TOB(Take Over Bid)とは、M&Aの手法の一つです。日本語では株式公開買付とよばれ、上場企業など同士のM&Aで用いられる手法です。TOBが発生すると、その会社だけでなくその会社の株主にも大きな影響があります。今回は「TOB」についてその意味や株価への影響などを解説します。
TOB(Take Over Bid)とは、日本語では株式公開買付と呼ばれ、期間や株数、価格を公開したうえで、市場を通さずに株式を買い取る行為です。
通常、株式は証券市場を通じて、自由に売買することができます。その目的は、キャピタルゲイン(売却価額と購入差額の利益)の獲得や配当収入です。
それに対し、TOBは、経営権の取得が目的です。経営に関わる重要な議題は、株式総会などで株式数に応じて決定されます。
例えば、3分の1超の株式を保有していれば、株主総会で特別決議拒否権を発動することができます。2分の1超を保有していれば、役員の選任権をもらうことができるので、より経営に参画することが可能です。
更に3分の2超を保有していれば、特別決議を単独で可決することができ、事業譲渡や合併、会社分割といった組織変更についても主導権を握ることが可能になります。
TOBの対象は上場企業なので、取引所でコツコツと浮動株(安定した株主に保有されていない市場に流通している株)を買い集めることもできます。しかし、それには時間がかかってしまい、迅速に経営権を獲得することは困難です。よって、明確に経営権を獲得したいという意思を表明し、すばやく株を集めるために、TOBが行われるのです。
そのため、TOBで株式を購入する事業者は、子会社化など相手企業の支配権を獲得することを目的としています。
TOBには友好的TOBと敵対的TOBの2種類があります。
友好的TOBとは、TOBをする企業と相手先企業との間に事前に合意がなされているTOBです。有名な事例としては、ソフトバンクによるボーダフォン日本法人のTOBがあります。日本でのTOBは、ほとんど友好的TOBであり、事業拡大や事業再編などお互いの経営方針や経営戦略に沿っている場合に実行されます。
敵対的TOBとは、対象となる会社の経営人などから同意を得ずに、株主から株式を取得するTOBです。
かつて、村上ファンド、ライブドアなどの有名企業が敵対的TOBを実施して世間を賑わせました。しかし、敵対的TOBを仕掛けられた企業は、おとなしく買収されることを待っているはずがありません。そのため、様々な買収防衛策を講じます。
主な買収防衛策として、次のようなものがあります。
【ホワイト・ナイト】
友好的な関係にある第三者に有利な条件で買収してもらう手法
【パックマン・ディフェンス】
買収者に対して逆に買収をかける手法
【スコーチド・アース】
資産を売却したり、あえて多額の負債を負ったりすることで企業価値を下げ、買収側の意欲をそぐ手法
【ポイズン・ピル】
既存株主にTOBの前に新株予約権を付しておき、TOB実行後に割安で株式を取得させて、TOB実行者の持ち株比率を下げるという手法
日本には、金融機関や取引先などとの株式持ち合いという商習慣もあり、敵対的TOBに成功した事例はほとんどなく、失敗に終わる事例が圧倒的に多くなっています。
友好的TOBのメリットは次の通りです。
相手先の企業との合意があるため、買収手続きをスムーズにできることがメリットです。
友好的TOBであっても結構手間や時間がかかります。既存株主などとの交渉や価格などを決定するためのデューデリジェンスなどの手続きが必要で、多くの負担が発生します。その際、相手先企業の同意があると、相手先の協力を得ることができますので、手続きがスムーズに進みます。円滑に進みやすく成功確率も高くなります。
友好的TOBは、お互いの経営戦略が一致していることが前提になります。多くの事例では、買収する企業は、新しい事業領域の獲得など事業規模の拡大を目的としています。買収される企業は、買収する企業の傘下に入り事になり、より安定した経営が期待できます。
そのため、人材やノウハウなど両社が持っている経営資源を効率的に活用することでシナジー効果が高まります。
シナジー効果とは、単独の企業で事業を進めるよりも、複数企業の統合によって事業を進めることでより大きな効果を生み出すことを意味します。
TOBの目的は経営権の獲得です。経営権とは株式数です。取得する株式が多ければ多いほど経営権(持ち株比率)を獲得することができます。一度に大量の株式を買い集めることができるTOBを行うことで、より大きな経営権を取得することができます。
証券市場を通して株式を買い進めると株価が上昇してしまいます。時には予定した買収金額を超えてしまう可能性もあります。しかし、TOBを行うと、一定の価格で買い集めますので、買収金額を確定できるメリットがあります。
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では、実際にTOBが行われる際の手続きの流れについて説明します。
流れとしては下記の通りです。
まず、TOBの準備を始めるにあたり、公開買付開始公告というもので、TOBを行う予定であることを公に周知する必要があります。このときに、TOBの目的や買付価格、買付期間などを公表します。続いて公開買付届出書を内閣総理大臣へ提出します。
TOBの公開買付開始公告が行われてから、売主側の企業は10営業日以内に、内閣総理大臣に対して、公開買付に関する意見表明報告書を提出する必要があります。
そして、意見表明報告書に買主側への質問が記載されている場合、買主側は5営業日以内に回答を質問回答報告書に記し、内閣総理大臣に対して提出しなければなりません。
そして、公開買い付けが無事終了したら、最後に公開買付報告書を内閣総理大臣に提出する必要があります。公開買付期日最終日の翌日にTOBの結果として、買付条件やその他決められた事項などを公表しなければなりません。
状況によっては、必ずTOBをしないとならない場合もあります。金融商品取引法27条の2では、「義務的公開買付け」といって、取引の情報を適切に開示することで株主に公平な株式の取引機会を設けるための規則が設けられています。
取引所外で短期間に大量の株式が売買される場合、もし情報が公開されなければ、特定の株主だけに利益が生じたり、少数株主が機会を逸することになったり、取引が不平等に行われてしまう恐れがあります。
具体的には、以下のルールがあります。例えば、5%ルールとよばれるものです。著しく少数の者から買付けを行う場合を除き、買い付け後に買い手が保有する株式が5%を超える場合には、公開買い付け、つまりTOBを行う必要があります。また、著しく少数の者から買付けを行う場合であっても、買い付け後の株主所有割合が1/3を超える場合には、TOBによらなければならないというルールもあります。
TOBを行うとき、買収企業は、相手先企業の不特定多数の株主に対して、「○○日までに、××円(TOB価格)で△株以上(下限数)、□□株(上限数)まで買い付けます」と宣言します。
この宣言した内容によって、株価がどの様に動いていくのかを考えていく必要があります。
敵対的TOBの場合は、相手先企業による買収防衛対策が講じられます。買収する側と買収される側の会社で攻防が行われることになり、株価は不安定になります。
例えば、防衛策の一つであるポイズン・ピルが行われた場合、流通する株が大量に増えることで株価が下がりやすくなります。また、買収企業が買収に強い意志を示した場合、TOB価格を高く設定しますので、株価が上がりやすくなります。
TOB価格とは買収企業が購入する価格です。一般に、TOB価格は現在の株価よりもプレミアムを付けてより高い価格を設定します。たとえば、現在の株価が500円のときにTOB価格600円と設定します。不特定多数の株主に売ってもらうためには、通常より少し高い株価を設定する必要があります。TOB価格が設定された場合、株価はTOB価格にサヤ寄せして上昇することになります。
TOBでは下限数と上限数を設定することができます。下限数に対し、応募数が少なかった場合は、TOB不成立となります。 株主にとって、TOB価格が現在の株価と比べて魅力的なプレミアがついているかどうかで、成立・不成立の予想ができ、それが株価に影響します。
上限数も注意すべきポイントです。TOBで上限が設定されており、その数が少ない場合、株主がTOBに応募しても外れることもあります。外れるリスクがあると、株価はTOB価格にまでは到達しない可能性があります。
では、自分が持っている株式がTOBを受けることになった場合のメリットやデメリットはあるのでしょうか?
まずメリットとしては、市場価格よりも高い価格で売却することができることが挙げられます。TOB実行者は、迅速に株式を集めるために、市場価格よりもプレミアムを乗せた割高な価格で買収するように計画します。そのため、既存の株主であれば、TOBに乗って売却することで、利益をうけることができます。
デメリットとしては、TOB実行者が100%保有を目指していた場合には、いくら既存株主が長期保有を目指していたとしても、最終的には法的手続きによって買い取られてしまうことが考えられます。
また、TOBが既存株の一部を買い付ける計画の場合、この機に売却しようとしても、タイミングによっては買い取り目標株数の上限数に達してしまい、売却できない可能性もあります。その後市場で売却するにしても、市場価格がTOB価格までは上がっておらず、リターンを得る機会を逸してしまう恐れがあります。
もし保有している株式がTOBを受けることになった場合は、まずそのTOBの目的を理解し、既存株主がどのような方法をとることができるのか判断する必要があります。場合によっては大きなリターンを得ることができる可能性がありますので、日頃から市場の動向に注意しておくことが大切でしょう。