近年「固定残業代」を導入する企業が増えてきています。「固定残業代」とは、その名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。
しかし、その内容が正しく理解されていないためにトラブルを招きやすい制度でもあります。そこで、本記事では求人票を見る時にぜひ気をつけてほしい「固定残業代」について詳しく説明します。
固定残業制(定額残業制・一律残業制・みなし残業制など)とは、実際に残業したか否かにかかわらず、毎月、一定時間の残業等(時間外・深夜・休日労働など)の割増賃金を支払うものを指します。
一定時間分の時間外労働に対する割増料金分を、あらかじめ給与や手当に含めるなどの方法で支払っておくのです。
例えば「営業手当は、月間10時間分の時間外手当を含む」とか「日給は、1日1時間分の時間外労働割増賃金を含めて1日1万円とする」といった賃金の定め方が該当します。
これは、「一定時間」というのが重要で、定めた一定時間を超えた分は残業代の支払いが生じます。例えば20時間分の固定残業代を支払っていた場合は、20時間を超えた残業を行ったらその分については、企業は残業代を支払うことになるのです。
逆に言うと、あらかじめ20時間分の固定残業代がついている場合は、仮に残業が10時間だったとしても、20時間分の残業代が支給されるので、効率的に業務をこなせば労働者にとってはお得な制度といえます。
固定残業代を適法に導入するためには、就業規則や賃金規程など会社の労働・賃金を決める決まりごとにおいて、その内容を明確に定めることが必要です。ブラック企業は、固定残業代を「基本給の中に割増賃金を含む」と提示している場合が往々にしてありますが、賃金規程にその旨が定められていない場合や、その割増賃金の額がいくらなのか不明確な場合には、その定義自体が根本的におかしいのです。
よくあるのが、営業手当や職務手当というような手当を固定残業代として定めることで「固定残業代なので、あらかじめ残業代は支払っている」というパターン。
もしくは、あらかじめ定めた時間を明示せず、本来であれば「●時間分の固定残業代」という定義であるものを「何時間残業しても残業代は固定」という拡大解釈を行い、結果的に固定残業代の対象となる時間を超えるサービス残業を強要するケースです。
さらにいわゆる営業手当などの業務手当や職務手当を残業代と偽るケースです。会社やその業務によって呼び名は異なりますが、業務手当や職務手当は、あくまで通常の労働に対する対価です。
つまり、いくら企業が賃金規程に定めたといっても、もともとも支給要件が残業に対する対価ではないので、これらの手当を残業代に替えることはできません。
また、固定残業代の額は労働基準法の最低賃金を下回ることはできません。例えば固定残業代を20時間分2万円としている企業があった場合、時給換算すると1000円になります。しかし、東京都の最低賃金は2019年10月1日より1013円となっていますので、20260円を下回る場合は違法なのです。企業の所在地によっても考える必要があります。
しかし、いわゆるブラック企業と呼ばれる企業においては、こうした原則が守られずに、残業代の未払いが横行していた現実があります。
そこで2017年に厚生労働省から基発0731第27号「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」が初出され、固定残業代に対する解釈について具体的な明示が行われたのです。
厚生労働省、都道府県労働局、ハローワークでは。固定残業代制を採用する企業について、以下の項目を募集要項や求人票などにすべて明示するように指導を行っています。
例えば時間外労働について固定残業代制を採用している場合は以下のような記載内容になるべきなのです。
あらかじめ固定残業代を含む金額を記載し、基本給が多くなるように見せかけるのも、固定残業代しか支給せず、それを超えた差額賃金を支給しないのもどちらも違法です。
「固定残業代があるから、何時間働いても残業代は一定」ではありません。しかし、会社側も労働者側もそれが当然だと認識しているケースは多く存在します。
まずは、前項のような募集広告を出している会社は、ブラック企業である確率が高いので避けるべきでしょう。
「働き方改革」により労働時間の適切な管理や、残業時間の上限規制が2020年4月より全ての企業で始まりますが、固定残業代を含む給与で表示しているような企業は、そもそもの労働時間の記録を労働安全衛生管理の観点ではなく、給与計算のためと考えており、適切に運用することは考えづらいです。
決して悪意があるわけではなく、単にリテラシーが低い企業ということも考えられますが、そうした企業にあえて転職する意味もないでしょう。
いずれにおいても、固定残業代を導入しているからといって、その定めた時間を超えた分の残業代を支払わないのは違法なので、会社を訴えて遡及支払いを求めれば、勝訴することは十分可能ですが、あえてリスクを取る必要もないので、転職時には給与や手当面を明確に表示するホワイト企業を選ぶ事がなによりも重要です。