厳格な守秘義務が求められます。
パワハラを受けている本人は、それがパワハラとして正当かどうかも悩んでおり、場合によってはうつ病などを発症してそのまま退職というパターンも多いです。
訴えた社員が不利益を被ることがないように、
・パワハラを受けている従業員に対してどのように対応するか
・パワハラを行う者に対してどのような処分を行うか
など具体的な研修を人事労務担当者から直接行う必要があります。部門単位に任せてしまうと、その部門でパワハラが行われていた場合に発見できません。研修時にも目を光らせる必要があるでしょう。
社内研修の実施はもちろん、弁護士やハラスメント対策のコンサルティング会社等を窓口とする、外部相談窓口を設置するのも有益です。