労務担当の年収相場はいくらで、転職して年収を上げられる可能性はどの程度あるのでしょうか。労務経験を活かした転職で年収を上げたい、労務へのキャリアチェンジをして今より年収を上げたいという方に向けて、労務の年収相場と年収が上がる要素について解説します。
前提として労務とは、企業経営に欠かせない「ヒト」「モノ」「カネ」の管理や活用などを行う部署である「管理部門」や「コーポレート部門」の部署の一つです。人事や経理、総務もこの管理部門に属しています。
中でも、労務は「ヒト」を担当しており、主に労働に関する事務処理や組織作りを通じて、従業員が安心して働きやすい企業づくりを行うという役割を持っています。
〈参考記事〉
労務の年収は企業規模や地域、経験年数等さまざまな要素に左右されるため一概にいうことはできませんが、ここでひとつの目安をご紹介します。下記は、労務の年収相場について求人情報や転職サイト等の情報を総合したものになります。
一般社員 | 350万~450万円 |
係長・課長クラス | 450万~700万円 |
部長クラス | 700万~900万円 |
一般社員で350万~450万円、係長・課長クラスは450万~700万円、部長クラスは700万~900万円が目安となります。
国税庁が発表した「令和5年分民間給与実態統計調査」によれば給与所得者の1人当たりの平均給与は460万円なので、労務の年収はおおむね平均的だといえます。他方、役職がつくと平均を大きく超えられる可能性があることが分かります。
上述の通り、労務の年収は様々な要素に左右されます。
労務担当者としての経験年数は、年収に大きな影響を与える要素のうちの一つです。
経験を積むことで専門知識やスキルが向上するだけでなく、より高度で責任のともなう業務に携わる機会が増えるでしょう。
労務の仕事は基本的に労務関連の管理や手続き業務がほとんどですが、経験を積むことで労働トラブルへの対応や労働組合との賃金交渉などの業務も任されることがあります。このように高度な知識や経験、交渉力などが問われる業務を行うことで、それに応じて年収も上がっていきます。
役職も年収を大きく左右する要因です。
一般社員にはじまり課長や部長クラスと昇進を重ねていくことで、責任とともに年収も高くなります。一般的な職種と同様に、管理職ポジションになることで、部下の指導やチームの業務進捗の確認などマネジメント業務も求められるため、その分年収も上がります。
また、勤務する企業の規模によっても年収は異なり、企業規模が大きくなるほど給与水準も基本的には上がっていきます。こちらも一般的な職種と同様ですが、大企業や外資系企業、首都圏に本社がある企業ほど経営基盤もしっかりしているため従業員に利益を還元しやすく、また優秀な人材確保のために年収が高く設定されていることが理由として挙げられます。
労務を含む管理部門は基本的にすべての企業に設置されていますが、業界によって年収は異なります。
例えば、IT業界やコンサルティング業界、金融業界などの利益率が高い業界では、全体の給与水準が高いこともあり、労務職の年収も高くなる傾向があります。一方、サービス業や飲食などの利益率が低い業界においては、管理部門のコストを抑えるという意味で労務の年収も低くなる傾向があります。
ここでは、管理部門の中でも、労務以外の他の部署と年収を比較してみましょう。
管理部門全体の平均年収 | 約395万円(賞与を含まず) |
経理 | 約450万円 |
人事・労務 | 約490万円 |
法務 | 約569万円 |
人事院の民間給与実態調査によると、管理部門の一般社員の平均年収は賞与を含まず約395万円で、人事・労務は約490万円でした。民間企業の従業員の平均年収は賞与を含み約433万円なので、賞与の有無を加味して考えれば管理部門の年収は低いとはいえないでしょう。
また、管理部門の中でも、法務のように担当分野のスペシャリストが多い部署の偏りもあります。資格所有者や経験が長く対応できる業務の幅が広い人であれば、給与は上がる傾向があるといえます。
〈参考記事〉
社労士は、労務の仕事と親和性が高い資格であり、労務としてのキャリアアップを目指す際に役立つ資格の一つです。
そんな社労士を実際に取得すると、年収はどれほど上がるのでしょうか。
前提として、社労士は社会保険労務士と言い、企業の「人材」に関する専門家で、人事・労務や社会保険などの各種保険について専門的に取り扱います。
社会保険労務士法に基づいた国家資格であり、労務のスペシャリストとして重宝されます。
そんな難関国家資格である社労士の年収は、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」によると平均約496万円、中央値では500万円です。
こうした数字だけ見ると、難関国家資格である一方「思っていたより年収が低い」という意見もあるかもしれません。ただ、ひとえに社労士といっても勤務形態や個人の経験値やスキルによっても年収に差が出てくる点に注意が必要です。
社労士の働き方として、事務所を開業する開業社労士と、社労士事務所や企業などに雇用されて働く勤務社労士が挙げられます。そのうち、社労士全体の8割以上が開業税理士であり、勤務社労士は2割程度になります。
開業することで営業力やマネジメント力を活かして高年収を実現することも可能ですが、場合によっては顧客がつかず、年収100万円程度になるケースもあります。こうした開業社労士の幅広い年収ケースを含んでいるため、社労士全体の平均年収は低く出ています。
ただ、今回のように、社労士を取得して企業の労務として働く勤務社労士だけの年収を考えた場合には、一般的な昇給ステップを重ねることで、安定した収入と年収アップを望めるでしょう。場合によっては800万円以上の年収の方もいます。
さらに、社労士を取得することで、労務業務のスペシャリストとしての位置づけが明確になるため、企業内での評価が高まります。また社労士には独占業務という社労士のみしか行えない業務もあり、取得することで対応できる業務の幅が広がります。そのため、企業全体のパフォーマンス向上への寄与や、経営陣からの信頼も高まるため、年収の上昇が見込めるといえるでしょう。
〈参考記事〉
では、労務として年収を上げるためにはどのような取り組みや視点が必要なのでしょうか。
ここでは、労務の年収をアップさせる4つのポイントをご紹介します。
まず、労務管理の業務において経験と実績を積むことが重要です。
労務の業務を遂行するには手続きや法令の知識が必要ですし、算定基礎届の提出、健康診断、年末調整など年に1回の業務も多数あるため、一人前になるのに少なくとも3年程度は必要となります。
こうした多岐にわたる業務に対応できる人材であれば、責任ある業務を任されたり、管理職への昇進につながることで、年収アップの可能性が上がるでしょう。
年収アップを目指すのであれば、労務管理以外の業務経験を積むことも重要です。
労務の中で事務作業を担当する場合、年収は平均的ですし、ある程度の段階で頭打ちになります。そのため、マネジメント経験を積んで昇進することで年収アップを目指せるでしょう。
ただし労務だけのマネジメントを任されるというよりは、一般的に人事や総務も含めて統括するケースが多いといえます。スタッフのマネジメントや業務改善のほか、労働組合対応、人事制度設計、総会運営といった経験があると管理職としての評価が上がり、年収アップにつながりやすいでしょう。
また、労務業務にとどまらず、経理や総務、人事など他の管理部門業務に関わることで、労務業務の枠を超えた企業への貢献が可能になります。そうすることで、年収が上がりやすい他の部署への異動や、より責任の重い業務を任され、年収アップを目指せるでしょう。
労務関連の資格を取得することでも年収アップを目指せるでしょう。
資格を取得することで専門的な知識の証明にもなり、行える業務の幅も広がります。そうすることで、社内での評価も上がり、給与の向上や昇進の機会につながるでしょう。
労務関連の資格の中で最も高い評価を得やすいのは、上述の社会保険労務士ですが、他にも労務管理士や衛生管理者など様々な資格があります。
詳しくは下記の記事でもご紹介しているのでご参考にしてみてください。
〈参考記事〉
労務として年収アップを目指すには、転職を選択することも有効な手段です。
現在勤めている企業で年収が頭打ちになっている場合や、経験を積んだり業務範囲を広げても年収が上がる見込みがない場合には、より高い年収を実現できる企業へ転職することもおすすめです。
これまでの経験やスキルを適切に評価してくれる企業や、給与水準の高い業界の企業などを選ぶことで、中長期的な年収アップにつながるでしょう。
転職で年収アップを目指すためには、いくつかのポイントをおさえて準備する必要があります。
具体的にどのようなポイントをおさえるべきなのか、業界特化の転職エージェントがここから解説していきます。
労務としての転職で年収を上げるには、実務経験があること、それも5年~10年以上の実務経験が求められます。
新卒入社であれば社員教育としてゼロから育ててもらえる環境があるかもしれませんが、多くの企業では中途採用の労務担当者をゼロから育てる余裕はありません。
したがって5年~10年以上の実務経験があれば即戦力としての採用に期待できるため、今よりも年収が高い企業へチャレンジすることが可能となります。
どの業種の転職でもいえますが、給与水準の高い業界や企業へ転職することも、年収を上げるための有効な戦略の一つです。
例えば、IT業界やヘルスケア業界など、継続的な需要が見込まれている業界においては、将来性も豊かなので年収水準のベースが高い傾向にあります。またこうした成長性のある業界や企業においては、事業拡大などにともなって今後も労務の需要が高まることが予想されます。重要な役割を担う機会も増えるため、キャリアアップにより年収増加が期待できるでしょう。
選考の過程においても十分対策を練る必要がありますが、特に志望動機を明確にすることが重要です。
上述のような給与水準の高い業界や企業に応募する人は多いため、転職の難易度は非常に高く、そんな選考を突破するためには労務への熱意や自身の強みをアピールすることが大切です。
志望動機の中で「なぜ労務を志望するのか」を明確にしながら、応募先の企業が労務に求めているものも盛り込み、自分の経験やスキルを活かしてどのように会社に貢献できるのかを明確に伝えましょう。
〈参考記事〉
労務として年収アップの転職を成功させるには、転職エージェントを活用することも一つの方法です。
特に労務をはじめとした管理部門に強い転職エージェントであれば、労務職の求人も豊富に取り扱っており、自身の希望にあった求人を見つけることができます。
また、転職のプロと選考対策をしっかり行い、自身の経験や強みをしっかりアピールすることで、給与条件の良い内定を獲得できる可能性が高まるでしょう。
ヒュープロでは、労務をはじめとした管理部門の方への人材紹介サービスを展開しております。
就職・転職活動にあたって、自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。そこで活用すべきなのが人材エージェントです。希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。また書類添削や面接対策といった選考準備に対しても、専任アドバイザーによるサポートが充実しています。
さらに、業界特化型エージェントにおいては、士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。
業界特化の転職エージェントを利用することで、ライバルと差別化を図ることができ、転職を有利に進めることが可能ですので、ぜひ検討してはいかがでしょうか。
将来に向けたキャリアパス・キャリアプランのご相談や、転職市場のご説明などももちろん可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
〈参考記事〉
株式会社ヒュープロでは、士業・管理部門に特化した転職エージェントサービス「ヒュープロ」を提供しております。
ここでは、ヒュープロで取り扱っている労務職の一部の求人をご紹介します。
・労務実務
勤怠管理・給与/賞与計算・年末調整/入退社手続き、労働/社会保険手続き/給付金申請、労務トラブル対応/安全衛生管理、顧問社労士との連携/就業規則・各種規程の運用
・チームマネジメント・進捗管理
チームの業務進捗管理、メンバーのサポート/脱属人化の仕組み作りと業務効率化/前例のない問題への意思決定や対応策の立案
・必須業務経験:労務に関する3年以上の実務経験/各種労働/社会保険に関する手続きの理解と経験
・歓迎業務経験:各種システムの使用経験(smartHR、MF給与、ジョブカン勤怠など)/第二種衛生管理者、防災管理者の資格をお持ちの方
600〜750万円
給与計算及び入退社・労務管理全般/他部門とのコミュニケーション施策協業
・必須業務経験:労務経験3年以上
・歓迎業務経験:秘書経験/労務経験
500〜700万円
労務管理・給与計算/労務問題対応/人事評価実施/人事労務部メンバーのマネジメント/労務管理・給与計算の効率化を進めるための企画業務(システム導入等)
・必須業務経験:労務の実務経験(自社以外の給与計算を行った経験をお持ちの方)/メンバーマネジメント経験
600〜1,000万円
労務は専門的な知識や経験が問われる仕事ですが、その年収は平均的だといえます。しかし実務経験が豊富でマネジメント経験があるなど一定の条件を満たす場合には高年収も可能です。労務の転職で年収を上げるには経験のアピールが重要となりますので、ご自身の経験を棚卸するところから始めてみましょう。経験が不足する場合は今の職場で経験を積む、資格を取得して知識を増やすといったことも必要です。