多くの企業に存在する家族手当制度は、一定の条件を満たした家族を養う従業員に手当を支給し、生活を支援する意味があります。ただ家族手当とはどのような制度で、どんな支給要件が設けられているのか、詳しくは分からないという方もいるでしょう。今回は家族手当の概要と支給要件について解説していきます。
家族手当は企業が独自に定める福利厚生のひとつです。人事院が実施した2019年の職種別民間給与実態調査によれば、「家族制度手当制度がある」企業の割合は78%にものぼり、多くの企業で導入していることが分かります。
出典:民間給与の実態 2019年職種別民間給与実態調査の結果 人事院
一般的に、扶養している家族がいる社員に対し、家族の人数に応じて支給されます。扶養家族がいると、生活費や教育費など何かとお金が必要です。家族手当は「家族がいることでお金がかかる従業員を支援する」という趣旨の手当だといえるでしょう。
福利厚生は法律で実施が義務づけられているものではないため、家族手当がない企業も違法にはなりません。一方で、福利厚生は従業員の満足度や勤労意欲を高めるために設けられている仕組みなので、家族手当があれば従業員の満足度が高まり、よいパフォーマンスを発揮してくれる可能性があります。
家族手当も扶養手当も企業が独自に決めた名称に過ぎませんので、同じ意味の場合も、そうでない場合もあります。基本的には、家族手当の種類として「扶養手当」や「配偶者手当」があると考えればよいでしょう。
児童手当とは、中学校卒業までの児童を養育する方に対して支給される公的な手当であり、家族手当とは全く別ものです。金額は児童の年齢と人数(第何子か)によって変わりますが、月額1万円~1万5000円の範囲となり、お住まいの市区町村へ申請することで支給されます。
※出典:児童手当制度のご案内 内閣府
家族手当の有無や支給要件、金額等は企業によって異なります。社内ルールである就業規則にもとづき支給されますので、勤務先における家族手当の詳細は就業規則を確認する必要があります。ここでは、一般的なケースを例にとり、支給要件を確認してみましょう。
配偶者、子ども、両親が基本的な範囲となります。事実婚の配偶者や養子、配偶者の両親も含むケースが多いようです。企業によっては、健康保険における被扶養家族の範囲や、所得税における扶養親族の範囲まで対象を広げているケースがあります。
対象となる家族には収入制限が設けられるのが一般的です。家族手当の趣旨からして、自分の稼ぎで生活できる人に対して手当を支給する必要はないからです。配偶者控除の対象となる収入の103万円以下や、健康保険における被扶養者となる収入の130万円未満とするケースが多い傾向にあります。収入は対象家族の源泉徴収票や課税証明書、給与明細のコピーなどの提出によって確認されます。
年齢制限の多くは、就業できる年代を除くための制限です。子どもであれば高校卒業までの18歳や大学卒業までの22歳まで、親であれば定年後の60歳、65歳以降という制限が一般的でしょう。
また制限ではありませんが、「3歳未満の子どもを扶養している場合は増額」というように、年齢が低い子どもを育てる家庭への支援を厚くしている企業もあります。
同居を要件とするケースが一般的で、住民票などで確認されます。例外的に、従業員からの仕送りを受けて暮らす学生や老親については、「生計を同一にしている」とみなして条件を満たすケースがあります。
家族手当を導入する企業は多くありますが、支給要件を見直したり、廃止にしたりするケースも増えてきています。
典型的には、配偶者の分を見直すケースが増えています。大きな理由は、共働き世帯の増加により、配偶者自身が一定以上の収入を得ることが一般的になっているからです。その代わり、子育て支援として子どもへの手当を厚くする、親の介護をしている人への手当を厚くするといった変更を加えるケースがでてきています。
支給要件の見直しではなく、家族手当制度そのものを廃止するケースもあります。廃止する理由としては、社会全体として成果報酬主義の傾向が高まる中で、仕事の成果とは関係のない家族手当がなじまなくなっている点が挙げられます。条件を満たす家族を扶養してさえすれば支給される手当は、扶養家族がいない人へ不公平感をもたらしかねないでしょう。
家族手当の運用に関わっている立場の方は、自社の家族手当を見直し・廃止にする際には慎重な検討が必要となります。家族手当は就業規則にもとづき支給される手当であり、一方的な見直しや廃止は不利益変更となるからです。
見直しや廃止にする代わりに別の制度を導入する、経過措置期間を設けて段階的に減額していくなどしたうえで、従業員に納得してもらえるような丁寧な説明も大切になります。就業規則の内容変更をともなうため、労働基準法第90条にしたがって労働者代表の意見聴取をおこない、労働基準監督署へ届け出る必要もあります。
家族手当とは福利厚生の一環として、主には同居の扶養家族がいる人に対して支給される手当です。細かい支給要件は企業によって異なりますが、収入や年齢などで一定の制限を加えるという点はおおむね共通しています。時代の変化にともない、これまでの支給要件ではなじまないケースも増えてきていますが、変更や廃止をする場合には十分な配慮が必要です。