財務会計には情報提供機能と利害調整機能の2種類の機能があります。今回は情報提供機能ではなく、利害調整機能にフォーカスをあてて、利害調整機能とは何か、なぜ必要なのか、もしなかったら何が起こるのかなど具体事例を交えて説明していきます。
財務会計には2種類の機能がありますが、利害調整機能の前にまずは情報提供機能について知る必要があります。情報提供機能とは、読んで字のごとく、財務情報を提供する機能のことを言います。特に投資家に対する情報提供を想定しており、財務情報がなかったとしたら投資を実行することはできません。何の情報もなしに投資するとしたら、それは投資ではなく投機、ギャンブルと同じになってしまいます。
利害調整機能とは、こちらも意味が想像しやすいかと思いますが、利害対立が起こった場合にその利害を調整する機能のことを言います。
例えば企業が稼いできた利益は役員報酬、従業員給与など社内に関する人に配分されるだけでなく、借入金利息、株主への配当、税金など様々な外部関係者にも配分されます。そのため、多数の利害関係者が納得するように配分を定める必要があり、財務会計なくしてはこの調整はなしえません。具体的な利害対立の事例を元に詳細を見ていきましょう。
企業と国が利害対立しているとはあまり想像がつかないかもしれません。しかし、実際のところ、企業は稼いできた利益を法人税など税金として国に納めています。もし財務会計がなければ、税金の計算をすることができず、できれば税金を払いたくない企業と、できるだけ多くの税金を納めてほしい国との溝が埋まることはありません。
そのため、財務会計というきちんとしたルールに沿って財務諸表や税務申告書の作成が求められているのです。仮にルールを逸脱して、企業が脱税したとしたら国は企業に対して処分を課さなければなりません。
株主は企業に出資し配当や売却益などのリターンを期待して投資をしています。株主自体はその企業の経営をすることはできませんので、取締役として経営者へ経営を委任し、その取締役が経営を行います。これを所有と経営の分離といいます。
経営者は株主から経営の仕事を受託し、その使命を全うしなければなりません。不誠実に経営をしていたとしたら株主から善管注意義務違反などで訴えられてしまいます。
一方で、経営者も人の子ですので、例えば、自分の役員報酬が最大化されるように調整を行う、自分の兄弟が経営している会社に相見積を取らずに発注するといった事をしてしまうかもしれません。経営者はオーナー経営者でなければ、企業に利益がどんどんたまっていっても自分にはなかなか還元しないこともあるのです。
そのため、経営者に有利なように経営されてしまう場合がある点と、株主は企業に利益を残して配当などのリターンを求めてくる点で利害対立が生じます。財務会計の利害調整機能によって、きちんとしたルールに基づき所有と経営の分離が実現されているのです。
債権者は企業に対して貸付を行い、利子と元本を回収することで利益を得ることができます。その返済原資は企業が稼いできた利益です。一方、株主の立場からすると稼いできた利益は当然にどんどん自分たちに配当して欲しいと考えます。株主への配当が多くなればなるほど、会社の財政状態は悪化し、借入金をきちんと返済できる確率は下がっていきます。
そのため、債権者と株主は根本的に利害が対立していると言えるでしょう。具体的には債権者は利益を内部留保して財務状態を改善して欲しいと考え、株主は利益の内部留保などせずにどんどん配当して欲しいのです。そこで、財務会計は配当可能ルールを定めており、計算された限度額以上は配当できないというルールを定めているのです。このルールにより、債権者と株主の利害がきちんと調整されています。
国と企業、株主と経営者、債権者と株主という典型的な3種類の利害対立を説明してきました。ここで、仮に財務会計がなかったとしたらどうなっていたでしょうか。税金をきちんと計算することはできず、国は税金を徴収することはできません。ルールがなければ寄付として税金を納めたいという人は少ないからです。また、株式会社という形式も成り立ちません。
いったん投資してしまえば経営者は自らの懐にお金を流してしまうかもしれず、所有の経営の分離を図ることはできません。また、銀行なども企業にお金を貸し付けることは難しいでしょう。お金を貸してしまえば最後、株主に貸付金の全額を配当してしまうかもしれません。
以上のように、財務会計の利害調整機能なくしては、現在の株式会社を中心としたビジネスはまったく機能しないことが分かるでしょう。財務会計の利害調整機能とは、普段はあまり意識することはありませんが、ビジネスの根本をなす大事な概念なのです。
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