「監査対応業務」と聞いて身構えてしまった経理部責任者のあなた!この記事を読んでみてください。この記事では、元監査法人勤務で、現在事業会社勤務の現役公認会計士が、経理部責任者が知っておくべき&気をつけるべき監査対応業務のポイントを、実際の具体例も挙げながら、ご紹介していきます。
経理部の仕事は外部の取引先とやりとりする機会は少ないかと思います。あったとしても形式的だったり身構える必要があったり、どうもネガティブになりがちかもしれません。代表的なものが「公認会計士」であり、その集団である「監査法人」でしょう。
監査法人の担当者から連絡が来たら、会議室を抑えたり、資料を整理して準備したり、関連部署の打合せ日程を抑えたり・・・大変ですよね。元監査法人勤務の筆者として心から御礼申し上げます。
今回は、なぜ監査が必要なのか、監査とはどう向き合っていけばいいのか、会社側と監査法人側双方を経験した筆者として見解を申し上げたいと思います。
監査を端的に申し上げると、会社の作成した財務数値が適切か、作成者以外の立場である監査法人等がチェックすることです。監査法人が行うものは社外の組織が行うので外部監査ですが、それ以外にも社内の内部監査室等が行う内部監査もあります。
監査業務は多種多様であり、取引先や会計基準の動向に応じて柔軟に行われます。よくあるイメージとしては、社内の帳票類(たとえば請求書)や稟議書を査閲したり、経理担当者や時には営業担当者にヒアリングしたり、会計処理の考え方を経理部長とディスカッションしたり、といったところです。
なお、似て非なるものとして税務調査があります。これは目的が異なります。会社が正しく財務数値を作成することそのものではなく、正しく納税しているか確かめるものです。主体も監査法人ではなく税務署となります。
基本的には①法律で必要とされている、②それ以外の会社のニーズ、の2パターンです。
まず①は、金融商品取引法や会社法に基づくものです。簡単に言えば、上場しているから正しく財務数値を作成して監査法人からのお墨付きをもらった上で公表しなさい、ということです。このお墨付きを与えるのが公認会計士です。この法定監査は公認会計士のみが実施できる独占業務です。
②は様々ですが、たとえば将来的に上場を目指しているから、監査で色々指摘を受けながら徐々に正しく財務数値を作れるようになりたい、といった会社の依頼に基づくものです。極端に言えば、会社のニーズが満たされるのであれば監査法人でなくてもよいわけです。
上記の「監査が法律で必要とされている企業」について、もう少し詳しく見ていきましょう。対象企業は、以下の通りです。
大企業かどうかについては、きちんとした定義があります。それが「最終事業年度に係る貸借対照表で、資本金が5億円以上または負債の部の合計額が200億円以上である株式会社」です。
このような企業に監査が義務付けられているのは、大企業の経営数値は社会全体への影響が大きく、そのような数値は正確でなければならないからです。
取締役3名以上(過半数は社外取締役)でつくる監査等委員会が取締役の業務執行を監査する株式会社のことを、監査等委員会設置会社と呼び、監査を義務付けられています。
監査等委員会設置会社は、その企業の経営者や役員に対する監督機能を強化し、意思決定の透明性を担保することで、外資系企業や投資家からの理解を得るためにこの制度を導入しています。
会計監査人を設置するかどうかは任意ですが、設置した場合は監査を義務づけられます。
会計監査人の任意設置についても、会社の透明性・健全性のアピールや、不正の早期発見に資する役割が期待されます。
監査対応は、当然ですが監査当日だけで済むような仕事ではありません。円滑に監査が実施されるよう、事前に書類などを準備しておくことが大切です。
具体的には以下のような書類を用意する必要があります。監査対応に初めて対応するという方などは、下記をチェックリストとして活用するのもよいでしょう。
もちろん、監査対応の担当者はただ書類を用意するだけではなく、これらの内容について理解しておかなければなりません。会計監査人(外部監査を行う公認会計士)から質問をされることもあるため、どのような書類で、どのような根拠でその数値が記載されているのか、把握しておく必要があるのです。
必要な書類や資料がそろっていない場合は、追加で監査を実施されなければならず、その場合は費用が発生することになりますので、注意しましょう。
そしてもう一点気をつけなければならないのが、最新の会計基準への対応です。会計基準やそれを取り巻く法律の改正やアップデートは頻繁に行われるため、それに対応した適切な処理が求められます。
担当者側でキャッチアップできていない改正や対応できない処理がある場合も考えられるため、会計処理について事前に担当の監査法人や公認会計士に相談しておくと、監査がスムーズに進んでいくでしょう。
上記のような監査を受ける企業の担当者(基本的には経理部や管理部)が、監査を受けるにあたって必要な情報や資料を用意しておくことを監査対応と呼びます。
監査が実施されるのは1年に1回。頻度の少なさだけでなく業務の難易度の高さも相まって、なかなか監査対応を円滑に行える担当者は多くありません。それでは、監査対応ではどのような点に注意すべきなのか、見ていきましょう。
最初に申し上げたいのが、監査法人は敵ではありません。あら捜しをするために来ているわけではないですし、会計処理の相談をすればできる限りのアドバイスはするはずです。
ただし、嫌なところをついてくるという感覚は持つかもしれません。監査法人は、基本的に会社が財務数値を間違って作成しそうなところにポイントを絞ってチェックします。新しい会計基準であったり、会計処理が複雑であったりするところです。
このため、監査対応という点からは、財務数値全体におけるウェイトが大きく、かつ処理が難しいところを中心に情報を整理しておくことが必要です。事前に監査法人と協議を重ねて「ネタ」を潰しておくことが効率的です。
監査調書とは、監査法人が実施した監査手続の内容や結果を記録する資料です。膨大な量のスプレッドシートや文書データをイメージしてもらえばよいです。
監査法人の担当者が様々な監査手続の結果を監査調書として残し、上位者がそれを確認して追加手続を行ったり,監査全体の判断を行う上で参考としたりします。また、この監査調書は監査法人が適切に監査業務を行っているか、公認会計士協会等の当局がチェックする際の基礎にもなります。
というわけで、監査法人が監査調書に記載しやすい情報を話せば監査対応もスムーズに進み、Win-Winになるはずです。具体的には、会計処理の考え方や業務プロセスについて、いわゆる5W1Hを明らかにしておき、かつ定量的な情報も織り込むとよいでしょう。
上記のポイントとつながる点もありますが、監査対応をする上での基本姿勢としてやってはいけないことがいくつかあります。とはいえ、至極当たり前のことです。
何を当然のことをと思うかもしれませんが、残念ながら嘘をつく方はいます。認識誤りという意味での嘘もありますし、意図的な嘘もあります。
教科書的な発言に聞こえるかもしれませんが、嘘の多くは判明してしまいます。監査法人は財務数値の嘘を見抜くという点ではかなり手練れです。危険な橋を渡るよりも、監査法人には必要な範囲で素直に話し、正確なデータを提供するようにしましょう。
監査法人の前で張り切って必要以上にペラペラしゃべると、思わぬ地雷を踏んでしまうことがあります。基本的には質問に対して必要十分に回答するだけでよいです。
なお、「昔からこうやっていたからこういう処理をしています」という発言もご留意ください。いわゆる継続適用の観点からは問題ないのですが、会計基準や会計処理は時代に応じ見直されるため、十分な回答にはならないこともあります。<span class=’highlight’>機械的に過去の処理を踏襲しているだけ</span>、と判断されてしまう可能性があるのです。
監査法人は会計のことには詳しいものの、あくまで外部の人間です。業界の内情までは詳しくないのが基本です。社内会議では当然の前提となって省略されている用語や過去の出来事について、監査法人は意外と知らないことがあります。別の業界に就職した学生時代の友人に話すくらいにかみ砕いて説明してあげると、ヒアリングもスムーズに進むでしょう。
上記のように、監査対応は手間がかかるというのが実際のところです。ただし、せっかく外部から会計のプロが来ているのですし、利用できる点は利用しましょう。
監査法人は会計のプロです。また、クライアントに正しい会計処理をしてほしいと思っています。というわけで、先で触れたように会計処理についてはどんどん質問・相談すればよいです。特に最新の会計基準の他社事例や監査法人としての見解は参考になるはずです。
ただし、幅広い内容を相談し過ぎると監査とは別で契約を提示されるかもしれないのでお気を付けください。
監査法人の講評等を社内の改善活動に利用するということです。通常、コストセンターである経理部門が営業部門等に改善の申し入れをしても、後回しにされることが多いかもしれません。
監査法人から要改善事項として申し入れがされたという事実を作れば、ほぼ確実にフォローアップされるので、「錦の御旗」として利用することができると考えられます。これも監査法人をうまく活用しているといえるでしょう。
監査対応は、経理業務の中でもかなり難易度の高い業務の一つとされています。経理業務は日次業務・月次業務・年次業務の3つに分かれており、その中でも年次業務が最も高度とされていますが、監査対応も年に1回行われるため、年次業務の中に含まれています。
「監査本体は公認会計士がやってくれるし、資料を用意すればいい監査対応業務はそんなに難しくないのでは?」と思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことは全くありません。監査のプロである公認会計士に対して、分かりやすくかつ正確に業務を遂行しなければなりません。
そのために、極端に言えばその企業の経理や会計については全て把握していなければならないのです。会計監査人もそのつもりで確認や質問をしてくるので、スムーズな監査対応には必須の条件ともいえます。
それだけレベルの高い業務である監査対応ができる担当者は当然、市場的価値も高いといえます。もし転職を検討する場合などでも、監査が義務化されている大企業を中心に幅広い企業から自分にマッチした転職先を選ぶことができるでしょう。
また、監査対応の経験を活かして監査法人に転職というキャリアプランも選べるでしょう。