年度末を迎えて決算書を作成した後に、その決算に誤りがあったと気づく場合があります。決算書は、会社の利害関係者にとって重要な書類ですので、もし間違いがあったのなら修正が必要と言えます。今回は、決算修正の具体的な方法と、その根拠となる基準、そしていつまでに修正しなければならないのかを解説していきます。
過年度の決算書の間違いに気づいた場合、どのように修正すればいいのでしょうか。結論から言えば、過年度遡及会計基準において、「修正再表示」を行うこととし、つまり、遡って修正処理をすることとされています(過年度遡及会計基準21)。
従来、日本の基準では、過去の誤謬は「前期損益修正項目」として当期の損益で修正する方法が示されていて、過年度に遡って修正再表示する方法は特段定められていませんでした。しかし、国際会計基準(IFRS)へのコンバージェンスの一環として、諸外国では一般的である過年度遡及修正が日本でも導入されることになりました。これが平成21年に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表された経緯です。
導入された基準の主な論点は、以下の通りです。
・会計方針の変更、表示方法の変更と過去の誤謬の訂正については、原則として遡及処理をすること。
・会計上の見積りの変更(例えば固定資産の耐用年数の変更)は遡及処理をせず、その影響は将来に向けて認識すること。
つまり、過去に誤りがあった場合、すなわち過去の誤謬の訂正の場合だけではなく、会計方針の変更や表示方法の変更がある場合にも、今回の基準が適用され、遡って修正処理がされるということです。一口に決算修正と言っても、このような異なるパターンがあるということがわかります。以下では、「過去の誤謬の訂正」の場合について、解説していきます。
過去の誤謬を修正再表示する場合とは、その項目が重要であると判断した場合と考えられます。(過年度遡及会計基準35)一方で、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識するものと考えられます。(過年度遡及会計基準65)
会計基準には次の方法により「修正再表示」を行うこととし、遡及処理することが明示されています。(会計基準 21)
・表示期間より前の期間の修正再表示における累積的影響額は、最も古い期間の期首の資産、負債および純資産の額に反映する。
・表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。
つまり、表示が必要な期間より前に発生した誤謬については、一番古い期間の期首の数字に訂正させることで対応し、一方で、表示期間中に発生した誤謬については、それが発生した年度に対応させて数字を訂正する必要があります、という内容になっています。
なお、過去の誤謬については、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いは、会計基準上は明示されていません。これは、実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じることがあることを考慮したものとされています(会計基準 67)。
また、過去の誤謬の修正再表示を行った場合には、次の事項を注記するよう定められました。(会計基準 22)
・過去の誤謬の内容
・表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
・表示されている最も古い期間の期首純資産に反映された修正再表示の累積的影響額
どの科目が、なぜ、どのくらい訂正され、それが一株当たり情報にどのように影響するのかを明示しましょうという内容です。利害関係者に親切な財務諸表を目指すという目的に沿っていると考えられます。
過去の誤謬を修正再表示する場合は、その項目が重要であると判断した場合と考えられます。(過年度遡及会計基準35)
一方、重要な事項の変更その他公益又は投資家保護のため訂正の必要があると認めた場合には、訂正報告書を提出しなければならないとされています。(金融商品取引法24条の2、7条参照)
これはどういうことかと言うと、金商法で定められている有価証券報告書と、会社法で定められている計算書類とでは、元となる法律が異なるため、重要性に関する判断基準が本来であれば異なるということが前提になっています。しかし、「一般的には、過去の誤謬が、会社法計算書類を修正再表示する必要性があるくらい重要であるならば、有価証券報告書の比較情報として示される前期数値を修正再表示することだけでは、利用者の理解にとって十分でないと考えられる」、という旨が監査基準委員会から公表されたのです。つまり、「修正再表示に先立って、訂正報告書を提出してください」という取り扱いが、実務上はされているのです。
会社法442条では、「計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書、監査報告、会計監査報告は、定時株主総会の2週間前の日から5年間、会社の本店に備え置かれ、株主及び債権者の閲覧に供される」と定められています。
よって、適切な情報開示の観点では、少なくとも過去5年分の計算書類等は修正する必要があると考えられます。
今回は、決算修正が過去の誤りによって行われる場合の扱いについて解説してきました。なるべく過年度の修正をするような事態の発生は避けたいものですが、実際に起きてしまった場合は、この基準に基づき訂正する必要があることを知っておいていただけたらと思います。